蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ミステリ感想まとめ その10

 読んだけど感想書いてなかったやつを、再読したやつも含めてザクっと。

 

 『幽霊たちの不在証明』でデビューした著者の三作目。嵐の山荘物というか、土砂崩れで交通が遮断された村の家に、訳ありな二人組が転がり込んできて、事件が起きてしまう。その家では十三年前にも同じような毒物での死があって……というお話。王道的でこじんまりと見えて、なかなかミステリマインドな企みに満ち、後味は悪いもののそれを含めて楽しめる。特にギリギリを責めたようなメイントリックはいかにも本格らしい紙上のマジックって感じでいいんだよなあ。犯人特定のロジックも地味だけど堅実な感じで好かった。結構おすすめな作品。

 どうでもいいけど、貼り付けたついでにアマゾンレビュー見てしまったのだが、相変わらず、テメーのレビューの方がクソつまんなくて逆にお金もらいたいぐらいなんだがという、またお前かよ、みたいなカスタマーがいて、カスタマーレビューにこそ星つける機能欲しいよな、といつも思う。

 なんだろうなあ、ネガティブ評なのはべつにいいんだけど、なんかいちいち偉そうなのがムカつくんだよな。レビューを成績というか査定つけてるのと勘違いしてるような感じとかも。あ~とにかくムカつくぜ。

 見えない、聞こえない、話せない、という三つの障害を持つ女性が、地震により、最新の障碍者支援都市として造られたジオフロント――「WANOKUNI」の地下五階に取り残されてしまう。そんな彼女を非難シェルターのある三階までドローンで誘導する困難なミッションが立案され、主人公ハルオはそのドローンの操縦者として、彼女の誘導に挑むことになる。火災や地下からの浸水により、タイムリミットは6時間。それまでにハルオはその特殊すぎる要救護者を無事シェルターまで導くことができるか。

 井上真偽の最新作は、次々と巻き起こるアクシデントをかいくぐり、いかにして意志を伝えあうことができない相手を誘導するかというタイムリミットサスペンスもの。とはいえ、次々と降りかかるアクシデントの中で、救護対象に浮かび上がる疑惑を中心にしたミステリも展開され、ある程度、予測しやすい解決だとは思うが、意外性のあるものが用意されている。主人公の、過去に起きた兄を失う事故の記憶が物語の横糸に組み込まれていて、読みやすくドラマ性もある作品に仕上がっていた。

 

 聴覚、視覚、臭覚に味覚に触覚と五感をテーマにした連作集。それぞれ違う物語だが、それを最後の『Extre stage「第六感」』でまとめ上げる構成美が光る。各短編もテーマに沿ったミステリが職人技的にきっちり仕上げられていて、個人的には、なぜかケーキを観ると気分が悪くなる、という謎から出発してスリリングな結末に至る第四話の『悪いケーキ』が好み。

 

 櫁柑花子シリーズの著者による最新作の本作は、初のノンシリーズ作品となる。

 魔女と人形をモチーフに、特殊設定をベースにしたミステリが展開される。特殊設定は巧く使われているし、謎解きによってタイトル回収する趣向とか、かなりおぞましい真相や結末とか、要素要素は悪くないのだけど、全体的な読み味はあんまりよくなく感じた。多視点というか視点を順番に映り替えて描かれる物語が、どうも芯を欠いたような印象を受けてしまい、ラストのおぞましさもどこか点で収まっていて、物語全体のピークにはなってないように思う。ラストの視点人物の執着も、根拠の描写不足に感じてしまい、乗り切れないものがあった。

 

 再読。バークリーの代表的シリーズ探偵シェリンガムが登場する著者の代表作の一つ。実のところ、以前読んだときはそこまでピンとこなかったというか、事件当時の人物の動きがあんまり把握できなくて、あんまり入り込めずに、単にいつものやつ、みたいな感じで読み終えてしまっていたので、もう一度読み直してみた。

 今回はあんまりよく分かっていなかった真相も、読んでる途中でこれってそういうことか、という風に気付けることができた。評価自体はやっぱり『ジャンピング・ジェニィ』とか『最上階の殺人』の方が好きなのだけど、シェリンガムが出てきてからの楽しさなんかは以前よりずっと味わえて、よくできた事件の構造なんかも読めてなかった諸々が拾えてよかったかな、と。やはり、ミステリは再読してみるものです。