蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ミステリ

ミステリ感想まとめ5

そこそこミステリ読んでいたので、まとめて感想を書いて行こうかと。極力ネタバレは避けているつもりですが、どうなのかはわからないよ(え)。 では、とりあえずザーッとした感じで。 早坂吝『四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニングー』 四元館…

『メルカトル悪人狩り』感想

メルカトル悪人狩り (講談社ノベルス) 作者:麻耶雄嵩 講談社 Amazon 「愛護精神」 いささかぎょっとする始まりで不穏な空気を漂わせつつも、他愛のない形にすかしつつ、美袋に絡みつく大家からのどうでもよさそうな依頼。それを一応、メルに相談すると案の定…

先日(といっても結構前だが)、麻耶雄高の『夏と冬の奏鳴曲』が装いも新たに完全改訂版として復刊された。この作品、本格としては異色または異様な作品ひしめく麻耶作品のなかでも、ひときわ異彩を放つ作品であり、一部本格ファンの中には、魅せられたよう…

千街晶之編 感染ミステリー傑作選『伝染る恐怖』

千街晶之による感染をテーマに、収録作を年代順に並べたミステリアンソロジー。この状況だからこそ読まねばと思いつつ、結構積んでいた。 この本が出版されてから3か月余り。ワクチンの接種が始まっているものの、状況が好転する兆しはあまり見られない。そ…

ミステリ感想まとめ4

だいぶ前に読んだ本たち……やはり感想は早めに書いておかないと色々忘れてしまう……。なんとか思い出しながら書きました。 玩具堂『探偵君と鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる』 玩具堂久々の小説が刊行されました。めでたい。白眉は…

東川篤哉の青春ミステリ――バカで、愉快で、しょーもない。

青春ミステリ、と云うと、とにかく苦いとか、甘酸っぱいとかそういうイメージで語られたり、またそういう思春期の感傷を含有したものがジャンルとしての特徴であるという認識が共有されている。そしていかにそれらがエモーショナルな形で描かれ、読者に青春…

寂しさが冷たく発火する:島田荘司『火刑都市』

島田荘司作品の中にあって、かなり地味な地位にあると思われる本作。著者の二枚看板である御手洗シリーズや吉敷シリーズではないノンシリーズものではあるが、主人公は吉敷シリーズでたびたび出てくる中村吉造が務めている。 この小説は島田荘司の社会派的な…

ミステリ感想まとめ3

またそこそこミステリを読んだので、感想をバーッとあげていこうかと。 四捨五入殺人事件 (新潮文庫) 作者:ひさし, 井上 メディア: 文庫 今現在『十二人への手紙』が再ブレイク中の井上ひさしによる長編ミステリ。二人の作家が招かれた温泉宿で起きる奇妙な…

名探偵の行き先:エラリー・クイーン『第八の日』

『第八の日』は、自分の衝撃を与えたミステリ10選として過去挙げていた作品だ。 kamiyamautou.hatenablog.com そして、最近、『ミッドサマー』を観て、なんかちょっと似たようなところあるな、みたいな気がしたので、なんか記事のネタになるかもしんねえ……と…

王と神:浅倉秋成『教室が、ひとりになるまで』

私が目指したのは、教室を一つにすることではなく、教室をひとりにすること。 素晴らしい作品であり、青春物語だった。 帯に書いてある通り、“最高”のクラスを巡る物語だ。主人公のいるA組と隣のB組、二つの教室は合同で様々なレクレーション企画を催し、そ…

ミステリ感想まとめ2

ここ最近読んだミステリの感想をざっと上げていこうかな、と。結構避けがちなミステリ感想ですが、そこそこ読んでて、感想書いてないのが溜まってきたので。まあ、軽く触れる程度に。 電氣人閒の虞 (光文社文庫) 作者:詠坂 雄二 出版社/メーカー: 光文社 発…

舞阪洸『彫刻の家の殺人―御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部〈2〉』

御手洗学園シリーズ第二弾。今回もまた、実にストレートな本格もので、登場人物表に見取り図に、読者への挑戦もついております。 クオリティも前作に勝るとも劣らない秀作なので、こちらも本格好きにおススメしたいですね。 今回は長編ということで、結構ゆ…

富士見ミステリー文庫の隠れた良作:舞阪洸『亜是流城館の殺人―御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部』

かつて富士見文庫にはラノベのミステリーレーベルという存在があった。富士見ミステリー文庫。自由な形で様々な快作珍作含めたライトノベルミステリが生まれ、そして消えていった。そんななかで、本格ミステリとしての結構を備えた作品も多数刊行されていた…

島田荘司:御手洗シリーズ作品紹介 その1

一応、今のところ御手洗潔シリーズは、ほぼほぼ全部読んでると思うので、その登場作品を出来る限りというか、根気が続く限り刊行順で紹介していこうかと。まあ、マニアながっつり批評みたいなのはムリなので、軽いファンの思い出話まじりの紹介文です。……ま…

学生アリスシリーズの思いで。

そういえば、有栖川有栖の学生アリスシリーズについて少し語りたい。 中学から高校にかけてのことだったと思う。当時探偵小説に飢えていた。小学生の時に乱歩に出会って、探偵小説にのめりこんでいたわけだけど、ホームズ、ルブラン、ヴァンダインの『カブト…

魂の行方:筒城灯士郎『世界樹の棺』

恋を成就させたいのに自ら失恋に向かっていく人も……世の中にはいると思うんです。 今年の本格ミステリで一番好きかもしれない。そんな作品に出会えました。まあ、なんというか波長が合う、完全に好みに合致した感じなので、広く勧められるかというと、ちょっ…

相反する世界の接触面:半田畔『科学オタクと霊感女』 -成仏までの方程式-

囚われる――人は何かに自分の意志を制限される。それは言葉だったり、過去の過ちや願いや希望だったりする。何かに囚われていることは、自由ではないというふうに見られがちだ。だが、何かに制限されることが、その人を形作っている、その生き方を縁取ってい…

怪奇とトリックが横溢する怪人賛歌:根本尚『怪奇探偵 写楽炎』

探偵小説、そんな言葉聞いて何を思い浮かべるでしょうか。怪奇色にあふれた血みどろの惨劇、異様な姿の怪人、大胆不敵なトリック、そしてそれらに敢然と立ち向かう名探偵。なんというか、江戸川乱歩的な風景を思い浮かべる人ならばぜひ読むべき漫画がありま…

ミステリ映画の快作:映画『ロスト・ボディ』

ロスト・ボディ [DVD] 出版社/メーカー: 松竹 発売日: 2015/10/07 メディア: DVD この商品を含むブログを見る 『インビジブル・ゲスト』というスペインのオリオウ・パウロ監督の傑作ミステリがあるのですが、その製作スタッフたちによる前作がこの『ロスト・…

ミステリ感想まとめ1

そういえば、そこそこミステリ読んだので、まとめて感想を書こうかなと。twitterはしばらく休むというか、見るだけにしようかな、と。時間もそうなんですけど、色々バカバカしくなったので(いやまあ、気分の問題です)。まあそれはともかく短く感想をば。 …

ヒラリー・ウォー『愚か者の祈り』

創元の新訳プロジェクトで『生まれついての犠牲者』がそろそろ出るということもあって、そういえば読んでなかったなというヒラリー・ウォーの作品を引っ張り出してみました。ウォーといえば、個人的な印象はその淡々とした筆致の捜査のスリリングさもそうな…

島田荘司『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴: 名探偵 御手洗潔 (新潮文庫nex) なんとなく再読してみようと手に取って、なんだかあっという間に読んでしまいました。御手洗シリーズといえばの強烈で奇天烈な謎、というものではありませんが、奇妙な発端から、次…

十階堂一系『赤村崎葵子の分析はデタラメ』

赤村崎葵子の分析はデタラメ (電撃文庫) 作者: 十階堂一系 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2015/02/07 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 日常ミステリで多重解決ものとして挙げられていたのを目にして、手に取ってみました。これはかなり…

島田荘司を読んだ昔、そして今。

今回は自分にとっての島田荘司ということについて語っていきたいというか、書き留めておきたい。というわけで好き勝手語っていきますよ。 島田荘司という巨大過ぎる作家の作品を私が読み始めたのは、新本格ミステリ、中でも二階堂黎人や有栖川有栖、法月綸太…

「論理」の吊り橋が架からぬ場所へ:T・Sストリブリング『カリブ諸島の手がかり』

われわれが理性と称しているものは、ふつう思われているように絶対確かできっかりとした働き方をするもんじゃないんです。理性が働くところを調べてみたら、それが実にあいまいで、いくつかの仮説のなかからあてずっぽうに解答に飛びつくようなものだとわか…

真っ白な牢獄:倉野憲比古『スノウブラインド』

スノウブラインド (文春e-book) 作者:倉野 憲比古 発売日: 2020/07/31 メディア: Kindle版 ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授。その邸宅は蝙蝠館と呼ばれ、軽井沢近郊の狗神窪と呼ばれる小さな窪地に佇んでいた。そこはかつて住人が野獣と化したという…

うつし世VS夜の夢:江戸川乱歩『大暗室』

大暗室 作者: 江戸川乱歩 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2012/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 『大暗室』。乱歩の通俗長編の中ではタイトルからして比較的地味な印象で、特に語られることのない作品のように思える。筋立てもい…

私に衝撃を与えたミステリ10選

ツイッターでみんなやってたので、現時点の整理として自分自身の10作と、それについてそれぞれなんで衝撃だったのかを書いていこうかな、と。衝撃といっても、個人的な感覚とか結構あると思うし、どの部分が衝撃的だったのか説明した方が、その衝撃性が浮き…

「高天原の犯罪」の構造 天城一『密室犯罪学教程』

探偵小説は読者に参加の夢を与えると称しながら、実際は読者を操作するにすぎませんでした。 『密室犯罪学教程』献辞より ※「高天原の犯罪」そしてチェスタトンの某作(ブラウン神父の童心収録作)に触れています。いずれもネタを割る、又は真相を示唆する部…

彼方より来たもの

もう十五日で、十二月十日、もとい今年の黒鳥忌をだいぶ過ぎてしまったわけだが、まあいいや、僕はそんなことは気にしないぜ。とりあえず、自分にとって中井英夫、というか『虚無への供物』がどんな存在なのか、ということを書きたくなったので書こうかなと…