蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

小説

カーター・ディクスン『赤後家の殺人』【訳】高沢治

あらすじ 英文学博士のテレインは、友人から「君は部屋が人を殺せるとおもうか?」という奇妙な問いかけを受け、彼からある集まりへと誘われる。ロンドン市内のあるマントリング邸――そこには、フランス革命時にまでさかのぼる因縁と、そして四人の死を飲み込…

飛鳥部勝則『封鎖館の魔』

『抹殺ゴスゴッズ』で本格的に再始動した著者の復帰第二弾。変格ミステリ作家を自認する著者自らが本格ミステリを標榜し、本格ミステリとしての新たな代表作と位置付けた本作は、館モノという本格ミステリ(というより新本格か)を代表する特異なジャンルに…

奇妙な発想が光る、異常な誘拐:笹沢左保『他殺岬』

トクマの特選、笹沢左保サスペンスの第5弾。以前ノベルスで読んでいたため、だいぶ後回しになってしまっていた。読んでみると、ほどよくどころか、ほとんど忘れていて、マジで初読みたいな感覚で読めた。 本作は、カテゴリーとしては誘拐ものに相当するのだ…

飛鳥部勝則『砂漠の薔薇』

飛鳥部勝則の第四作で、電書で買える数少ない作品の一つ。私が読んだのはノベルス版。文庫版の表紙は会田誠の『切腹女子高生』でノベルス版の表紙はクリストファー・アローニの『ホロフェルネスの首を持つユーディト』。個人的にはノベルス版の方が作品に合…

西澤保彦『人格転移の殺人』

あらすじ カルフォルニア州のとあるショッピングモール、そのファーストフード店。元恋人をアメリカまで追いかけてきたあげくに、改めて袖にされた主人公をはじめ、6人の男女が集まっていた。そこに突然の巨大地震。逃げ惑う彼らがシェルターだと思って入り…

再演による目撃性が物語を刻みつける:梓崎優『狼少年ABC』

『叫びと祈り』『リバーサイドチルドレン』の二作で、本格ファンにインパクトを刻みながら、その後十年以上沈黙していた著者の久々の作品集。 ファンの期待感がすごい中の刊行でしたが、なかなかどれも求められている感じのエモーショナルミステリという感じ…

阿津川辰海『最後のあいさつ』

あらすじ かつて、一世を風靡した推理ドラマがあった。『左右田警部補』――俳優雪宗衛が演じたタイトルの刑事は、日本でもっとも有名な刑事としてお茶の間に親しまれ、シリーズを重ねていた。しかし、そのシリーズは人気のまま、第七シリーズで最終回を迎える…

北山猛邦『つめたい転校生』

全編を通して、異なるモノとの交流と隔絶をテーマとした作品がまとめられた、ファンタジックな読み味の短編集。ガチガチの本格を期待するとちょっと違う感じになるかもだが、ミステリを軸にしつつ、どこか切ない感じだったり、温かくなる思いだったりをにじ…

久青玩具堂『奇想怪談×天外推理』

あらすじ 高校一年生、水井境太郎は友人高野聖から、ふった元恋人が自分を呪っているらしいという話を聞かされる。その元恋人は別れてからオカルト研究会に所属し、しかもそこの部長はなにやら”呪われている”らしい。高野の元恋人がどの程度本気なのかを探る…

飛鳥部勝則『抹殺ゴスゴッズ』

以前足を運んだ講演会で、著者が予告していた作品の一つ。 その時のことを書いた記事。うろ覚えで抹殺が「~殺」とあいまい kamiyamautou.hatenablog.com 当時刊行予定を聞いて約一年近くになるが、著者の長編としては実に十五年ぶりとなる新作。そして、本…

乱歩が推したカー作品:『帽子収集狂事件』(訳)三角和代

あらすじ 連続帽子盗難という奇妙な事件が巷間をにぎわすロンドン。〈いかれ帽子屋〉と名前がついたその賊の被害に二度も遭ったというサー・ウィリアム・ビットンは、古書収集家であり、同時に彼の貴重な収集物――とある原稿も盗まれていた。その原稿はなんと…

この「長さ」こそが仕掛け……かも:アガサ・クリスティー『もの言えぬ証人』 [訳]加島荘造

あらすじ 五月一日にエミリア・アランデルは死んだ。その死に特に不審な点は見られず、町の人々は特に驚きもせず、七十過ぎの裕福な老婦人の、ごく当たり前な死として、ほとんど忘れられようとしていた。ただし、彼女の残した奇妙ともいえる遺言により、その…

なかなか挑戦的で異色な作品:アガサ・クリスティー『三幕の殺人』

あらすじ 元俳優、チャールズ・カートライトのパーティーにて、招かれた牧師が急死する事件が起こる。その時は事件性はないものとされたが、その後、再び開かれた別のパーティーで今度は医師が死亡。同様の状況で起きたそれは毒殺と判断され、同時に牧師の死…

チラ見せの技術:アガサ・クリスティー『エッジウェア卿の死』

あらすじ 奔放な舞台女優、ジェーン・ウィルキンソン――たまたま居合わせたホテルでポワロの姿を認めた彼女がしてきた依頼、それは夫とどうしても別れたいのだが、彼がそれに応じてくれいないというものだった。そんな彼女の夫であるエッジウェア卿を説得する…

言葉が、人を動かさないとしても:藤つかさ『名探偵たちがさよならを告げても』

高校教諭にして作家だった久宝寺肇が癌で死に、その遺稿を彼の教え子である辻怜人が発見した時、すでに事件は引き返せない場所に来ていた。 久宝寺の遺稿には探偵と被害者、そして簡単な事件のあらまし、さらには妙な言葉選びでの読者への挑戦があっただけで…

回文めぐるサーカスの事件:泡坂妻夫『喜劇奇悲劇』

あらすじ 落ちぶれ、アルコールに溺れる日々を過ごす奇術師、楓七郎。そんな彼に昔馴染みからステージに立つよう、依頼が舞い込む。ショウボート――動く娯楽場たる船――その中で行われる予定の興行で、奇術師がひとり必要になったのだ。船の名前はウコン号。そ…

三番館シリーズ 第二集 鮎川哲也『マーキュリーの靴』

三番館シリーズ第二集。きっちり固めたパターンの第一集から、ミステリの内容や構成含めて、そこからの変化を試み始めている。謎については、これまでのアリバイ崩しから、分身の謎、宝石盗難、ダイイングメッセージ、雪の密室、そしてストレートな密室とい…

三番館シリーズ 第一集 鮎川哲也『竜王氏の不吉な旅』

Introduction 鮎川哲也の名探偵と言えば鬼貫警部と星影龍三の二枚看板が有名だが、もう一人、短編でのみ活躍した名探偵がいる。それが、「三番館のバーテン」である。通称三番館シリーズと言われる作品群は、私立探偵である“わたし”を語り手に進んでいく。事…

横溝正史『死仮面』[オリジナル版]

ついに読みました、『死仮面』。 この作品は金田一シリーズの第四作にあたり、戦後の再始動した横溝作品としては、かなり最初期にあたる作品となっています。しかし、一般的な知名度で言うと、それ以前の『本陣殺人事件』『獄門島』『夜歩く』などに比べると…

名探偵の使い方:アガサ・クリスティー『邪悪の家』

あらすじ 保養地のホテルでポワロはヘイスティングズとともに、一人の女性と知り合う。近くに建つエンド・ハウスの持ち主である彼女――ニック・バックリーはポワロに最近三回も命拾いをしたと話す。そしてその会話中に、彼女の帽子を銃弾が貫通するというさら…

カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』

あらすじ ロンドン近郊にある、由緒ある屋敷「白い僧院」でハリウッドの人気女優マーシャ・テイトが殺されたスキャンダラスな事件は、その発見時の奇妙な状況から、さらなる混乱を関係者たちに与えた。彼女が泊まっていた離れは、周囲百フィートにわたって雪…

逢緑奇演『こちら、終末停滞委員会』 四季大雅『クラスで浮いてる宇良々川さん』 真代屋秀晃『ウザ絡みギャルの居候が俺の部屋から出ていかない』1&2巻

最近、そこそこラノベを読んだので感想を短く書いておこうかと。 逢緑奇演『こちら、終末停滞委員会』 いきなりマフィアに殺されかけている主人公というところから、アンチ異世界転生的な展開を経て、終末が確実な世界を可能な限り停滞させる戦いに身を投じ…

カーター・ディクスン『爬虫類館の殺人』[訳]中村能三

巳年だし、新訳も出るみたいだしで、再読してみました。まあ、トリック以外はほとんど初読みみたいな感じだったので、わりと新鮮な気分で楽しめました。そもそもこの作品、カーのトリックの中でも有名な方で、トリックバレ本みたいなやつで先に知ってしまっ…

P・ジェリ・クラーク『精霊を統べる者』

年末から読み始めて、何とか読み終わった。これが今年初めての読了本ということになる。 あらすじ 19世紀後半、後に伝説となる魔術師アル=ジャーヒズがジン〈精霊〉の世界との扉を開き、世界は魔法とジン、そしてそれらと融合する科学によって一変した。そ…

「あなたといて楽しかった」という青春の風景:東川篤哉『朝比奈さんと秘密の相棒』

東川篤哉作品群の中でも意外と大きなシリーズになりつつある(?)鯉ヶ窪学園の新作である。以前書いたように私は東川篤哉の青春ミステリがなんか好きで、このシリーズはなんだかんだで全作読んでいる。 その以前書いた東川篤哉の青春ミステリについての記事…

倉知淳『死体で遊ぶな大人たち』

倉知淳の作家デビュー30周年記念作品と銘打たれた短編集。最初の一編こそゾンビが出てくる特殊状況ものだが、残りは奇妙な死体の状況を中心にしたオーソドックスな本格ミステリ。どれもなかなかのミステリに仕上がっていて、しっかり楽しめました。最後の仕…

大島清昭『バラバラ屋敷の怪談』

怪談作家、呻木叫子が登場するシリーズ最新作。本作は第一弾の『影踏み亭の怪談』と同様、彼女が収集した四つの怪談にまつわる事件を収めた連作短編となっている。内容や構成なども含め、呻木叫子リターンな内容で、第一作が好きな人には特におすすめのもの…

うーん、ちょっとおススメし難い作品

新名 智『雷龍楼の殺人』 あらすじ書くのめんどくさいのでKADOKAWA公式ページのコピペです。 ついにあらすじをコピペしてしまう。てか、めんどくさいんだもん。なんか文章書きの訓練になるとかで我慢してやってたけど、効果があるように思えなくてついに折れ…

中村あき『好きです、死んでください』

あらすじ 恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」。その企画には、素人の作家をはじめ、俳優、グラビアアイドルといった異なる業種の人間が集められ、孤島のコテージでの彼ら6人の交流――その恋愛をカメラはとらえていくはずだった。 しかし、メンバ…

スウェーデンのガチ密室:ヤーン・エクストレム『ウナギの罠』

あらすじ 地元の大地主の死体が発見されたのは、彼が所有していたウナギ罠の中でだった。頭を鉄の棒で殴られて他殺なのは明らかなのだが、奇妙な事実が警察の前に立ちはだかる。入り口には南京錠がかけられ、鍵によって開閉できるのだが、肝心の鍵が被害者の…