蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

書きかけのなにか。

 

 

 『水晶のピラミッド』や『アトポス』を再読する余力がないし、その他諸々でたぶん書かないと思うので。もしかしたら、『魔人の遊戯』『ネジ式ザゼツキー』『摩天楼の怪人』については書くかもしれないし、書いてもネットには流さないかもしれない。『ハリウッドサーティフィケート』や『星籠の海』から、陰謀論への親和性を探ることもできそうだが、それもあまり意味のあるものにならないだろう。

 とりあえず、書きかけを投げておく。

 

 ――何というか、たいていは奇妙な謎をいわゆる「現実的」な方法で達成しようとするのに対し、島田荘司の場合は彼の奇想――そのイメージを達成する方法は、やはりどこか奇妙ともいえる方法なのだ。ある意味、奇想が「現実」を歪ませているような。それはわかりやすいところで言えば、奇妙な偶然。この作品も奇妙な偶然の連鎖が奇想を支えている。

 いってしまえば島田荘司の奇想とは、それ自体が奇妙な現実に支えられている。奇抜な事実だからこそ奇抜な現象が現れるという方法論。そして、ただ奇妙な偶然や事実がありました、とするだけでなく、彼は執拗にその歪んだ現実の裏側にある物語を描く。ある意味、その物語が奇抜なトリックを支えているともいえる。それ故に作品は膨大なエピソードによって長大化してゆく。

 初期の『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の犯罪』はトリックそのものが厳然とした核として、作品を形成していたが、『暗闇坂の人喰いの木』の核となっているのは人を喰う木というイメージである。本作はこのイメージが、コラージュのような事件を強引なまでにまとめ上げている。

 この作品はとても多彩だ。屋根の上に乗って死んでいた人間、暗号、戦争中における少女の失踪、スコットランドにある巨人の家……それらが、大楠に結びついたとき、おぞましい真実が姿を現す。冒頭の幼女を殺害する場面もだが、江戸時代の首切り処刑の話がやたらと詳しく語られたり、血みどろ怪奇物語としてはシリーズ随一だろう。

 実のところトリック自体は特にそれほどというものはない。メインは先行作の単純な流用みたいな物だし、ほかの不可思議な出来事も、特に凝った計算づくのトリックというわけではない。しかし、この作品はトリックを物語が飲み込み、非常に恐ろしく、そして豊かな作品になっている。とにかくくり出される時代や場所が広範囲におよぶエピソードが面白い。そして、奇怪な現実が作り出す幻想的な光景。ある意味、おぞましく奇怪な現実そのものがトリックと化していると言っていいのかもしれない。

 あと何と言っても松崎レオナの登場だろう。ものすごいパワーのある女性キャラクターの登場で、物語にドライブ感が出てくる。基本ローテンションな二人(御手洗は名探偵キャラ故、解決になだれ込むまではあまり動けない)をグイグイ引っ張るようにして駆け回る。ただし、少しアクの強い人物像なのは確かなので、嫌う人はいるかもしれないが。まあ、嫌いな人の方が多いだろうね。