蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

2022-01-01から1年間の記事一覧

ディック・フランシス『興奮』

競走馬をモチーフにした某携帯アプリゲームをチマチマ頑張っている昨今、なんとなく敬遠していた大人気シリーズに手を出してみようという気分になった。 ディック・フランシスの競馬ミステリシリーズといえば、かつてその二文字タイトルが本屋の棚にずらっと…

愛と正義をもって読者をつらぬく物語:東崎惟子『竜殺しのブリュンヒルド』

物語の結末を暗示するような感想なので、なんの前知識を入れたくない人は読まない方がいい。 なんかライトノベル読みたいなあ、みたいな軽い気持ちで手を出し、結構だらだら読んでいたのだが、中盤すぎてから加速的に引き込まれて最後は、まるで槍のような一…

G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

いくら自分の聖書を読んだところで、あらゆる他人の聖書を読んでみないかぎり、なんの役にも立たぬ―― 「折れた剣」より ブラウン神父って、なんか読みにくいなあーというのも少しあり、旧訳で第三集の不信ぐらいまでしか読んでなくて、せっかく新訳出てるし…

泡坂妻夫『煙の殺意』

泡坂妻夫の短編集を一つ選べと言われれば、基本選びきれないのではあるが、泡坂妻夫を知らない人に一冊勧めたいとしたら、そのミステリの魅力が凝縮したこれをまずはお勧めしたい。どれも高品質な短編で泡坂妻夫の短編と言えば、と挙がる短編も多い。という…

ツカサ『中学生の従妹と、海の見える喫茶店で』

タイトルがなんというか、なんというかなタイトルだが、とてもよかったので。 てか、そもそもラノベをあんまり読まなくなって、そのなかでも普段自分が手を出さないタイプの(というか、普通小説でも手を出さない)物語だが、読んでみるととてもよくできたシ…

友川カズキトリオ LIVE AT APIA40

2022年に入ってから友川カズキのライブを自分が聞くの、これが初めてかな。 友川さんは、顔面神経痛もあって、長らくライブ自体がなくて、今年に入ってからようやく、ライブを再開した感じだけど、今年もコロナの影響は響いているようだ。自分も、友川さんの…

中西鼎『東京湾の向こうにある世界は、すべて造り物だと思う』

青春の死体を見せてあげましょう Impression 過ぎ去ったはずの青春、その残り香としての彼女。しかし、彼は彼女と触れ合っているうちに気がつく。青春は過ぎ去ったのではなく、自分はそこに取り残されてしまったのだと。これはそんな青春に本当の意味で別れ…

描かれないことが、物語を黙示する:多島斗志之『クリスマス黙示録』

多島斗志之、実は初めて読みました。『黒百合』や『不思議島』で名を聞いていた作家ではあったのですが、積読ばかりで読んでませんでした。 今回、裏ベストと言われる本作から入るのはどうなんだという気もしつつ、裏ベストという言葉にひかれて読んでみたの…

伴名錬『百年文通』

百年文通 作者:伴名 練 一迅社 Amazon Impression 本作は「コミック百合姫」2021年1~12月号掲載の表紙小説として連載されたものをまとめたものだ。 ある邸宅に残されていた机の抽斗を介して、現代と大正の少女たちが百年の時を超えて手紙を交わし合うとい…

特撮におけるフィニッシング・ストローク:『狙われた街』を見たあの日

前身のブログに書いた記事を改稿して再掲。シン・ウルトラマン観たし、せっかくだから再利用。資源ゴミは大切にしないとね。……ウルトラマンの話じゃないけど。 フィニッシング・ストローク、という言葉はミステリでよく使われる言葉で、最後の一撃という意味…

ミステリ感想まとめ6

読んで感想がなかなか書けないわけで、結構たまっていた感想をなんとかまとめてがさっと。そもそもがテーマだ切り口だと気を張るから書けなくなるわけで、そんなの気にせずにとりあえず思ったこと短く書けばいいとは思う。 模倣の殺意 (創元推理文庫) 作者:…

西澤保彦『幻視時代』

幻視時代 (中公文庫) 作者:西澤保彦 中央公論新社 Amazon 西澤保彦の真骨頂といえば、その意外な構図を明らかにする論理性、そして本書の解説で大矢博子氏が述べているように、動機ということになる。特に、西澤作品の動機は、犯人を始めとした人間の負の側…

マイケル・イネス『ある詩人への挽歌』

ある詩人への挽歌 (創元推理文庫 M イ 1-2) 作者:マイケル・イネス 東京創元社 Amazon マイケル・イネスといえば、ニコラス・ブレイクやヘレン・マクロイなんかと一緒にカーやクリスティ、クイーンの後継世代みたいな感じで、新本格とかつて言われていて、そ…

都市より生まれし者たち:映画『THE BATTMAN』

ちょっといまさら感あるけど、ようやく書けたので。 ※時間たってるし、観てる人は観てるだろうから――ちょっとネタバレありな感じです。 『THE BATTMAN』――『ザ・バットマン』は、スーパーマンに並ぶアメリカ最古参のヒーローの一人であるバットマンの新たな…

アレンジの巧さが光る:映画『ヒルコ/妖怪ハンター』

本作は、諸星大二郎の人気作の一つで、稗田礼次郎を狂言回しにした連作シリーズ、妖怪ハンターの「黒い探究者」「赤い唇」を下敷きにした映画化作品だ。 主演は沢田研二。監督はサイバーパンクで暴力と愛を世界にたたきつけた『鉄男』の塚本晋也。この映画は…

書きかけのなにか。

改訂完全版 暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫) 作者:島田荘司 講談社 Amazon 『水晶のピラミッド』や『アトポス』を再読する余力がないし、その他諸々でたぶん書かないと思うので。もしかしたら、『魔人の遊戯』『ネジ式ザゼツキー』『摩天楼の怪人』について…

笹沢左保『突然の明日』感想

「いちばん恐ろしいのは、明日という日だな」 トクマの特選!による笹沢左保の名作発掘レーベル、有栖川有栖選 必読!Selectionの第三弾。平凡ともいえる家族の団欒にのぼった奇妙な人間消失の話。そして、そこから急直下、訪れる日常の崩壊。同じ明日が来る…

猥雑の中の哀切:嵯峨島昭『踊り子殺人事件』

※特にネタバレはしていないつもりです。 宇能鴻一郎という芥川賞作家にして著名なポルノ作家という存在を、ぼくは特に知らなかった。しかし、うすぼんやりとは意識するようにはなっていた。彼はミステリを書いていたからだ。そして、奇しくも彼が亡くなる直…

世間では猫の日だ、いや2022の2月22日で超猫の日だ、とやっているそばで、東欧で満州事変まがいの事態が起き、なにか世界にとって決定的なことが起こりそうになっている中、私自身は去年投稿した小説の結果の受け、どんよりとしている。 12月31日の記事に少…

『ゴーストバスターズ』2016年版について、一応書いておくが、これは今公開されている「アフターライフ」に対する2016年を称揚する一部からの「攻撃」についても書いていくため、2016年版にある「問題点」にも触れていくことになる。あまり愉快なことにはな…

夏に観たかった娯楽大作:映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』

Introdaction 60年代後半から70年代前半のアメリカンニューシネマの時代が終わり、『ロッキー』をはじめ、『ジョーズ』、そして『スターウォーズ』、といった新しい才能たちが作り上げる新しい大衆娯楽映画の狼煙が上がる。そして、80年代にその「娯楽」は爆…

架神恭介『仁義なきキリスト教史』

「おやっさん、おやっさん、なんでワシを見捨てたんじゃ〜!」 ユダヤ組の中に突如現れた一人の侠客――イエスの断末魔であった。このキリストを名乗ったやくざ者の死が、これより始まる世界的任侠団体、キリスト組の血みどろの闘争――その歴史の始まりであった…

笹沢左保『空白の起点』感想

Impression 有栖川有栖選 必読! Selection2となる本作は著者の第五作(Introdactionには長編第五作というふうに書かれていたが、改めて調べると不明瞭なため削除)に当たる。 この作品も、Selection1の『招かれざる客』同様、ほの暗い風景がつきまとい、登…

法月綸太郎『犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題』

犯罪ホロスコープI 六人の女王の問題 (光文社文庫) 作者:法月 綸太郎 光文社 Amazon 久しぶりに再読。エラリー・クイーンによる十二か月のそれぞれに事件を割り当てた『犯罪カレンダー』に倣い、十二の星座とそれにまつわる神話をモチーフとした十二のミステ…

エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』/中村有希 訳

かなり久々に再読してみた。創元推理文庫の新訳版はやはり、読みやすいような気がする(まあ、こういうのは気のせいというのもあったりするのだが)。旧文庫版では省かれていた登場人物目録や劇場の見取り図などが今回ちゃんと入れられているのはうれしい。 …

そこにいたのは人か魔か:倉野憲比古『弔い月の下にて』

弔い月の下にて 作者:倉野憲比古 行舟文化 Amazon Impression 変格探偵小説という言葉がある。HONKAKU――本格ミステリが海外において日本独自の推理小説を語る言葉として「発見」される以前の探偵小説に、それはあった――黒岩涙香、江戸川乱歩、大下宇宇陀留に…

終わりなき蜘蛛の巣:蜘蛛男見てきた

注意:なんかめちゃくちゃ愚痴になっちゃったので、無理して読まなくていいです。ネタバレもなくはないのでそのつもりで読んでください。 別に観る気はそんなになかったのだが、映画館の近くに行く用があったのと、SNSでの高評価に行動を誘導されて観たのだ…

泡坂妻夫『蚊取湖殺人事件』感想

Impression 泡坂妻夫の2005年に刊行された最晩年期の短編集。泡坂ファンというか、濃いめのミステリファンには物足りないと言われているっぽいけど、軽く手に取れるように見えて、きちんとした職人技が織り込まれた短編たちだ。4編のミステリと奇術、そして…