蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

島田荘司を読んだ昔、そして今。

 今回は自分にとっての島田荘司ということについて語っていきたいというか、書き留めておきたい。というわけで好き勝手語っていきますよ。

 島田荘司という巨大過ぎる作家の作品を私が読み始めたのは、新本格ミステリ、中でも二階堂黎人有栖川有栖法月綸太郎といった作家を読み進めていくうちにその名前が次第に意識されていったからでした。本屋に行けば、その著者のコーナーーー講談社文庫の黄色い背にはずらりと魅力的なタイトルが並んでいるではないですか。

 いったいどれから読めばいいのか、迷いながらも比較的薄い物を――と思いつつもそのタイトルの言葉に惹かれ、手に取ったのが『斜め屋敷の犯罪』でした。日本の最北端に建つ文字通り傾いだ屋敷、そしてそこで次々と巻き起こる奇妙な出来事とついに起きる殺人。完璧な密室殺人に困惑する刑事たちの前に現れる、奇矯な占い師を名乗る名探偵。立ち上がるゴーレム! そして明らかになる驚愕の密室トリック。あの伝説となっているトリックは、日本はおろか世界の密室トリックの歴史の中に大きな位置を占めるのは間違いないでしょう。

 奇妙な建物とトリックがここまで有機的に結びついた例は中々ないですね。時々、特殊な舞台だからトリックがすぐわかるとかいう賢しらぶってマウンティングしてくるバカがいますが、その発想の凄さが分からないなら、永遠に作者との“知恵比べ”とやらをして俺の方が賢いとかやってればいいです。お前は別に賢くなんかない。

 ……まあ、少し取り乱してしまいましたが、とにかくこのトリックは強烈でしたね。最初に原理を聞いたときはえ、それだけ? みたいな感じなんですよ。この作品についてそういう反応が大したことない、というニュアンスとともに言われたりするように、原理だけ要約すると超シンプル。しかし、それが御手洗のあのセリフ、ただそれだけのために――という言葉の通り、その巨大な事実と結びつくことで読者の脳みそをぶん殴るのです。このトリックはなぜ強烈なのか。島田荘司の作品が示すのは、シンプルであるということが大事であるとともに、トリックというものはいかにしてそれを語るのか、ということがより重要であり、島田荘司という作家はそれがとんでもなく卓越した作家であるということなのです。

 繰り返しになりますがいかに語るのか、というのがトリックの醍醐味でもあるのです。トリックはなに? 答えを知って大したことないね、というクイズの答えの良し悪しをはかってやろうという読み方では、トリックやそのミステリを十分には楽しめない。トリックというものをいかに語るのか、というのがミステリ、特に本格ミステリが形作る物語の一側面である、と言ってもいいのではないでしょうか(ちょっと大きく出た感じではありますが。まあ、あくまでも一側面です)。そこを意識して読む……とまあ、正直わざわざ言う必要もない話ではありますが。

 ……ちょい説教気味&わき道にそれ気味なので修正です。とにかくこの作品から、『占星術殺人事件』『異邦の騎士』と読み進めていきました。『占星術殺人事件』はあの『金田一少年の事件簿』にトリックを流用されていたことを知っていて、トリックを知っていたのにもかかわらず面白く、二回も挿まれる読者への挑戦、そしてそのカタストロフにドキドキしたものでした。一方の『異邦の騎士』は何も知らないこともあって、よけいその真相に驚きつつも涙ボロボロでした。

 そんなわけでハマりましたね。御手洗潔シリーズ読み進める傍ら、吉敷竹史シリーズの『奇想天を動かす』や『北の夕鶴2/3の殺人』にも衝撃と感動を受けてますます島田荘司という作家の作品を読みふけっていったのでした。

 島田荘司という作家はそのトリックの創造力もさることながら、それ以上にたぐいまれな演出力を持った作家です。投入されたトリックが水面を描くように、そのトリックを行使することで発生する謎――いかにしてトリックを行使する過程や行使したことで生まれた結果を奇妙な現象として読者に提出するか。その演出力はなかなかマネできるようなものではないです。そして、その演出力をもって紡ぎ出されるのが骨太な物語。御手洗シリーズは長大化してゆく中で、そのごつごつしつつも力強い物語がトリックを支えていました。

 御手洗シリーズについては、初期の三作、『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』も大好きなんですが、ブロックバスター的な大作――『暗闇坂の人食いの木』『眩暈』『水晶のピラミッド』『アトポス』を経た後の三作、『魔神の遊戯』『ネジ式ザゼツキー』『摩天楼の怪人』あたりが、最近は好きになってきたり。吉敷シリーズだとやはり『奇想天を動かす』や『北の夕鶴2/3の殺人』ですね。あと、ここ最近、というほど最近の作ではないですがノンシリーズの『ゴーグル男の怪』が幻想小説としてかなり偏愛してて、こんな記事も書いたくらいです。

kamiyamautou.hatenablog.com

 

 ゴーグルのようにノンシリーズも面白いものが多く、『ひらけ勝鬨橋!』や『都市のトパーズ』『透明人間の納屋』『切り裂きジャック百年の孤独』(これは一応、あのシリーズの人物が登場しているのでは、という可能性はありますが)『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』『夏、19歳の肖像』なんかもおすすめです。

 今のところ、個人的なベストとしては『龍臥亭事件』『ネジ式ザゼツキー』『異邦の騎士』がベストスリーという感じでしょうか。ちなみに裏ベストは『ゴーグル男の怪』『透明人間の納屋』『ハリウッド・サーティフィケート』。まあ、ベストは気分で変わります。面白いものがたくさんあるので。

 そういえば、『龍臥亭事件』についてですが、この作品、物語がトリックを支えているいい例ですね。後半というか中盤の津山三十人事件の真相に迫る都井睦夫パートは長くてコレ必要なのか、という声もあったりしますが、この怨念のようなパートがあるからこそ、最初に起きる事件の真相が恐ろしくなるのです。アレはほとんどホラーですよ。そして、あの絵が撃ったという意味合いをきっちりと支えている。

 まあ、なんというかだんだんとりとめもない感じになってきたので、ここらへんで筆を置こうと思いますが、やっぱり島田荘司は面白いですね。今も昔も新しい本格の可能性を追求し続ける異邦の騎士。その姿は、自分の中で大きな存在として今でも追いかけている作家のひとりなのです。

 

 ※うーん、しかし、なんか難しいですね。なかなかきちんとした文にならないです……少しでも島田荘司の魅力が伝わればいいのですが、一人で騒いでるだけのような自己満足性が抜けきらない。タイトルもこれでいいのか……。まあとりあえずは、冒頭にあるように今現在の私の“気分”というものを書き留めておくということで。