蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

先日の5日の昼頃、津原泰水氏が今月の2日に亡くなっていたことをSNSで知った。 津原泰水という作家の作品について、僕が初めて触れたのは『ルピナス探偵団の当惑』だった。ミステリ読みなので、密室につられて読んだのだ。読んだ当時は、そこまで惹かれたわ…

G.K.チェスタトン『ブラウン神父の秘密』

シリーズ第四集。ここからは未読なので、そういう意味でも楽しみ。 これまでの感想はこちら kamiyamautou.hatenablog.com kamiyamautou.hatenablog.com kamiyamautou.hatenablog.com 「ブラウン神父の秘密」 第三集では姿を消していたブラウン神父の相棒、フ…

白井智之『名探偵のいけにえ』

白井智之によるホラー映画タイトルシリーズ(?)の第二弾。本作は、新興宗教という特殊な場を舞台にしているが、著者お得意のグロ系特殊設定や前作『名探偵のはらわた』のような超自然的な要素は特になく、あくまで読者の現実に近い範囲での本格ミステリと…

G.K.チュエスタトン『ブラウン神父の不信』

シリーズ第三集。ここまでは旧訳で読んだことがある。第二集が一九一四年発行で、今作は一九二六年と、実に十二年ぶりの作品集ということになる。第一次世界大戦後の作品集というのもなかなか気になるところ。 収録作については、これまで十二作ほどあったの…

ミステリ感想まとめ7

読了ミステリがたまっていたので、まとめて感想。だいぶ昔に読んだやつとか、書かないとどんどん忘れていくので、結構あいまいになっている。なるべくネガ評は避けたいが、合わないところは合わないという風に書いている。 聖者のかけら 作者:愛, 川添 新潮…

中町信『死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection)田沢湖からの手紙』

正式タイトルはなかなか長い。メインタイトルは『追憶(recollection)田沢湖からの手紙』で、死の湖畔――以下略)三部作の第一作という意味。旧題は『田沢湖殺人事件』。 中町信を読むのは、『模倣の殺意』以来、二作目。結構登場人物が多いが、それらもどん…

そういえば、最近映画の感想を書いてないっぽいので、備忘録的な感じで短く。 『アイデンティティー』(2003) ジェームズ・マンゴールド 監督 『ローガン』や『フォードVSフェラーリ』、そして『インディ・ジョーンズ5』の公開も控えているジェームズ・マ…

G.K.チェスタトン『ブラウン神父の知恵』

ブラウン神父シリーズの第二集。 第一集『ブラウン神父の童心』の感想はこちら kamiyamautou.hatenablog.com 「グラス氏の失踪」 若い女性から付き合っている青年の様子がおかしいと依頼を受ける神父。彼の部屋へ向かうとロープでグルグル巻きのうえ、あたり…

ディック・フランシス『興奮』

競走馬をモチーフにした某携帯アプリゲームをチマチマ頑張っている昨今、なんとなく敬遠していた大人気シリーズに手を出してみようという気分になった。 ディック・フランシスの競馬ミステリシリーズといえば、かつてその二文字タイトルが本屋の棚にずらっと…

愛と正義をもって読者をつらぬく物語:東崎惟子『竜殺しのブリュンヒルド』

物語の結末を暗示するような感想なので、なんの前知識を入れたくない人は読まない方がいい。 なんかライトノベル読みたいなあ、みたいな軽い気持ちで手を出し、結構だらだら読んでいたのだが、中盤すぎてから加速的に引き込まれて最後は、まるで槍のような一…

G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

いくら自分の聖書を読んだところで、あらゆる他人の聖書を読んでみないかぎり、なんの役にも立たぬ―― 「折れた剣」より ブラウン神父って、なんか読みにくいなあーというのも少しあり、旧訳で第三集の不信ぐらいまでしか読んでなくて、せっかく新訳出てるし…

泡坂妻夫『煙の殺意』

泡坂妻夫の短編集を一つ選べと言われれば、基本選びきれないのではあるが、泡坂妻夫を知らない人に一冊勧めたいとしたら、そのミステリの魅力が凝縮したこれをまずはお勧めしたい。どれも高品質な短編で泡坂妻夫の短編と言えば、と挙がる短編も多い。という…

ツカサ『中学生の従妹と、海の見える喫茶店で』

タイトルがなんというか、なんというかなタイトルだが、とてもよかったので。 てか、そもそもラノベをあんまり読まなくなって、そのなかでも普段自分が手を出さないタイプの(というか、普通小説でも手を出さない)物語だが、読んでみるととてもよくできたシ…

友川カズキトリオ LIVE AT APIA40

2022年に入ってから友川カズキのライブを自分が聞くの、これが初めてかな。 友川さんは、顔面神経痛もあって、長らくライブ自体がなくて、今年に入ってからようやく、ライブを再開した感じだけど、今年もコロナの影響は響いているようだ。自分も、友川さんの…

中西鼎『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』

青春の死体を見せてあげましょう Impression 過ぎ去ったはずの青春、その残り香としての彼女。しかし、彼は彼女と触れ合っているうちに気がつく。青春は過ぎ去ったのではなく、自分はそこに取り残されてしまったのだと。これはそんな青春に本当の意味で別れ…

描かれないことが、物語を黙示する:多島斗志之『クリスマス黙示録』

多島斗志之、実は初めて読みました。『黒百合』や『不思議島』で名を聞いていた作家ではあったのですが、積読ばかりで読んでませんでした。 今回、裏ベストと言われる本作から入るのはどうなんだという気もしつつ、裏ベストという言葉にひかれて読んでみたの…

伴名錬『百年文通』

百年文通 作者:伴名 練 一迅社 Amazon Impression 本作は「コミック百合姫」2021年1~12月号掲載の表紙小説として連載されたものをまとめたものだ。 ある邸宅に残されていた机の抽斗を介して、現代と大正の少女たちが百年の時を超えて手紙を交わし合うとい…

特撮におけるフィニッシング・ストローク:『狙われた街』を見たあの日

前身のブログに書いた記事を改稿して再掲。シン・ウルトラマン観たし、せっかくだから再利用。資源ゴミは大切にしないとね。……ウルトラマンの話じゃないけど。 フィニッシング・ストローク、という言葉はミステリでよく使われる言葉で、最後の一撃という意味…

ミステリ感想まとめ6

読んで感想がなかなか書けないわけで、結構たまっていた感想をなんとかまとめてがさっと。そもそもがテーマだ切り口だと気を張るから書けなくなるわけで、そんなの気にせずにとりあえず思ったこと短く書けばいいとは思う。 模倣の殺意 (創元推理文庫) 作者:…

西澤保彦『幻視時代』

幻視時代 (中公文庫) 作者:西澤保彦 中央公論新社 Amazon 西澤保彦の真骨頂といえば、その意外な構図を明らかにする論理性、そして本書の解説で大矢博子氏が述べているように、動機ということになる。特に、西澤作品の動機は、犯人を始めとした人間の負の側…

マイケル・イネス『ある詩人への挽歌』

ある詩人への挽歌 (創元推理文庫 M イ 1-2) 作者:マイケル・イネス 東京創元社 Amazon マイケル・イネスといえば、ニコラス・ブレイクやヘレン・マクロイなんかと一緒にカーやクリスティ、クイーンの後継世代みたいな感じで、新本格とかつて言われていて、そ…

都市より生まれし者たち:映画『THE BATTMAN』

ちょっといまさら感あるけど、ようやく書けたので。 ※時間たってるし、観てる人は観てるだろうから――ちょっとネタバレありな感じです。 『THE BATTMAN』――『ザ・バットマン』は、スーパーマンに並ぶアメリカ最古参のヒーローの一人であるバットマンの新たな…

アレンジの巧さが光る:映画『ヒルコ/妖怪ハンター』

本作は、諸星大二郎の人気作の一つで、稗田礼次郎を狂言回しにした連作シリーズ、妖怪ハンターの「黒い探究者」「赤い唇」を下敷きにした映画化作品だ。 主演は沢田研二。監督はサイバーパンクで暴力と愛を世界にたたきつけた『鉄男』の塚本晋也。この映画は…

書きかけのなにか。

改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫) 作者:島田荘司 講談社 Amazon 『水晶のピラミッド』や『アトポス』を再読する余力がないし、その他諸々でたぶん書かないと思うので。もしかしたら、『魔人の遊戯』『ネジ式ザゼツキー』『摩天楼の怪人』について…

笹沢左保『突然の明日』感想

「いちばん恐ろしいのは、明日という日だな」 トクマの特選!による笹沢左保の名作発掘レーベル、有栖川有栖選 必読!Selectionの第三弾。平凡ともいえる家族の団欒にのぼった奇妙な人間消失の話。そして、そこから急直下、訪れる日常の崩壊。同じ明日が来る…

猥雑の中の哀切:嵯峨島昭『踊り子殺人事件』

※特にネタバレはしていないつもりです。 宇能鴻一郎という芥川賞作家にして著名なポルノ作家という存在を、ぼくは特に知らなかった。しかし、うすぼんやりとは意識するようにはなっていた。彼はミステリを書いていたからだ。そして、奇しくも彼が亡くなる直…

世間では猫の日だ、いや2022の2月22日で超猫の日だ、とやっているそばで、東欧で満州事変まがいの事態が起き、なにか世界にとって決定的なことが起こりそうになっている中、私自身は去年投稿した小説の結果の受け、どんよりとしている。 12月31日の記事に少…

『ゴーストバスターズ』2016年版について、一応書いておくが、これは今公開されている「アフターライフ」に対する2016年を称揚する一部からの「攻撃」についても書いていくため、2016年版にある「問題点」にも触れていくことになる。あまり愉快なことにはな…

夏に観たかった娯楽大作:映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』

Introdaction 60年代後半から70年代前半のアメリカンニューシネマの時代が終わり、『ロッキー』をはじめ、『ジョーズ』、そして『スターウォーズ』、といった新しい才能たちが作り上げる新しい大衆娯楽映画の狼煙が上がる。そして、80年代にその「娯楽」は爆…

架神恭介『仁義なきキリスト教史』

「おやっさん、おやっさん、なんでワシを見捨てたんじゃ〜!」 ユダヤ組の中に突如現れた一人の侠客――イエスの断末魔であった。このキリストを名乗ったやくざ者の死が、これより始まる世界的任侠団体、キリスト組の血みどろの闘争――その歴史の始まりであった…