蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ミステリ映画の快作:映画『ロスト・ボディ』

 

ロスト・ボディ [DVD]

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 『インビジブル・ゲスト』というスペインのオリオウ・パウロ監督の傑作ミステリがあるのですが、その製作スタッフたちによる前作がこの『ロスト・ボディ』です。こちらはその傑作以前という作品ではあるのですが、もちろん素晴らしい出来なので、ミステリ好きはぜひ見て欲しいです。そしてそのまま『インビジブル・ゲスト』を観るのだ。

 あらすじ

 事件は森から飛び出してきた初老の男が車に轢かれるところから始まる。一命をとりとめたが依然意識不明の男は、近くにある法医学研究所の警備員であることが判明。しかし、彼はなぜ持ち場を離れ、事故にあったのか。

 警察は研究所のカメラを調べるが、事件当時の映像は、その警備員の詰め所を映したもの以外は何者かによって切られていた。そして唯一残されたカメラ映像にはカメラが切られたことに気づく警備員が様子をうかがいに出て、そのしばらく後に彼が大急ぎで逃げてゆくさまが写っていた。彼はいったい何を見たのか。そして、何が起こったのか。

 異変はすぐに判明する。研究所に収められていた遺体――そのうちの一つが消えていたのだ。その日に運び込まれた女社長の遺体。その夫である元大学教授が召喚され、尋問が行われる中、やがて法医学教室内で不可解な動きが――何者かの意志が動き始める。

 

感想

 遺体消失や警備員はなにを見たのか、という発端から、やがて消えた遺体――女社長の死の真相がカットバックで語られ、その犯人と犯行計画を知る者との暗闘が法医学研究所で繰り広げられるのがこの映画の主旨ですね。

 ある意味倒叙みたいな流れからやがて、何が起こっているのか、という得体の知れなさが全篇を覆ってゆくさまがなかなかにスリリング。

 そして最後に至って思わぬ導線が導かれ、伏線を鮮やかに回収して姿を現す事件の形が見事でした。なんかあまり、ネタバレしないでそれ以上いうことはないのですが、とにかくミステリ好きは観て損はないです。そして、これを観たらぜひとも『インビジブル・ゲスト』を観ましょう。

 

 予感でつないでいくホラーに対して、ミステリは茫洋としたところからこういう事件だったという形を最終的に作る必要があります。そしてその茫洋としたところを彷徨う部分のサスペンス性が結末と同じくらい重要なんですね。

 いかに結末までを気取られず重要な伏線を張りつつ、サスペンスで引き付けるのか。江戸川乱歩のいう所の「中段のサスペンス」をいかに演出しているのか、そこもというか、そこが注目ポイントでしょう。その中段のサスペンスをより洗練させたのが『インビジブル・ゲスト』なので、しつこいようですが未視聴ならこちらもぜひ。