蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

 そういえば、最近映画の感想を書いてないっぽいので、備忘録的な感じで短く。

アイデンティティー』(2003) ジェームズ・マンゴールド 監督

 『ローガン』や『フォードVSフェラーリ』、そして『インディ・ジョーンズ5』の公開も控えているジェームズ・マンゴールドによるサスペンスミステリー。アメリカでは公開時初登場一位など、なかなか人気があったらしい。

 とある死刑囚の死刑執行前夜に土壇場で行われた再審請求から物語は始まる。

 弁護士の再審請求に判事らが紛糾するさなか、遠く離れたハイウエイでは豪雨が発生していた。

 雨でハイウエイが水没し、陸の孤島と化したモーテルに避難するように集まってきた11人の男女。モーテルの支配人をはじめ、女優とそのお抱え運転手、タイヤのパンクで立ち往生していた際に、轢かれて重傷を負ってしまった女性とその夫と子供の三人、金を奪って逃げてきた娼婦、結婚したてのカップル、そして移送中の囚人と警官。

 彼らが揃うのを見計らったようにして、まず女優が殺され、それから次々と殺人が行われていく。死体のそばにはルームキーが置かれ、それは最初の遺体から10、9、8という風に部屋番号でカウントダウンされていく。果たして犯人は誰か。

 クローズドサークル風なサスペンスが繰り広げられていく本作、ミステリ的なネタは、隠して驚きとともに開示するというよりは、ミステリらしく彼ら10人の共通点とかが終盤出てくるところで、なんとなく観る者に気取らせてから開示する形をとっている。ある意味そこがミソでもあり、予想させつつもきちんと意外性も用意してあって、なかなか悪くないミステリ風のサイコサスペンスだった。

 

『シン・ウルトラマン』(2022)樋口真嗣 監督

 それなりにいいところはあると思うけど、あんまり自分には合わなかった。シン・ゴジラ、シン・エヴァといい、庵野秀明脚本とはあまり相性がよくないと感じる。セリフ回しが基本的に好きじゃないんだと思う。他人に聞かせる気がないいわゆる「オタク」なしゃべり方ネタというのを、そういうネタとして受容するのはもういい加減めんどくさい。テロップ芸もあまり芸がない。あと、官僚ファンタジーみたいな有能指揮官だらけの構造みたいなのもあんま好きじゃない。普通に生きてる人がいない書割めいた世界で、ウルトラマンが好きになった人類とか、それを守るとかいう展開もなんだか空々しい感じがした。

 映像としても、やたらと実相寺アングルみたいなのを多用するのは、目くばせにしてもやりすぎかつ、あまりアングルに工夫もなくて単調に思えた。

 

トップガン・マーヴェリック』(2022)ジョセフ・コシンスキー 監督

 1986年のトップガンから、実に36年も経ってやってきた続編。主演はもちろん、トム・クルーズトム・クルーズのスター性で殴りつけてくるスター映画の残光――にしてはまぶしすぎる残光だが。娯楽性に富んだザ・映画な映画と言ってもよく、とにかく楽しい映画。特に序盤の『ライトスタッフ』風のマッハ10を超えるか超えないかの緊張感に満ち満ちた、かつ静謐な映像が素晴らしすぎて、そこだけで泣きそうになったりした。

 実のところ、えぐいアメリカ海軍サイコー、なプロパガンダ映画な骨格をしているのだが、それをトム・クルーズというスターの光で覆い隠していて、改めてトム・クルーズという俳優の怪物的な存在感を思い知らされた。

『NOPE/ノープ』(2022)ジョーダン・ピール 監督

 『ゲットアウト』『アス』に続く三作目は、曰く言い難い奇妙なホラー的映画に仕上がっている。なんだかよく分からないうちにとあるジャンル映画に落ち着いていくが、ホラーやSF、西部劇といった様々な要素がまぶされていて、監督がやりたいようにやった感が強く出ている。独自性は相当あるが、反面どこかおさまりの悪さもあって、映画史についての映画だったり、見る見られるの関係やチンパンジーをはじめとしたテレビの動物を見世物のメタファーとして、白人以外の人種に重ね合わせる等、テーマ性にあふれてはいるが、どれも物語の骨組みというよりは装飾にとどまっている。たくさん要素はくっついてはいるんだけど、物語そのものにはイマイチなっていないもどかしさがあった。

 まあでも、全体的には面白い映画なのは確か。ただ、もう少し、装飾部分と物語が融合してたらもっと好きだったかもしれない。あくまで好みの問題ではある。

 

『ブレット・トレイン』(2022)デヴィッド・リーチ 監督

 デヴィッド・リーチ監督と言えば、『アトミック・ブロンド』はかなり好きな映画で、あの痛みを感じさせるアクションシーンはかなり好みだった。今回のアクションシーンは流血は相当あるものの、コメディ調に振ってるので、痛さの質感は少し軽めな感じがして、そこはちょっと物足りない気がした。とはいえ、殺人描写自体は結構エグイ。そういえば、前々から思ってるけど、コメディで流血とか首ちょんぱは日本ではあんまウケない要素だと思う。

 本作は、伊坂幸太郎の『マリアビートル』が原作。自分は未読なので、どこまで原作どおりなのかは分からない。なんかキルビルみたいな殺し屋たちによるドタバタ騒動アクションな質感だが、キルビルの源流はたぶん日活の無国籍アクション映画だろうから、こういう形でその流れが生き残っているような思いがしたので、次は『殺人狂時代』――のリメイクというか、『なめくじに聞いてみろ』をハリウッドで映画化とか、どうですか。