2022年に入ってから友川カズキのライブを自分が聞くの、これが初めてかな。
友川さんは、顔面神経痛もあって、長らくライブ自体がなくて、今年に入ってからようやく、ライブを再開した感じだけど、今年もコロナの影響は響いているようだ。自分も、友川さんのライブを道玄坂のライブハウスで聴いてからもう何年たったんだ? 今回もまた配信で視聴することになった。まあでも、配信があるから東京からはるか離れた場所にいる自分としてはとても助かっている。
今回のライブは、7月22日に行われた。
冒頭から、なんというか友川さんの静かな怒りが言葉から滲み出す。安倍元総理の功罪について、罪しか知らないと言い放つ友川さんは、さらに、「将来有望な若者に、『喉から手が出るほど拳銃が欲しい』なんて言わせる国が、美しい国などであるものか」と続ける。そして、第一曲目が始まる。
「桜の国の散る中を」
一発目からこれだ。友川さんは本気だ。知り合いの子供がなくなった時、その遺影を見つめながら作られたとされるこの曲は、鎮魂でありながらも、駆けていってしまった無垢たちへ、その不条理への怒りがこだましている。
散っていく、「桜の国」への怒りを込めた鎮魂歌として、今回のライブでは響いている。
この曲が収められ、また表題となるアルバムは日本を代表する傑作アルバムなので、聴いたことない人はマジで聴いてくれ。ただ、友川カズキの曲は、ほとんどがそんなに気分が明るくなったり、なにか生き生きしたものを与えてくれるというタイプのものではない。常に緊張感を強いられながら、友川カズキに傷つけ、削り取られることを覚悟しながら聴いてくれ。
そして、以下のラインナップでライブは進む。
「ワルツ」
生きても 生きても ワルツ
死んでも 死んでも ワルツ
いちばん最初に聴いたファーストインプレッションな友川カズキで、個人的には思い出深い曲でもある。歌詞はほんとに、時間がたつごとに友川さん自身の生き方そのものの歌のような気がしている。初めての時は何だこの人、みたいな感じと歌が、だんだん自分の中で大きくなっていった、その代表みたいな曲でもある。
「殺されたくないなら殺せ」
そしてこの時期にこのタイトルと歌詞。おい。
曲自体はめちゃくちゃ穏やかに歌うが、内容はぶっそうな歌である。若い時のやつは、なおさらきれいなフォークソング調で歌詞の異様さが際立つ。
ざらざら 乾いた のどかさが
俺の刃物に 泥を塗る
泥を塗りたくったおのれの刃。この国の中で、どれだけの人々がそれを抱えているのだろう。
「一切合切世も末だ」
鉛の玉を ぶちこみたい
かすんで ちんけな 胸ばかり
数年前、ラジオで岡村隆史に取り上げられ、何度目かのそして多分最大の「再発見」となった友川さんだが、まあ、なんというかイロモノな「ナンダコレハ」という取り上げられ方で、「生きているって言ってみろ」「トドを殺すな」「彼方」とならんで取り上げられていた曲。確かに、友川カズキと言えばな野良犬がうめいているような歌い方と、唾を散り飛ばすような絶叫調の歌唱が、唯一無二の世界を創り出しており、それらはその代表であることは確かなのだが。ただそればっかりな調子で騒がれていたのは、当時ちょっと嫌な感じがしたのだった(そんなことを書いている自分も当初はそういうイロモノな目で見ていたので似たようなものなのだが)。
歌はもう、タイトル通りである。一切合切への怒りを友川さんはこの歌でずっと歌い続けている。そして、友川さんが見続けている「絶望する大きな赤い犬」は、その数を今も増やし続けているのだろう。
この歌を初めて聴くという人は、歌を聴いた後に、その壮絶ともいえる歌詞をじっくり読んでほしい。もちろん、「生きているって言ってみろ」「トドを殺すな」「彼方」も聴いて欲しい。
「海みたいな空」
群れて許される 顔に
目ん玉を 投げつけてやる
ここから、第二部みたいな感じ。
友川さんは、上記したような、言葉を吐き散らして、聴くものを滅多刺ししてくるタイプの歌のほかに、言葉が、歌が降り積もってくるような印象を持つものも多い。これはそういうタイプにおける代表曲の一つ。個人的にベスト5には挙げる好きな曲。言葉が全部好きだ。言葉がひたすら自分の中に降り積もってきて、聴くたびに寒々とした灰色の海を見ているような気分になる。てか、なんでこんな言葉が出てくるんだ。ギャスパー・クラウスとの演奏が個人的には至高。
赤子も 父も 母も
空に 唇を あてて
黒い うたを ひとつずつ
吹きあげては 忘れ去るのだ
特にこの部分がめちゃくちゃ好きだ。
「あやかしの月」
桜吹雪の夜
雲ひとつない空
ナイフのような月が出る
これはなんというか、歌詞を含めて妖艶な歌。個人的にはあんまり聴かない方だとは思うけど、「海みたいな空」同様、聴く者のうちに染み入ってくる歌で、友川さんの歌の中でも聴き入らせる曲だ。今回のライブの真ん中にふさわしい感じ。
今回はなかったが、永畑雅人のアコーディオン演奏が入ったやつがより幻想的で好き。
「この世を踊れ」
オウオウオウ
ハレハレハレ
この世を踊れ
「あやかしの月」同様、短めの経だけど、これもまた幻想性の強い歌。友川さんは中原中也にかなり影響を受けていて、幻想性の強い歌はその影響が強いと思う。歌詞をつけた中也の「サーカス」や「あやかしの月」と一緒に、永畑雅人のアコーディオン演奏が引き立つ歌。オウオウオウ ハレハレハレ というオノマトペのような歌詞が続くこの世を踊れ、という言葉に開放感を与えている。
「家出青年」
蒲団にもぐる時 「このままでええや」 思った
蒲団を蹴る時 「このままじゃ駄目だ」 思った
今でも重たく響く言葉……自分は一生こうなんじゃないのか。
かなり初期の楽曲だが、原発事故を経た『復讐バーボン』収録曲で、ある意味完成を見た作品。今回は、その終盤の絶唱パートは他に置き換わっていたが、聞くものを乱打するというか、ひたすら粗く切りつけるような、言葉の木くずが散りとぶ「かかかかかかかか……」の部分は健在である。
個人的には、どうしても、暴力の源泉を歌い上げる、そのつけ加えられた最終パートを聴いて欲しい。ノミをふるい、削りに削って現れた、その真に完成した歌を。
演奏もすさまじいので、『復讐バーボン』収録バージョンをですね、みなさん聴いてください。全人類聴け。
ここから恐らく第三部。異色だったり、友川さんの生活に寄り添うような歌が続く。
「祭りの花を買いに行く」
上の姉やには ブルースター
チーの姉やには 山ききょう
祖母のミヤには 夏小菊
この言葉のえらびがいいんですよね。
これ、最初聴いた時は、ちあきなおみが歌っていたバージョンで、友川さんがこんなタイプの歌を作るのかとちょっとびっくりしたおぼえが。友川カズキ×ちあきなおみと言えば、ある意味伝説になっている紅白の「夜へ急ぐ人」だろう。ほんとに黄泉から誘いかけてきてるみたいな、ちあきなおみの姿も相まって、司会者から「気味が悪い」とお茶の間を代表する言葉がストレートに吐かれたそれとは打って変わり、なんというか、歌詞も含めてすごくチャーミングな歌である。
ちなみに、「イカを買いに行くという」歌もある。タイトルからコミックソングかと思うかもしれないが、全然そんなことはない。酒の肴を買いに行く、孤独な男の歌である。「まぼろしをガリガリ咀嚼するのである」という歌詞が好きだ。
「ぜい肉な朝」
死によって なにかが 千切れるのだ
死によって なにもかもが 千切れるのだ
強く内省的で、死というものが強く刻印された歌。やけっぱちな感じで昔は歌われていたことが多いいというか、ぐわっと向かってくるような迫力で歌われていた。
今回のライブは、友川さんの年もあり、全体的にトーンは低めなのだが、その影響を最も受けているような気はする。そのぶん、静かな死というトーンを帯びたものになったと思う。
「一人ぼっちは絵描きになる」
光の粉を まぶしたように
フランスの 丘という丘が
淡いオレンジに 輝いているのは
ポール・セザンヌのせいである
この冒頭の歌詞がめちゃくちゃ好きでたまらない。これもまた、個人的ベスト5に入る名曲である。
友川さんは絵をかいていて、それもまた人を心穏やかにするタイプではないが、目を離せない絵を描いている。ある意味、友川さんの創作そのものを歌ったような歌で、先人たちと舞い踊るような歌。なんかこう、絵とかモノを作ってる人は、一度聴いてみるといいと思う。エゴン・シーレのように、関節のゴツゴツとした音は、それを後押ししてくれるはずだ。
「青い水赤い水」
水流るるに
似たる幻は
現し身
これはあんまりよく聴いてなかった歌。トーンとしては全体的に低く、じっくり歌上げる感じ。歌詞自体も抽象性が高い。青い水赤い水って、恐らく静脈動脈の血液のことを言っているんだとは思うが。
「夢のラップもういっちょう」
夢ふたたび教えてくれたのは
ディランでもスプリングスティーンでもなく
朝もやを突いて走る滝沢正光
友川さんと言えばギャンブル。パチスロ、そして競輪である。生活の一部であるギャンブル。そこに横たわる日常の悲喜こもごもが流れていき、テンションが上がっていく。最後には実況というか、滝沢正光(元競輪選手)が出てきてからは、賭けてる一人と化すような友川さんの勢いが楽しい一曲。今回のライブは、滝沢正光バージョンではなく、お金ぶっこんで怒られてしまうバージョンである。コミカルでどこか哀愁ただよう歌になっている。
「ケイコちゃんの歌」
亡くなった姪に向けた歌だという。
あまり聴いたことがないというか、自殺した弟への「無残の美」同様、亡くなった身内への歌は元々そんなにライブでやるものじゃないし、進んでやりたいものじゃないだろう。K-popが好きだったというケイコちゃんが、見ていたこの国はどんなものだったのだろうか。
「三鬼の喉笛」
満月で きちがいどもは 眠らない
たんぽぽ然 三鬼の喉笛 見せたろか
そして、最新作の方になる歌で〆。
最新アルバム『光るクレヨン』収録の「三鬼の喉笛」は、山崎春美の酩酊するような朗読パートもすさまじい一曲。今回朗読はないが、じっと見据えるような友川さんの声で歌われるそれは、ライブの最後にふさわしい楽曲だったと思う。
MCでは、ほとんど政府への怒りを込めた罵詈雑言。「アーティスト」の大半が政治に無関心なポーズをとっていた時代からこうなので、いつもの友川さんだ。
実のところ、友川さんの政治への言葉は、怒りが先行しまくってて、どこか飲み屋での放言とか、床屋政談みたいなところがあるのは否めないし、その破壊衝動から「改革」勢力に期待して、橋下徹なんかを持ち上げちゃったりしたりしたこともあるのだが、その都度、裏切られて怒りを燃やす。それが友川カズキの政治との向き合い方なのかもしれない。しかし、共産党に投票したとはいえ、現野党に異様に厳しいのはなんでなんだぜ。
なんとなく、破天荒さを尊んだりする傾向とか、作家の島田荘司にタイプは似ているので、実は色々ハラハラしているところがないわけではない。が、友川さんからしたら知ったこっちゃないだろう。
元々、「友川カズキという男」という題で、ブログ記事を作成していたのだが、まったく筆が進まず、ライブのテンションで感想というか曲紹介というか、なんかよく分からん文章でかえることにした。これ読んでも大半の人はハア……だろうけど、自分のための感想記録みたいなのが、結局は書きやすいのだ。
まあ、「井戸の中で神様が泣いていた」「絵の具の空」「武装に足る言葉などないのだ」「木々は春」「ピストル」「犬」「サーカス」(中原中也の詩を歌にしたもの)「私の花」(永山則夫の詩を歌にしたもの。永山則夫が誰かは検索してくれ)「青いアイスピック」(友川さんにしては珍しいストレートに政府を批判した歌)などなど、語りたい歌はまだまだあるので、気が向いたら文章に出来たらいいと思う。
公式チャンネルもあるので、そこで公開されている曲を聴くのもいいと思います。