蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

オカルトとロジックの青春ミステリ:今村昌弘『でぃすぺる』

でぃすぺる (文春e-book)

 

感想

 自分の好きな青春ミステリの二大巨頭として東川篤哉の鯉ヶ窪学園探偵部シリーズともう一つは乙一の『GOTH』がある。前者はバカっぽいあっけらかんとした要素が、そして後者は渇いたゴスな雰囲気――以上に噂や殺人鬼といったミステリを探して町をぶらぶらする要素が、自分の求める青春ミステリとして大好きだからだ。なお、後者には『夕闇通り探検隊』というゲームの風景も自分に大きく刻まれている。

 そんな、自分の好きな方向の青春ミステリを本格ミステリの新星――その二大巨頭が同時にそれぞれ書いてくれるなんて、なんという僥倖か。21日に同時に発売された阿津川辰海の『午後のチャイムが鳴るまでは』は、馬鹿な情熱の青春世界が。そして本作、今村昌弘の『でぃすぺる』には、奇妙な七不思議が孕む謎を求めて主人公たちが町を駆け巡る青春ミステリが描かれているのである。俺の好きなタイプの青春ミステリがこう続けざまに読めるなんて、や~、まさに盆と正月がなんとやらという状態か。

 本作は、オカルト好きな小学生の主人公ユースケ、クラスの優等生で委員長気質のサツキ、転校してきた変わり者のミナが、死亡したサツキの従姉――マリのPCに遺された町の七不思議を追いかける中、やがて町に隠されていた大きな秘密に行き着くというストーリーが展開される。本格ミステリとオカルトが融合され、本格の型にはまらない著者らしい感覚のミステリに仕上がっている。

 また、七不思議を題材にした本格というと、それぞれで事件があって解決しては次に行くみたいな、連作短編的な型にはまった形式が思い浮かぶかもだが、本作はちょっと違う形式になっていて、一つ一つの不思議話が、過去の事件の真相に迫る手掛かりとして機能していて、それぞれが何故か微妙な変更点が加えられ、それは何を意味しているのか? その意図は? を探りながら展開される長編小説的な読み味となっている。

 てか、毎回思うのだが、今村昌弘はエンタメが上手い。怪談じみた話を追いながら、町探検する楽しみ、オカルトの肯定/否定の立場からの推理合戦、特に接点がなかった三者が学校での日常や行事を通して特別な三人になっていく様子などを描き、やがて町に隠されていた禍々しい真実と対峙するという構成がかなり上手く組んである。

 後半に向けてのオカルトが侵食してくる不穏な空気と、主人公たちの周りにいよいよそれらが狭まってくるような感じとか、クライマックスへの緊張感ある盛り上がりをきっちりキメてくるし、そこへ小学生が主人公ということで生まれる行動制限なんかも、うまく機能している。

 また、現代的なアプローチ――スマホや動画サイト、SNSといった要素が主人公たちの捜査や巻き込まれる怪事を彩ったり、また事件の根幹にも組み込まれていたりして、そこらへんもなんか巧かった。『自由研究には向かない殺人』とはまた違う、日本的な味付けがある。

 中心にある雪密室という謎が本格好きの目を引くが、本作はガチの本格ミステリというわけではなく、むしろ型にはまらない形で、オカルトや怪奇、推理に冒険、そして青春といったエンタメ要素を盛り込んで見事に融合させたジュブナイル・ミステリと言えるだろう。個人的には好きな要素しかなくてひたすら楽しかったです。時間をおいてまた読み返してみたい。

 てか、自分もこういうのが書きたかったんだよなあ……。