蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

小説:幻想

そこにいたのは人か魔か:倉野憲比古『弔い月の下にて』

弔い月の下にて 作者:倉野憲比古 行舟文化 Amazon Impression 変格探偵小説という言葉がある。HONKAKU――本格ミステリが海外において日本独自の推理小説を語る言葉として「発見」される以前の探偵小説に、それはあった――黒岩涙香、江戸川乱歩、大下宇宇陀留に…

欲望という名の魔法:ジャスパー・フォード『最後の竜殺し』

久々に面白いというか、好きな世界設定のファンタジーを読んだ気がする。 魔法があり、魔術師がいてドラゴンがいるという古典的な要素を現代的な世界に持ち込んでいるのだが、それらが上位の存在として社会に君臨しているのではなく、衰退したものとして過去…

モノトーンの幻影:ブッツァーティ『神を見た犬』

つまり、私たちが書き続ける小説や、画家が描く絵、音楽家が作る曲といった、きみの言う理解しがたく無益な、狂気の産物こそが、人類の到達点をしるすものであることに変わりなく、まぎれもない旗印なんだ。 このうえもなく無益だろうとかまわない。いや、む…

誰かの物語が私という物語を作る:エリック・マコーマック『パラダイス・モーテル』

初マコーマック。全編これ奇譚という感じのエピソードが横溢していて、とても良かった。そして物語というものを巡る物語というか、そんな構造の物語であり、それが急に雲散霧消してしまうその作者の騙りというか、書きぶりにも唸らされる作品でした。 なんと…

魂の行方:筒城灯士郎『世界樹の棺』

恋を成就させたいのに自ら失恋に向かっていく人も……世の中にはいると思うんです。 今年の本格ミステリで一番好きかもしれない。そんな作品に出会えました。まあ、なんというか波長が合う、完全に好みに合致した感じなので、広く勧められるかというと、ちょっ…

私はどこにもいない:アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』

ここには愛はない。憎しみもない。感情が堆積していく、いかなる結節点もない。 「終わりはない」 アンナ・カヴァンは初めてだった。しかし、その言葉たちは初めてではない、そんな気がした。 この作品集に収められたものたちは、どれもとても短い短編や掌編…

真っ白な牢獄:倉野憲比古『スノウブラインド』

スノウブラインド (文春e-book) 作者:倉野 憲比古 発売日: 2020/07/31 メディア: Kindle版 ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授。その邸宅は蝙蝠館と呼ばれ、軽井沢近郊の狗神窪と呼ばれる小さな窪地に佇んでいた。そこはかつて住人が野獣と化したという…

透明感のある幻想:オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫) 作者: オブライエン 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2014/11/21 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る フィッツ・ジェイムズ・オブライエン。彼はなかなか破天荒な一生を送った作家で、ア…

ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』

竜のグリオールに絵を描いた男 (竹書房文庫) 作者: ルーシャス・シェパード,内田昌之 出版社/メーカー: 竹書房 発売日: 2018/08/30 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (3件) を見る 全長一マイルにも及ぶ巨大な竜グリオール。かつて魔術師によってその動…

幻想が溶けた後に残るモノ 戸川昌子『緋の堕胎』

緋の堕胎 (ちくま文庫) 作者: 戸川昌子,日下三蔵 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/10/11 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 戸川昌子という作家についていえば、歴代一の激戦と言われた第八回の江戸川乱歩賞において、あの『虚無への供物』…

煙草と霧と放射能:島田荘司『ゴーグル男の怪』

ゴーグル男の怪 (新潮文庫) 作者: 島田荘司 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/02/28 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る とりあえず結論から言うと『ゴーグル男の怪』は幻想小説の傑作である。著者だから書き得た異形の幻想ミステリとい…