蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

好きな青春ミステリ

 だいぶ前、東川篤哉の青春ミステリを取り上げたのだけど、その他の自分の好きな青春ミステリ作品についても書いておこうかと思い、いくつか挙げていこうかと。

 ――と、思ったところで、そもそも青春ミステリってなによ、という部分にぶつかる。青春といえば若者、ということであれば島田荘司の『異邦の騎士』とか、なんなら笠井潔の駆シリーズも青春ミステリだということにもなりそうだし……範囲が広い。それでは学校を舞台にした学園ミステリというのも、そうするとこぼれる好きな作品もあって、悩んだ結果、主人公を高校生~大学生のものという基準で選んでみた。なんだかんだで青春ミステリも本格ミステリと同じくらい定義するのがムズイのだった。

 

以前書いた東川青春ミステリの記事

kamiyamautou.hatenablog.com

 

 まずは、学生アリスシリーズ……も以前記事を書いたので割愛。一応、記事を貼っておきます。

kamiyamautou.hatenablog.com

 

 GOTH

  というわけでこちらから。個人的に青春ミステリの聖典みたいなところがある。まず何といっても、山田風太郎忍法帖さながら次から次へと特殊な殺人鬼が主人公たちの前に現れるのがいい。

 そろいもそろって殺人に性癖めいたものを持った殺人鬼たちと彼らの殺人形式のインパクトがとにかく素晴らしい。そして、そんな殺人者を観察するというより、もっと積極的に、まるで有名人を追いかけるようにして接近を図る主人公たちの姿がまた面白いのだ。それはよくある、世間を斜めに見るとは違った、子どもが虫取りに行くようなテンションに近い。珍しい殺人鬼見つけちゃったよ、みたいな。著者は怪物対怪物の頂上決戦というふうに形容しているが、まさにそんな感じ。グロテスクなオブラートに包んではいるが、なんだかんだで能天気な物語なのだ。そして私はその“能天気さ”というのが好きなのだ。彼らは、青春を感傷的に謳歌したり、世間を斜に見たりするなんてことはなく、珍しい殺人鬼を探してぶらぶらする、そんな街なか探検物語。

 もちろん、ミステリとしてもクオリティが高い。個人的には「暗黒系」のシンプルかつ鮮やかな推理とその手がかりが好み。話の幕切れも、この物語は何か少し違うぞ、というものを滲ませ、主人公たちの差異もここできっちり見せつける。そしてそれは、話を重ねるごとに明らかになっていく。

 また、この『GOTH』という物語全体の終り方もとても好きで、どこかあっさりとしながらも、くっきりとした主人公たちの別れの絵を読者に残す感じが最高にいい。この作品と、著者の別の短編「masked ball」がある意味、自分の理想の青春ミステリだったりする。

 

体育館の殺人

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

 

  21世紀の“館”シリーズ。そして、クイーンの論理を継ぐ新たなる世代の代表者。その第一作。一つの物証から展開されるロジックの楽しさがこれでもかと楽しめる。そして、本作の密室トリックもなにげに好き。アニメオタクにして学校に住んでいる変人探偵、裏染天馬の繰り出すアニメ談義は古びるのも早そうだが、まあ、それはそれ。シリーズが進むごとに、裏染天馬の過去が匂わされたり、ワトソン役の部活動と事件が乖離し始めて、少し構成が難しくなっている部分がみられるが、事件におけるロジック展開はどの作品も素晴らしいものがある。

 その中でも本作品は、特にロジックが好みというか、二段仕込みのロジックーー特に中盤で容疑者とされた生徒の容疑を晴らすロジックの切れ味が好きだ。また警察を前に一歩も引かずロジックをたずさえて飄々とした裏染の姿は、名探偵というヒーローの姿でかっこいい。

 シリーズ自体も、謎解きの楽しさというか、事件自体を楽しむような(というと語弊があるが)フィクショナルな探偵団の活躍というか、あくまで事件に対してフラットな関わりが、謎解き主眼の楽しさを担保しているような気がして好みな雰囲気を醸し出している。ただ、三作目あたりで、事件自体と乖離した探偵やその他メンバーについての妙なサブストーリーに筆が割かれていることが個人的には気がかり。シリーズも止まってしまっている。

 

教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

  • 作者:浅倉 秋成
  • 発売日: 2019/03/01
  • メディア: 単行本
 
 

  別記事書いたのでそちらを見てください。

教室を一つにすることではなく、教室をひとりにすること、というフレーズが刺さる。教室というセカイに戦いを挑む世界観念型犯人が魅力。

 

密閉教室

新装版 密閉教室 (講談社文庫)

新装版 密閉教室 (講談社文庫)

 

 高校生探偵ものでありながら、どこかハードボイルドな香りがする青春ミステリで、主人公にして語り手、工藤純也のやたらともったいぶった探偵しぐさの空回りぶりがまず好い。著者からハードボイルドぶった探偵志願という役を押し付けられたような、そんな生まれながらの道化役みたいな主人公のキャラクター。そして、その空回りするハードボイルドなテイストが「発情したモリアオガエルのようにね」という、特に含蓄があるわけでないこの忘れがたいセリフに現れている、ような。

 一つ増えた教室の椅子と机、という謎と死体発見現場の密室に始まり、飛雲館事件という仰々しい名前の付いた過去の覗き事件や奇妙な遺書など、バラバラなテイストの要素がやがて一つに結びつき、学校の秘密を暴く。著者の思いついたアイディアを詰め込んだ初々しさやその密度、探偵の饒舌さなど、今読んでもひりつくような熱気を感じさせる。あと、この作品に出てくる密室トリックはとてもスマートで、けっこう好きなタイプのトリックで印象深い。

 さまざまな要素が著者の熱量によって溶接されているような、スマートではないにせよ、その歪さも含めて忘れがたい青春ミステリの一つ。

 

Another

Another (上) Another (角川文庫)

Another (上) Another (角川文庫)

 
Another (下) Another (角川文庫)

Another (下) Another (角川文庫)

 

 著者の先行作の青春ミステリ要素強めのアップデート版みたいな趣がある本作は、ちょっと『屍鬼』っぽいどことなく閉ざされた田舎町のホラーテイストがまずぞくぞくする。そして、転校してきた主人公が教室で「いないもの」とされている見崎鳴に興味を持ち、教室に敷かれたルールのようなものを探るところから、鳴と秘密を共有するような関係になったり、鳴の家の人形堂を訪れたりする前半パートですでに心つかまれるものがある。そのあたりの何が起きているのか? という不安や少女と秘密を共有するような青春感がたまらない。

 そして後半に至り、不気味な予兆が堰を切ったようにして凄惨な人死にが連発し、やがてホラー映画的な殺戮へと突き進む。そして最後にはミステリの仕掛けがあざやかに炸裂するが、最後まで理ではとらえきれない怪異もまた垂れ込める。まさにホラーとミステリ、そして青春が贅沢なくらいに詰まった作品となっている。アニメもなかなか良くできていたし、漫画もキャラクターを中心に違ったテイストが楽しめる。