蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

  またそこそこミステリを読んだので、感想をバーッとあげていこうかと。

 

  今現在『十二人への手紙』が再ブレイク中の井上ひさしによる長編ミステリ。二人の作家が招かれた温泉宿で起きる奇妙な事件。橋は落ちるし、鬼の面をつけた怪人物が登場したりと、いかにもな探偵小説風味のストレートなミステリとなっています。とはいえ、どこか「探偵小説」をあえて演じて見せた距離感というのはありますが。

 テレビ、という文化がなにか影響しているような気がしたりするんですけど、どうもうまく言えない……というのもズバリテレビの枠組みで横溝的な「探偵小説」を覗いた島田荘司の『嘘でもいいから殺人事件』とかなり近いテイストがあるんですよね。

 本気で本格探偵小説をやって見せるというより、消えてしまった伝統芸能をあえてヤラセで再現してみる……みたいな。うーん、やっぱりあんまうまく言葉にならないですね。

 

  学園祭のお化け屋敷で起きた殺人事件を、分刻みのアリバイを検証しつつ犯人を特定するという要素がウリの本格ミステリ。そこは確かに細かな検証と伏線の回収が行われていて、少しずつ真実に迫っていく楽しみがありました。

 この作品、動機が全く描かれないことに不満がある向きが結構あるようなのですが、むしろその動機が全く描かれないことこそが、事件の中心にあるトリックの怖さ、そこに居た人間の怖さを浮き彫りにしていると思います。空白がゆえの怖さというものがありますし、また、主人公の「空白」とも連動しているような気がして、なにがなんでも動機がないといけないというものではないとは思うのですが。

 殺人動機はともかく、探偵役の甲森さんといういかにもな陰キャの彼女が事件に挑む動機というものが結構面白く、誰かのためとかじゃなくて、完全に自分のためというのも良いですし、それが結局は報われないというのもまた、独特の探偵像として印象深いキャラクターになっていると思いました。

 

  久々のロスマク。とはいえ、あんまり読んでないんですよね。『ウィチャリ―家の女』とか、『さむけ』ぐらいしか読んでいないはず。確か、「魔術師オーフェン」の登場人物の名前の元ネタってことで手を出したような。

 今作は、ショットガンを持ち出した娘の行方を捜す、というハードボイルドの典型的な失踪者を捜すというのとは少し変わったシチュエーションになっていました。途中で姿を見つけたのを取り逃がすという出来事もあって、失踪者が生きてるのか死んでるのか、みたいな要素はひかえめ。ただし、その娘さんがとても危ういシチュエーションにいるという綱渡り状態が続くので、結構緊張感があります。

 この作品、衝撃の強さだとシリーズピカ一みたいな感じで言われていたので手に取ったのですが、確かになかなかの背負い投げを食らわせる結末となっていました。

 あと、最後に出てくる冷然とした母親という存在が、謎が解けるとともにクローズアップして、強い印象を残しました。

 

遊川夕妃の実験手記 彼女が孔雀の箱に落ちたわけ (星海社FICTIONS)

遊川夕妃の実験手記 彼女が孔雀の箱に落ちたわけ (星海社FICTIONS)

  • 作者:綿世 景
  • 発売日: 2020/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  星海社FICTIONは、ここ最近だと『不屍者の検視人』や『世界樹の棺』などのミステリがスマッシュヒットしていて、こちらの作品もまたなかなか面白いミステリでした。破天荒な自称博士である遊川夕妃とその助手が、借金返済のために潜り込んだ女学園で遭遇した殺人事件を解決する話。「孔雀の箱」と呼ばれる奇妙な箱で見つかった死体。そして容疑者の少女はどこへ消えたのか。

 遊川夕妃のハチャメチャなキャラで物語を駆動していきますが、彼女が駆動する物語には別の側面があり、その別の物語が立ち上がってくる複層的な構成がなかなか。ミステリの要素もシンプルな構図が上手く効果を上げています。

 終盤に向けて高まっていく緊張感と次々と物語が立ち上がっていく感覚が良かったと思いますね。

 

三人の名探偵のための事件 (海外文庫)

三人の名探偵のための事件 (海外文庫)

 

  前読んでたはずなのですが、再読してみたら結構忘れてました。密室トリックの一部とかくらいしか覚えてませんでしたね。

  ピーター・ウィムジイ卿風の貴族探偵、エルキュール・ポワロ風の外国人探偵、そしてブラウン氏風の神父探偵と三人の名探偵、そしてさえない警部が出てきて密室殺人事件の謎に挑むというお話。殺人件数一件で、ここまで引っ張れるのかという。ちょっと中盤は弱い気はするのですが、それでも三人の名探偵たちの推理を順繰りたどることで、読ませます。

 名探偵のパロディ3人については、出番に結構ムラがあって、神父探偵の出番はほかの二人に比べると少なめですね。事件構成は凝っていて、著者の名探偵賛歌もほほえましい一作ですね。

希望が死んだ夜に (文春文庫)

希望が死んだ夜に (文春文庫)

  • 作者:涼, 天祢
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: 文庫
 

  現代における貧困をテーマに、二人の少女の交流と別離を描く社会派作品。なんというか、『砂糖菓子の弾丸はうち抜けない』の系譜にあるような感じの作品で、非常に重たい読後感が後を引きます。

 貧しい少女と恵まれた少女の出会い、彼女たちの触れ合いがやがて希望を育み、そしてついにそれが“死んでしまう”までを描いていく。

 彼女たちの儚い触れ合いの果てに、一方が死に、生き残った少女は自分が彼女を殺したということを主張する。果たして彼女は殺人を犯してしまったのか。

 ミステリとしてもなかなかですが、何と言っても現代の貧困に陥ってしまう若者の姿とその貧困ゆえ、そして世界の狭さゆえに死を選ばざるを得なかった少女たちの悲しみ、そして残された者の絶望。

 たまたま生き残ることができた大人は、かける言葉を必死に探そうとする。そんな少女の絶望を真摯に見つめるような視線に、希望があることを祈るようなラストでした。