蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

小説:幻想

モノトーンの幻影:ブッツァーティ『神を見た犬』

つまり、私たちが書き続ける小説や、画家が描く絵、音楽家が作る曲といった、きみの言う理解しがたく無益な、狂気の産物こそが、人類の到達点をしるすものであることに変わりなく、まぎれもない旗印なんだ。 このうえもなく無益だろうとかまわない。いや、む…

誰かの物語が私という物語を作る:エリック・マコーマック『パラダイス・モーテル』

初マコーマック。全編これ奇譚という感じのエピソードが横溢していて、とても良かった。そして物語というものを巡る物語というか、そんな構造の物語であり、それが急に雲散霧消してしまうその作者の騙りというか、書きぶりにも唸らされる作品でした。 なんと…

魂の行方:筒城灯士郎『世界樹の棺』

恋を成就させたいのに自ら失恋に向かっていく人も……世の中にはいると思うんです。 今年の本格ミステリで一番好きかもしれない。そんな作品に出会えました。まあ、なんというか波長が合う、完全に好みに合致した感じなので、広く勧められるかというと、ちょっ…

私はどこにもいない:アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』

ここには愛はない。憎しみもない。感情が堆積していく、いかなる結節点もない。 「終わりはない」 アンナ・カヴァンは初めてだった。しかし、その言葉たちは初めてではない、そんな気がした。 この作品集に収められたものたちは、どれもとても短い短編や掌編…

真っ白な牢獄:倉野憲比古『スノウブラインド』

ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授。その邸宅は蝙蝠館と呼ばれ、軽井沢近郊の狗神窪と呼ばれる小さな窪地に佇んでいた。そこはかつて住人が野獣と化したという奇妙な伝説が残る土地。12月、そこへ毎年の恒例として招待される教授のゼミ生たち。携帯の…

透明感のある幻想:オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫) 作者: オブライエン 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2014/11/21 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る フィッツ・ジェイムズ・オブライエン。彼はなかなか破天荒な一生を送った作家で、ア…

ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』

竜のグリオールに絵を描いた男 (竹書房文庫) 作者: ルーシャス・シェパード,内田昌之 出版社/メーカー: 竹書房 発売日: 2018/08/30 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る 全長一マイルにも及ぶ巨大な竜グリオール。かつて魔術師によってその動…

幻想が溶けた後に残るモノ 戸川昌子『緋の堕胎』

緋の堕胎 (ちくま文庫) 作者: 戸川昌子,日下三蔵 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/10/11 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 戸川昌子という作家についていえば、歴代一の激戦と言われた第八回の江戸川乱歩賞において、あの『虚無への供物』…

煙草と霧と放射能:島田荘司『ゴーグル男の怪』

ゴーグル男の怪 (新潮文庫) 作者: 島田荘司 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/02/28 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る とりあえず結論から言うと『ゴーグル男の怪』は幻想小説の傑作である。著者だから書き得た異形の幻想ミステリとい…