蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ミステリ感想まとめ2

 ここ最近読んだミステリの感想をざっと上げていこうかな、と。結構避けがちなミステリ感想ですが、そこそこ読んでて、感想書いてないのが溜まってきたので。まあ、軽く触れる程度に。

 

電氣人閒の虞 (光文社文庫)

電氣人閒の虞 (光文社文庫)

  • 作者:詠坂 雄二
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/04/10
  • メディア: 文庫
 

  名前を読んだら現れて、電気で殺す――電気人間という都市伝説を巡る一風変わったミステリ。噂を追いかける人々が次々と被害者になり、最終的にフリーライターと作家がその噂を追いかけるパートを経て、物語は電気人間のお話として幕を閉じる。人を食ったようなラスト二行の効果は正直好みのものではないのですが、「噂」や「物語」をパーツとして作り上げられる構造自体は面白いですし、下の『狐火の辻』とはまた違った形での、虚と実の関係性が見られます。

 

狐火の辻 (角川書店単行本)

狐火の辻 (角川書店単行本)

 

  竹本健治の最新作。こちらも噂、そして偶然をテーマにした作品。氏の作品は『将棋殺人事件』を偏愛しているのですが、こちらもまた、「将棋」と同様にそれ自体があやふやな噂というものの存在を追いつつ、何かが起こっているのか判然としない、しかし確実に何かは進行している、という境界線上をゆらゆらとたゆたう感覚が楽しめます。

 今作は、将棋以上に出てきた要素たちがまとまったミステリとしてある一定の形を取るのですが、その事件の構造そのものというよりは、ゆらゆら揺れていた偶然や噂などの実態のあやふやなファクターが、いつの間にか実事件を現出させてしまう、そんな虚から実が生まれ出るような奇妙な体験ができる作品になっていると思います。

 一応、シリーズ探偵の牧場智久は登場しますが、登場シーン自体は控えめ。メインは追跡者を追跡する男にまつわる噂に触れた中年男女たちで、居酒屋で噂の出どころなどを色々と検討する居酒屋探偵団的な雰囲気が楽しい。

 

朱の絶筆~星影龍三シリーズ~ (光文社文庫)

朱の絶筆~星影龍三シリーズ~ (光文社文庫)

  • 作者:鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: Kindle
 

  鮎川哲也が生んだ名探偵の一人星影龍三シリーズの長編最終作。長編は三作しかないし、『りら荘事件』と『白の恐怖』を読みついにこの作品に手をつけました。原型になった短編作品の方を読んでいたので、メインのトリックや犯人は分かって読む形になりましたが、それでもなかなか楽しめました。分量が増え、傲慢な作家に遺恨を持つ人物たちを名前を伏せてじっくりと描き、事件が起きてからようやくそれらが誰なのか判明していく趣向は、ミステリとはそこまで関係はないですが面白い趣向でした。

 サブの毒殺トリックは単純ですが、なかなかうまい手。そして、作家以外の被害者たちがなぜ殺されるに至ったのか、その殺しの動機に対する伏線は、メインのトリックと結びついて見事。読者への挑戦のあと、満を持して現れる名探偵星影隆三は、今回も外部からやってきてあっという間に謎を解きます。今回は電話越しといういつにも増した簡潔さ。

 しかし、これで星影隆三は短長編含んでほぼほぼ全部読んでしまった……軽い達成感とともに、なんだか寂しいような。

 

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)

 

  錬金術が存在する世界で、行われた錬金術師殺害事件。現場は三重の密室。そして、謎を追うのは被害者と同じ錬金術師。

 昨今、特殊状況ミステリの作品が増えつつあり、ファンタジーミステリというジャンル作品も多数刊行されています。本作もそんなある特殊な条件を前提にしたミステリ。

 とはいえ、錬金術というファクター以外は、おおむねストレートなミステリの展開を踏み、錬金術で超バトル! みたいな展開はないです。捜査も容疑者を順々に聴取していく堅実なもの。まあ、時間制限内に事件を解決できないと死刑とか、思わぬ襲撃者に遭遇するとか、そういう要素はありますが。

 錬金術師を巡る国家間のパワーバランスや彼らを擁する様々な国家の面白そうな設定が垣間見えますが、今はまだ垣間見える程度。

 トリックは分かる人はわかるとは思いますが、それを主人公コンビのとある設定面の二重写しにして、主人公たち自身の物語を浮かび上がらせている点などはなかなか良いと思います。なんというか単なる破天荒探偵とツッコミ助手という以上の、コンビの必然みたいなのが盛り込まれているのが良いですね。とても読みやすいですし、ファンタジー・ミステリに興味があるならぜひ。そうでなくてもスタンダードな本格ミステリ味を感じられる作品だと思います。

 色々とこれからという感じなので、売れて続きがかかれるといいなあ、という作品です。