蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

2019-01-01から1年間の記事一覧

IMAXで観てきた。

観てきた。ブレランを。『ブレードランナー ファイナルカット』を。 いまさらといえば今さらだ。しかし2019年11月のロサンゼルスは、相も変わらず「未来」の先端で、果たしてフィクションはこれに変わる新しい「未来」のパラダイムシフトを起こせるのか、い…

島田荘司『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴: 名探偵 御手洗潔 (新潮文庫nex) なんとなく再読してみようと手に取って、なんだかあっという間に読んでしまいました。御手洗シリーズといえばの強烈で奇天烈な謎、というものではありませんが、奇妙な発端から、次…

詩野うら『偽史山人伝』

偽史山人伝 (ビームコミックス) 『有害無罪玩具』に続く作品第二集。こちらも著者が自身のサイト「チラシのウラ漫画」で公開していた作品+書下ろしとなっています。今回は、日常に挿入される非日常な風景というか存在を語りつつ、そのことについての認識論的…

十階堂一系『赤村崎葵子の分析はデタラメ』

赤村崎葵子の分析はデタラメ (電撃文庫) 作者: 十階堂一系 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2015/02/07 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 日常ミステリで多重解決ものとして挙げられていたのを目にして、手に取ってみました。これはかなり…

アニメ『押絵ト旅スル男』

ここ連日めちゃくちゃ暑いですね。アツいアついあつい……白くとんだ視界、ゆらゆら揺れるは蜃気楼……というわけで「押絵と旅する男」について、ではなくアニメ作品の『押絵ト旅スル男』についてです。(なんかえらい無理矢理な導入ですが、日常的なフリから入…

島田荘司を読んだ昔、そして今。

今回は自分にとっての島田荘司ということについて語っていきたいというか、書き留めておきたい。というわけで好き勝手語っていきますよ。 島田荘司という巨大過ぎる作家の作品を私が読み始めたのは、新本格ミステリ、中でも二階堂黎人や有栖川有栖、法月綸太…

久しぶりに、このブログの初めになに書いたのか見てみたんですけど、(感想は)主にミステリーについて、になると思いますとか嘘書いていたのでちょっと笑いました。ミステリは……なんか感想書きにくいというか……一応、最初は別のところで書いてたんですけど…

自ら踏み越えようとする人間の深淵:『ザ・バニシング―消失―』

ザ・バニシング-消失- [Blu-ray] 発売日: 2020/08/05 メディア: Blu-ray 1988年に公開された本作は、その評価とは裏腹に長らく日本で劇場公開されないまま、キューブリックが震撼したという言葉とともに、ちょっとした伝説の映画として、映画ファンの間で語…

少女の運命を世界が引き受けること:映画『天気の子』

観てきましたよ、新海誠の最新作を。とりあえず感想に入る前に、私個人の新海誠作品との距離感というか、遍歴みたいなものを書いておきましょうか。(あ、先に言っておきますが、あらすじはめんどいんで省略しますね) 新海誠の名前を知ったのは一応、その最…

ボンクラ・マッドマックス 映画『ターボキッド』

ターボキッド [Blu-ray] 出版社/メーカー: キングレコード 発売日: 2018/07/04 メディア: Blu-ray この商品を含むブログを見る この映画、チャリンコマッドマックスとか言われてたりしますけど、それなんか違うというか。確かに世界観はポストアポカリプスで…

何のために、このブログでだらだら長い文章を書いているのか。その感想をもって人に作品へ手を伸ばしてもらうため? 残念ながら私にそんな力はない。 そういうのは芸能人がアメトークとかで言及したり、SNSで著名なアカウントが触れるので十分だろう。それは…

だだっ広い孤独:映画『荒野にて』

確かにわれわれ人間は弱く、病気にもかかり、醜く、堪え性のない生き物だ。だが、本当にそれだけの存在であるとしたら、われわれは何千年も前にこの地上から消えていただろう。 ――ジョン・スタインベック 孤独の風景。そのイメージはどんなものだろうか。部…

炎とその一瞬の静けさ:映画『プロメア』

CGアニメの一つの到達点といっていいのかもしれない。素晴らしいアクションが、アニメーションの“動き”の快楽が横溢している映画であり、早くも今年ナンバーワンのアクションアニメ映画が出てきちゃったかもしれない……というと気が早すぎるかもしれませんが…

ヒーローなんかじゃない:映画『タクシー運転手』

ヒーローでも何でもない男がいる。彼は貧しいタクシー運転手で、家賃を滞納しつつ娘と一緒に暮らしている。その日を生きるために働いている、ごく普通の男だ。初めはただ、支払いのいい外国人を乗せる仕事を耳にし、それをかすめ取って一儲けしようとしただ…

なんだか結局、全然上手く書けないじゃん、という思いがうつうつと重たくのしかかり、文章指南書に手を出すことにした。というわけで、鶴見俊輔の『文章心得帖』を読んでいるわけだ。いつまで続くか分からないにせよ、こんなふうに外に向けて公表する以上、…

映画という鉤爪:映画『マッドボンバー』

マッドボンバー [Blu-ray] 出版社/メーカー: キングレコード 発売日: 2018/05/09 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (1件) を見る 決してものすごく細部まで作りこまれた作品ではないのだけど、強烈で忘れがたいものとなる、そんな映画がある。この作…

「論理」の吊り橋が架からぬ場所へ:T・Sストリブリング『カリブ諸島の手がかり』

われわれが理性と称しているものは、ふつう思われているように絶対確かできっかりとした働き方をするもんじゃないんです。理性が働くところを調べてみたら、それが実にあいまいで、いくつかの仮説のなかからあてずっぽうに解答に飛びつくようなものだとわか…

のっぺりとした絶望の世界で:映画『太陽を盗んだ男』

DVD観て、そういえば昔、こんなの書いてたなというのを思い出したので。 『太陽を盗んだ男』――。長らくカルト的な扱いを受け、映画好きたちがひそかに、しかし脈々と語り継いできた伝説の映画は、やがて多くの支持を得てオールタイムベストなどの常連となる…

闇を払うは滅びの剣:麻生俊平『ザンヤルマの剣士』

今回は私の好きなライトノベルを紹介しようかな、と。まあ、ぶっちゃけ本読めないし、それっぽい感想というか、妄想もまとまらないので……。後々それぞれの巻ずつの解説というか感想を書いていきたいとは思ってはいますが、まずはざっくりした印象解説をとり…

真っ白な牢獄:倉野憲比古『スノウブラインド』

スノウブラインド (文春e-book) 作者:倉野 憲比古 発売日: 2020/07/31 メディア: Kindle版 ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授。その邸宅は蝙蝠館と呼ばれ、軽井沢近郊の狗神窪と呼ばれる小さな窪地に佇んでいた。そこはかつて住人が野獣と化したという…

映画とか本とか創作物について何かにつけて分かんないからダメとかいう感覚、本当によく分から無いんですよね。みんな頭いいのかな。他人の考えた妄想ってそう簡単にわかるもんなのか、という感じになってきて、最近は分からなくても別にいいというか。その…

五月一日、ファーストデーだからということで、映画三本見てきた。セコイので安い日まで待っていたのだ。 とりあえず一発目は『シェザム!』だったわけだが、なんかあんまりノれなかった。というか、なんかもう、個人的にスーパーヒーロー物に食傷気味なのか…

それは、過去の希望の姿:映画『イカリエ₋XB1』

イカリエ、なんだか不思議な語感。聞きなれないこの言葉は、旧チェコスロヴァキアの映画のものだ。 1963年。鉄のカーテンの向こう側で、『2001年宇宙の旅』(68年)に先駆ける形で生まれたSF映画。そしておそらくキューブリックのそれに何らかの影響を与えた…

ここは、はるか遠くの国ではない:アンドレ・ジッド『ソヴィエト旅行記』

新たに作り直されたこの社会階級の上から下まで例外なく、最も評価されるのは、最も卑屈な者たち、最も迎合的なものたち、そして最も下劣な者たちである。 ソヴィエト旅行記 (光文社古典新訳文庫) 作者: アンドレジッド,Andr´e Gide,國分俊宏 出版社/メーカ…

うつし世VS夜の夢:江戸川乱歩『大暗室』

大暗室 作者: 江戸川乱歩 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2012/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 『大暗室』。乱歩の通俗長編の中ではタイトルからして比較的地味な印象で、特に語られることのない作品のように思える。筋立てもい…

ここ最近、なぜか平沢進の「パレード」を頻繁に聞くのだが、これを聴いていると江戸川乱歩を強く意識する。 江戸川乱歩といえば、隠れ蓑願望とか変身願望、「現世は夢、夜の夢こそまこと」みたいな言葉に代表されるように、ここではないどこかを求めるイメー…

そういえば、前回、じゃなくて前々回の記事で100投稿ということでした。まあ、こんな感じの雑文なんかも割かしあるので、厳密には違うかもしれませんが、なんだかんだで切りのいいとこまで続けられたということで。 それにしても、何というか一向に楽になら…

本当のプロパガンダは「怖く」ない:映画『NO』

NO (ノー) [DVD] 出版社/メーカー: オデッサ・エンタテインメント 発売日: 2015/04/02 メディア: DVD この商品を含むブログ (6件) を見る プロパガンダ。その言葉で何が思い浮かぶだろうか。いかめしい指導者の肖像画やポスターが学校を始めとする公共施…

世界はゆるく繋がっている:道満晴明『メランコリア』上・下

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス) 作者: 道満晴明 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2018/03/19 メディア: コミック この商品を含むブログ (3件) を見る メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス) 作者: 道満晴明 出版社/メーカー: 集英社 発…

食べる孤独な姿にほっとする:施川ユウキ『鬱ごはん 3』

鬱ごはん(3) (ヤングチャンピオン烈コミックス) 作者: 施川ユウキ 出版社/メーカー: 秋田書店 発売日: 2019/03/19 メディア: コミック この商品を含むブログを見る この世には食べ物についての漫画があふれている。おいしいものを食べることの喜び、それを多…