だいぶ前に読んだ本たち……やはり感想は早めに書いておかないと色々忘れてしまう……。なんとか思い出しながら書きました。
玩具堂『探偵君と鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる』
玩具堂久々の小説が刊行されました。めでたい。白眉はなんと言ってもノックスの十戒を用いて予告のみで刊行されなかったという探偵シリーズの結末を推理する一篇。これがまた見事というか、ノックスの十戒にこんな使い方があるのかという面白さが光かる。
浅白深也『アンフィニシュトの書 悲劇の物語に幸せの結末を』
本の中に入り、その本の中の「バッドエンド」を回避するという、西澤保彦の『七回死んだ男』に連なるミステリ。まあ、ループに回数制限があるわけではなく、その緊張感というよりは、何度も死に見舞われる作中のヒロインの悲劇に疲弊していく主人公、という感じの系列に近いかもしれない。
なかなか核になる仕掛けは悪くないし、それによって「ハッピーエンドとはなにか?」という命題が立ち現れるのも悪くない。ただ、惜しむらくは枚数自体が少ないせいもあってか、梗概的な物語になってしまっていて、もう少し書き込みがあったらよりよくなったのではないかという思いが強かった。
阿津川辰海『透明人間は密室に潜む』
どれも水準以上のクオリティで、しかもバラエティ豊かな傑作短編集。個人駅には、紅蓮や蒼海の天災館シリーズを含めても著者の筆頭作だと思う。
「透明人間は納屋に潜む」
透明人間の厄介な面が倒叙の犯罪計画の面白さを際立たせている表題作は、透明な犯人と探偵の攻防から、犯人のシンプルかつ大胆な隠れ方に注目させつつ、意外な背負い投げを繰り出すアイディアにあふれた作品。
「六人の熱狂する日本人」
自分はアイドルというものに明るくないし、興味もあまりないのですがそのラストのXの悲劇オマージュな悪乗りも含めて楽しめました。
「盗聴された殺人」
音、という扱いが難しい手がかりを巧く提示してシンプルかつ見事な犯人当てに仕上げている。探偵役の造形も含めて好きな一篇。
「第十三号船室からの脱出」
これもまたアイディア満載のすごい一篇。船の中での凝った脱出ゲームが作中作のごとく配置され、そのなかで誘拐事件が進行しつつ、人物たちのコンゲーム的な読み合いまでもが盛り込まれ、しかもそれらが伏線として真相に回収されていくのだから素晴らしい。
アガサ・クリスティ『雲をつかむ死』
小学生の時にリライト版を読んで以来の新訳での再読となった。正直初めに読んだ時はあんまりいい印象はなくて、偶然に頼った動物殺人、みたいな感じで憶えていたのだが、全然違ったし、意外と周到な計画に基づいた殺人劇だった。航空機、という限定的な空間をなかなか巧く使ったミステリに仕上がっていると思う。
ジョン・ディクスン・カー『四つの凶器』
不必要に現場に散らかった凶器というチェスタトンの某短篇のオマージュみたいな作品。その状況を作るためにめちゃくちゃ苦労したような印象で、その苦労が面白さに勝ってしまっているような感じ。翻訳は読みやすかったように思う……ごめん、もうあまり覚えてない……。
『密室と奇蹟』
カーへのオマージュを捧げたアンソロジー。ストレートなものからかなりの変化球なオマージュもあってどれもバラエティ豊かで面白い。特に桜庭一樹「少年バンコラン! 夜歩く犬」が怪奇性やミステリ性との調和やオマージュ具合も含めて抜きんでていた。傑作と言っていいと思うし、これを読むためだけでも買って欲しい一篇だ。他には二階堂黎人の「亡霊館の殺人」シンプルかつテクニカルな密室が好みだった。こういういくつかの単純な手順によって構成される密室って好きなのだ。
斜線堂有希記『楽園とは探偵の不在なり』
二人以上殺すと「地獄」に堕ちるという節理に覆われた世界で、はたして同一犯による連続殺人は可能なのか……? という特殊な世界設定から浮かび上がる謎が魅力的な本作は、その特殊な設定を巧く組み上げたミステリとして、また仲間を失った失意の探偵の物語としても楽しめる。