本当に泉なんてあると思うか? 『SAND LAND』より
28日に鳥山明の漫画原作の映画『Sand Land』を観に行った。レイトで久しぶりに観客自分一人という事態。ホラーじゃなくてよかった、みたいな。映画館の暗がりで一人っていうのは地味に怖いところはあるが、知らん人と二人というのもそれはそれで怖い感じもするし、貸し切り感も楽しめる一人の方がいっそのこと気が楽なところかもしれない。
それはともかく、久々に鳥山絵が存分に動くところを観てきたわけだが、本作は話としてはかなりシンプルだ。水を国王が独占する砂漠の世界では深刻な水不足が進み、人々が困窮する中、一人の保安官が泉を求めて、人間の「敵」たる魔物の皇子とともに旅をする話だ。
マッドマックス・フューリー・ロード風のプロットではあるが、こちらはジュブナイル風味の冒険活劇色が強い。鳥山キャラらしいコミカルなキャラや著者のモデラ―としての趣味や造形力に裏打ちされた戦車が砂漠を疾走し戦車戦を繰り広げるところは、この映画のアクションの白眉だろう。砂漠を駆ける冒険感として、そこまで目新しいものはないかもだけど、砂漠を乗り物で駆けるのはやっぱり楽しい。
また、原作と一緒に読めば、演出をどうブラッシュアップしてたり足したりして映画として魅力あるものにしているのかもわかる。演出によって、より映画らしく画面のスケールがアップしていたり、キャラクター性や物語に奥行きを持たせるものが追加されている。週刊連載で書いている漫画はどうしても演出が引き算的になって、そこを映画は物量を増やす感じで、特に終盤がいい具合にスケールアップしている(虫人間の数をかなり増やしたり、ゼウ将軍が空中戦艦に乗ってきたり、ゼウとラオとの対決シーンを用意している)。まさに教科書的と言ってもいいくらい見事な原作のブラッシュアップがなされているので、原作と一緒に観るとまた面白いと思う。
本作は、劇場アニメとしてはプロットも設定もかなりシンプルなわけだが、鳥山明のどこかカラッとした登場人物や世界は、クソでか感情とかういうウザ目の言葉でキャラに湿っぽく耽溺するのを適度にあしらっている感じがして、個人的にはそこも作品全体の風通しのいいシンプルさにつながっている気がする。
悪を打ち負かし、真実を明らかにし、世界が良くなっていく予感をここまでストレートに力強く組み立てる物語が、この時代にどういう風に受け止められるのかは正直よく分からない。ただ、この物語を観終えて、自分は少しうるうるきたというか、何となく泣けてきちゃったことは確かだ。それは別に映画のドラマに感動したしたとかそういうものよりも、世界が少しずつ善くなっていくという予感が、それこそ水の流れのようにこの砂の大地に広がっていく、そんな光景がなんとなく眩しく見えたせいなのかもしれない。
それはフィクションにしかない希望。だけど、フィクションだからこそ描ける善なるものへの希望。スクリーンのこちら側の自分たちには、それこそ幻のようなものなのかもしれない。本当にそんな希望なんてあると思うか? それでも、今はフィクションですら、直球に描くことがなかなか難しくなってしまったかもしれない、当たり前の善が当たり前のように吹いていく――スクリーンから吹いてきたその風の清々しさを、私は忘れたくないと思った。
主題歌に乗せためちゃいいPVが出てるので紹介させてくれ。観た後にも沁みるぜ。
冒頭十五分も観れる。漫画の第一話分あたりですね。しかし、このサムネは観客を引き込むのに効果的なのか……わからん。