蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

 そういえば、そこそこミステリ読んだので、まとめて感想を書こうかなと。twitterはしばらく休むというか、見るだけにしようかな、と。時間もそうなんですけど、色々バカバカしくなったので(いやまあ、気分の問題です)。まあそれはともかく短く感想をば。

ユリ迷宮 (講談社文庫)

ユリ迷宮 (講談社文庫)

 

  まずは『ユリ迷宮』。久しぶりに二階堂黎人を再読したくなってチョイス。まあ、『巨大幽霊マンモス事件』(ちょー面白い!)の感想書きあぐねて、それの前日譚である「ロシア館の謎」を再読してみたくなったのとあと、初読の時あまりピンとこなかった「劇薬」を読み返してみたくなったということで。

 ロシア館はやはりいいですね。古典的な冒険譚みたいな語り口にお宝、ロマンス、そして謎、という盛り合わせ。吹雪の中忽然と消える館、というビジュアルイメージもいいんですが、私としてはその消えてゆく瞬間なんかも想像すると好きなんですね。このトリックに“なんだ(ショボい)”という感想もあるんですけど、だったら大抵のトリックは“なんだ”ですよ。ていうか、めちゃくちゃ大胆で豪快なトリックじゃないですかこれ。個人的には建物消失ものとしてはこれが一番好きです。

「劇薬」はこの短編で200ページ越えのほぼほぼこの短編集はこの話という分量の作品。クズい被害者と彼に対して動機を持つ容疑者たちを一人一人順に描いたりコントラクトブリッジの説明で結構分量を取っているのですが、この被害者に対する“恨み”を延々描写することがこの作品のキモといっていい。この作品、実はかなり単純な真相なのですが、このような小説であるということ自体が、ミスディレクトというか、真相に気づかせない、そういう作りになっていて、今回読み直してみてそこに感心しました。読んでない人はなんじゃそら、という感じかもしれませんがクリスティ的なミスディレクト、と言えばわかりやすいかもしれません。

 

ロンドン園遊会(ガーデンパーティー)殺人事件〈上〉 (講談社X文庫―ティーンズハート)

ロンドン園遊会(ガーデンパーティー)殺人事件〈上〉 (講談社X文庫―ティーンズハート)

 
ロンドン園遊会殺人事件〈下〉 (講談社X文庫―ティーンズハート)

ロンドン園遊会殺人事件〈下〉 (講談社X文庫―ティーンズハート)

 

  次は井上ほのかの『ロンドン園遊会殺人事件』。これは見事な本格ミステリで、結構な分量があり、文体とかもろに昔のティーンズ小説という感じなのですが、慣れてくれば終盤に至り、著者の本格ミステリを書くその技量に驚かされるはずです。複層的なプロットを操り、解決篇で見事にばらまいたあれこれをエピソード含めて収束させていくその手腕は見事。ぜひ復活してほしい本格の書き手ですね。

 

「裏窓」殺人事件―警視庁捜査一課・貴島柊志 (中公文庫)
 

  今邑彩のこの作品もなかなか良かったです。ちょっとホラーとの融合に囚われて、ホラー部分が浮いたような気もしないではないですが、でも得体のしれない余韻としては効果的だと思います。トリックがどうとかじゃなくて、車いすの少女が覗き見てしまった事件と同時刻で起きた殴打事件。何のつながりもないと思えた事件がどうつながっていくのか、という部分が読みどころ。二重底的な真相や犯人の動機の異様さなども印象的な部分でした。今邑彩はどれもクオリティの高いミステリを書いていて、死後にようやくそれ相応に評価されたというのは、なんというかちょっと悔しい思いがします。

 

予言の島

予言の島

 

  映画『来る』の原作である『ぎぼわんが来る』などで有名なホラー作家の初ミステリー。作中で頻出する横溝、京極、三津田を意識したような土俗ミステリー+ホラーなテイストですが、実のところ結構ドライな作品というか、それは、老人たちの冷めた仕草に現れていたりします。そして、きちんとミステリーで怪異とかを解明する。ただし、それでも、いや、だからこそホラーな部分が浮かび上がるというなかなか無い作り。帯に二度目はホラーと書かれていて、それは怪異的なものをうかがわせますが、そうではない怖さというものがジワジワと来るのです。伏線を確認するごとに怖くなるとか、そういう作品、なかなかないのではないでしょうか。それはまさに“呪い”を確認する作業なのです。

 

絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

 

  読んでなかったディクスン・カーの第二作目。旧訳のを積んだまま、新訳でというパターン。実のところ評判はあんまりよくはない作品なのですが、確かにミステリとしてはなんだか乱歩みたいな出来。意外な犯人を狙っていますが、勘のいい人は結構早めに気づくかも。伏線はあれを知ってた人系で意外とあからさま(え、私? 気づきませんでしたけど)。まあ、それよりもこれは全体に垂れ込める怪奇の霧――その雰囲気を楽しむ作品のような気がします。ロンドンの霧に浮かび上がる絞首台とそこに吊るされる男のシルエット、著者が好きなのか無理くりに詰め込んだようなエジプト趣味とか、そういう著者のこれが好きなんだ! を楽しむ作品といっていいかもしれません。

 ラストシーンはなかなか良いですね。絞首台尽くしの本作の、満を持した絵になる感じで。そしてその異様な光景の中、バンコランの口笛が消えてゆく。

 あと、バンコランが『囁く家殺人事件』著J.J.アクロイド(!) を殺人事件のさなかに読んでて、なに読んでるんですかそんなことより現実の事件でしょ! とジェフに突っ込まれ、続く事実は小説よりもなんちゃらという例のクソ面白くもない言葉をさえぎってハッスルし出すシーンは著者の鬱憤みたいなのが見えて面白いです。いつの時代も変わらない。以下引用

だがな、ジェフ、弊害は現にあるのだぞ! 大衆は小説家にそんないやらしい嘲り言葉をぶつけるくせに―― 受けて立って目新しいものを書けば怒り狂う。(中略)『現実離れ』という決まり文句で脅して、危うい想像力の使用をことごとく禁じてしまう……。それでもやはり面白さでは、真実は常に小説の後塵を拝する。ことのほか感銘を受けた実話を、『小説のようにスリルに富む』と評するのだから

 

  前作の『探偵AIのリアル・ディープラーニング 』の続編です。アニメ化を狙ったような設定が楽しいシリーズですが、今回は事件範囲が広く、また首相公邸で事件が起きたりとスケールは大きめ。今回のテーマはトロッコ問題ですかね。三つ子問題とか、アリバイ、足跡のない殺人、何故犯人は凶器を使わなかったのか、等と本格面でも充実した一作となっていました。アニメ的なあれこれが気にならなければ楽しめると思います。

 

medium 霊媒探偵城塚翡翠

medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

 『マツリカマトリョシカ』で充実した多重解決推理を描いた相沢沙呼氏の最新作です。早く読みたかったのでKindleで読んじゃいました。小悦を電子で読むのは初めてですね。

 この作品も、「マトリョシカ」に引き続き、充実した本格のロジックが味わえます。ほんと満腹です。実のところ第三話ぐらいまではなんてことない短編の羅列に見えます。割と今流行りの本格――特殊設定というか、霊媒の存在を前提にして、変則的な形で真実を明らかにしていく。霧舎巧の開かずの扉シリーズにおける“霊能者”的な存在とか、京極シリーズの榎木津みたいな直感型探偵が真実を担保して、それに合わせて推理を組み立てる感じの作品(例に挙げるのがいささか古い作品たちだが……時代はめぐってるんです、たぶん)。

 並行してとある連続殺人鬼の様子がインサートされ、ついに彼は霊媒探偵をターゲットに、という所でここからが本書の本気。殺人鬼の正体とかあからさますぎないか、とか今までの事件、悪くないけどそこまで驚くほどのことでもないような、あとなんかあざとい、というふうに油断していた読者(私だ)を霊媒探偵が、作者が、文字通り嘲笑う正にマジックな展開が待ち受けています。

 マジックとはあくまで周到なロジックによって成立する、そういう著者の矜持みたいなものを感じました。素直にブラボーというしかありません。見事です。隠されていた伏線が輝きを帯び始める瞬間は手品師のそれといっていいかもしれません。

 ただ、作品の出来とは全く関係ありませんが、私は少し気になっていることがずっとあって、著者の鬱屈というか愚痴をストレートに出しすぎるきらいがある性向には、ちょっと苦手感が否めません。真摯な怒りや不満をぶつける作品は嫌いではないのですが、観客に見せている前提に対するジメジメとした嘲笑感みたいなのは、あんまりな……という感じではあります。登場人物の、ではなく作者の、というストレートさも苦手な部分。まあ、そこは好き嫌いでしょうが。

 というか、この作品の“霊媒”部分は著者を、ということなのか(それはそうでもいいですが)。

 まあ、それはともかく、『マツリカ・マトリョシカ』に勝るとも劣らない傑作ですので、本格好きはぜひ読んで欲しいです。しかし、著者のツイートによると『マツリカ・マトリョシカ』重版しなかったのかあ……そうかあ……あんな凄いのに。本格好きというのは実はそんなにいないのか? まあ、そうなのかもしれない……。