蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

映画『WXIII 機動警察パトレイバー』

 そういえば観てなかったなこれ、ということで観てみた。

 本作は、機動警察パトレイバーの劇場公開アニメ第三弾となる、のだが前二作の『機動警察パトレイバー the Movie』『機動警察パトレイバー 2 the Movie』――まあいわゆる「押井版」と比べると知名度というか、かなり影が薄い存在に見える。

 監督は『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』の高山文彦。ポケ戦はガンダムOVAの中では一番好きだ。脚本は「とり・みき」、作画監督には黄瀬和哉がいるし、音楽はおなじみ川井憲次でクオリティ自体は決して悪くはない。というか、街の作画は押井版の二作に勝るとも劣らない、かなりいいものだ。

 しかし、これがあんまり人気ないのはまあ、観てみればすぐわかる。パトレイバーと銘打ってはいるものの、いつもの「特車二課」のメンバーはほぼ出てこないというか、物語においてメインでは全然ない。本作は原作漫画の「廃棄物十三号」を基にしてはいるものの、アプローチが完全に所轄署の刑事視点で展開されており、言ってみれば、「パトレイバー the Movie」の刑事二人が延々と街を歩いて聞き込みをするシーンがメインになっている作品、それがこの映画なのだ。実のところ、コミックの映像化というより、ほとんどオリジナルの劇場版1・2の後に、ようやく原作の「廃棄物十三号」の映画化を期待したらこれ、ていうのは、確かによけいファン受けはしないだろうな、という気はする。とはいえ、それを差し引いても、めちゃ地味な映画なのだ。

 じゃあ面白くないかというと、そんなことはなく、結構面白い。楽しいとか、エンタメ的に面白いというよりは、映画作品として面白いというか。

 作品のトーンは恬淡として暗い。てか、原作の「廃棄物十三号」は割と王道的なSF怪獣モノみたいなテイストで、それをまあこんな悲壮的な話に脚色したよなあ、という感じだ。自分としてはこっちの方が好みではあるし、怪物と母娘の物語として、そのどうしようもないラストシーンは、観る者の胸に重く沈み、その作品を忘れがたいものにしている。

 『伊藤計劃映画時評集 2』では、この映画をあるワンカットのためにある映画と評している。確かに、この映画はクライマックスに出てくるワンカット、そこにこの映画の悲壮さというか、なんてことだ……という感覚が込められている。それも、これ見よがしの決めカットではなく、ほんとうにさりげなく。異様でありつつもさりげなく見せられたその意味が分かるまでの認識のタイムラグ、それが自分にこの映画を忘れがたいものにさせているのだと思う。

 確かにほとんど地味な刑事ドラマみたいな捜査シーンが多いし、しかもそれが「劇パト1」ほど、演出的に寄与していないとは思う。「劇パト1」は刑事二人が街を行くことが、犯人の見てきた街をたどることであり、ひいては事件の中心となる「バビロンプロジェクト」を批評的にみせ、映画の中でなくてはならない要素になっていたが、本作のそれは、「劇パト」だからやっているような形になっていて(しかも長い)メインの物語と演出的にあんまり結びついていない。「彼女」が住んでいた街、「彼女」がこれからも過ごし続けるはずだった街、という風に演出できていたら、もっと違った感じになっていたような気はする。

 まあ、それはともかく、自分は結構悪くないと思ったし、どこか登場人物も画面も陰鬱なこの映画に、なんとなく惹かれるものがあったことは確かだった。