蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

小説

名探偵の行き先:エラリー・クイーン『第八の日』

『第八の日』は、自分の衝撃を与えたミステリ10選として過去挙げていた作品だ。 kamiyamautou.hatenablog.com そして、最近、『ミッドサマー』を観て、なんかちょっと似たようなところあるな、みたいな気がしたので、なんか記事のネタになるかもしんねえ……と…

モノトーンの幻影:ブッツァーティ『神を見た犬』

つまり、私たちが書き続ける小説や、画家が描く絵、音楽家が作る曲といった、きみの言う理解しがたく無益な、狂気の産物こそが、人類の到達点をしるすものであることに変わりなく、まぎれもない旗印なんだ。 このうえもなく無益だろうとかまわない。いや、む…

王と神:浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』

私が目指したのは、教室を一つにすることではなく、教室をひとりにすること。 素晴らしい作品であり、青春物語だった。 帯に書いてある通り、“最高”のクラスを巡る物語だ。主人公のいるA組と隣のB組、二つの教室は合同で様々なレクレーション企画を催し、そ…

舞阪洸『彫刻の家の殺人―御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部〈2〉』

御手洗学園シリーズ第二弾。今回もまた、実にストレートな本格もので、登場人物表に見取り図に、読者への挑戦もついております。 クオリティも前作に勝るとも劣らない秀作なので、こちらも本格好きにおススメしたいですね。 今回は長編ということで、結構ゆ…

富士見ミステリー文庫の隠れた良作:舞阪洸『亜是流城館の殺人―御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部』

かつて富士見文庫にはラノベのミステリーレーベルという存在があった。富士見ミステリー文庫。自由な形で様々な快作珍作含めたライトノベルミステリが生まれ、そして消えていった。そんななかで、本格ミステリとしての結構を備えた作品も多数刊行されていた…

誰かの物語が私という物語を作る:エリック・マコーマック『パラダイス・モーテル』

初マコーマック。全編これ奇譚という感じのエピソードが横溢していて、とても良かった。そして物語というものを巡る物語というか、そんな構造の物語であり、それが急に雲散霧消してしまうその作者の騙りというか、書きぶりにも唸らされる作品でした。 なんと…

学生アリスシリーズの思いで。

そういえば、有栖川有栖の学生アリスシリーズについて少し語りたい。 中学から高校にかけてのことだったと思う。当時探偵小説に飢えていた。小学生の時に乱歩に出会って、探偵小説にのめりこんでいたわけだけど、ホームズ、ルブラン、ヴァンダインの『カブト…

魂の行方:筒城灯士郎『世界樹の棺』

恋を成就させたいのに自ら失恋に向かっていく人も……世の中にはいると思うんです。 今年の本格ミステリで一番好きかもしれない。そんな作品に出会えました。まあ、なんというか波長が合う、完全に好みに合致した感じなので、広く勧められるかというと、ちょっ…

相反する世界の接触面:半田畔『科学オタクと霊感女』 -成仏までの方程式-

囚われる――人は何かに自分の意志を制限される。それは言葉だったり、過去の過ちや願いや希望だったりする。何かに囚われていることは、自由ではないというふうに見られがちだ。だが、何かに制限されることが、その人を形作っている、その生き方を縁取ってい…

あらすじって、正直書くのが一番メンドイ部分なのだが、たぶん一番読まれない部分だろう。しかし、何故か書かないと先に進めない気がして、わりとあらすじを書こうと頑張って、そして書きかけのモノがたまっていくのだ……。まあでも、そもそもあらすじを書く…

ヘンはヘンだが楽しい:映画『サイン』

『ジョーカー』の予習というかなんというか、ホアキン・フェニックスの映画を観とくか、みたいな感じになり、いまさらというチョイスですが未見だったこれを観てみました。自分にとってホアキン・フェニックスは、『グラディエーター』のシスコン皇帝なんで…

私はどこにもいない:アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』

ここには愛はない。憎しみもない。感情が堆積していく、いかなる結節点もない。 「終わりはない」 アンナ・カヴァンは初めてだった。しかし、その言葉たちは初めてではない、そんな気がした。 この作品集に収められたものたちは、どれもとても短い短編や掌編…

ヒラリー・ウォー『愚か者の祈り』

創元の新訳プロジェクトで『生まれついての犠牲者』がそろそろ出るということもあって、そういえば読んでなかったなというヒラリー・ウォーの作品を引っ張り出してみました。ウォーといえば、個人的な印象はその淡々とした筆致の捜査のスリリングさもそうな…

島田荘司『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴: 名探偵 御手洗潔 (新潮文庫nex) なんとなく再読してみようと手に取って、なんだかあっという間に読んでしまいました。御手洗シリーズといえばの強烈で奇天烈な謎、というものではありませんが、奇妙な発端から、次…

十階堂一系『赤村崎葵子の分析はデタラメ』

赤村崎葵子の分析はデタラメ (電撃文庫) 作者: 十階堂一系 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2015/02/07 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 日常ミステリで多重解決ものとして挙げられていたのを目にして、手に取ってみました。これはかなり…

島田荘司を読んだ昔、そして今。

今回は自分にとっての島田荘司ということについて語っていきたいというか、書き留めておきたい。というわけで好き勝手語っていきますよ。 島田荘司という巨大過ぎる作家の作品を私が読み始めたのは、新本格ミステリ、中でも二階堂黎人や有栖川有栖、法月綸太…

「論理」の吊り橋が架からぬ場所へ:T・Sストリブリング『カリブ諸島の手がかり』

われわれが理性と称しているものは、ふつう思われているように絶対確かできっかりとした働き方をするもんじゃないんです。理性が働くところを調べてみたら、それが実にあいまいで、いくつかの仮説のなかからあてずっぽうに解答に飛びつくようなものだとわか…

闇を払うは滅びの剣:麻生俊平『ザンヤルマの剣士』

今回は私の好きなライトノベルを紹介しようかな、と。まあ、ぶっちゃけ本読めないし、それっぽい感想というか、妄想もまとまらないので……。後々それぞれの巻ずつの解説というか感想を書いていきたいとは思ってはいますが、まずはざっくりした印象解説をとり…

真っ白な牢獄:倉野憲比古『スノウブラインド』

ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授。その邸宅は蝙蝠館と呼ばれ、軽井沢近郊の狗神窪と呼ばれる小さな窪地に佇んでいた。そこはかつて住人が野獣と化したという奇妙な伝説が残る土地。12月、そこへ毎年の恒例として招待される教授のゼミ生たち。携帯の…

うつし世VS夜の夢:江戸川乱歩『大暗室』

大暗室 作者: 江戸川乱歩 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2012/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 『大暗室』。乱歩の通俗長編の中ではタイトルからして比較的地味な印象で、特に語られることのない作品のように思える。筋立てもい…

彼方より来たもの

もう十五日で、十二月十日、もとい今年の黒鳥忌をだいぶ過ぎてしまったわけだが、まあいいや、僕はそんなことは気にしないぜ。とりあえず、自分にとって中井英夫、というか『虚無への供物』がどんな存在なのか、ということを書きたくなったので書こうかなと…

「私」を拡散するために 江戸川乱歩『盲獣』

※ 一応、ネタバレというやつなので注意してください。とはいえ、そんなことでどうこうなる作品だとは思いませんが。 盲獣 (創元推理文庫) 作者: 江戸川乱歩 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2012/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る …

夢の続き:大樹連司『GODZILLA 怪獣黙示録』『GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』感想

GODZILLA 怪獣黙示録 (角川文庫) 作者: 大樹連司(ニトロプラス),虚淵玄(ニトロプラス) 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2017/10/25 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (7件) を見る GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫) 作者: 大樹連司(ニト…

幻想が溶けた後に残るモノ 戸川昌子『緋の堕胎』

緋の堕胎 (ちくま文庫) 作者: 戸川昌子,日下三蔵 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/10/11 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 戸川昌子という作家についていえば、歴代一の激戦と言われた第八回の江戸川乱歩賞において、あの『虚無への供物』…

何のために表現するのか パスカル・キニャール『世界のすべての朝は』

世界のすべての朝は (伽鹿舎QUINOAZ) 作者: パスカル・キニャール,手嶋勇気,高橋啓 出版社/メーカー: 伽鹿舎 発売日: 2017/03/23 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る というわけで初キニャール。伽鹿舎の文庫で、帯文の伊藤計劃がどうたらという所に…

消失、そして越境 ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫) 作者: ブラムストーカー,Bram Stoker,平井呈一 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 1971/04/18 メディア: 文庫 購入: 5人 クリック: 162回 この商品を含むブログ (61件) を見る ついにこの古典中の古典を読む。いや、さす…

幻想にしてSF プリーモ・レーヴィ『天使の蝶』

天使の蝶 (光文社古典新訳文庫) 作者: プリーモレーヴィ,Primo Levi,関口英子 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2008/09/09 メディア: 文庫 購入: 11人 クリック: 74回 この商品を含むブログ (37件) を見る プリーモ・レーヴィの『天使の蝶』はどこか独特の…

煙草と霧と放射能:島田荘司『ゴーグル男の怪』

ゴーグル男の怪 (新潮文庫) 作者: 島田荘司 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/02/28 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (1件) を見る とりあえず結論から言うと『ゴーグル男の怪』は幻想小説の傑作である。著者だから書き得た異形の幻想ミステリとい…

やみをみるめ

先日、復刊していた『八本脚の蝶』を手に入れることができ、少しづつ読んでいる。これは本で読みたかった。本になって、その遺された言葉たちをカタチとして手に触れる、その手触りを愛おしみながらページをめくる。 彼女は自分とはあまりにも違う人だ。その…

鬼が夢見る帝国:孤島の鬼

『孤島の鬼』を久々に再読したんですが、やっぱ面白いですね。次々と移り変わっていくストーリーは、後ろを振り返らない、その場その場の展開の連続という感じなんですが、それがあれよあれよと、とんでもないところへ主人公が流されていく感じとうまくリン…