蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

書いた小説について&小説を書いてみて

 初めて長編小説を投稿した。ジャンルは一応、本格ミステリ

 

kakuyomu.jp

書いたものについて

  一回くらいは、本格ミステリを書いてみたいということで、何とか書いた。この作品の原型みたいなものは、高校生の時にノートに書いてたやつにさかのぼる。

 当時、江戸川乱歩に入れ込んでいた自分は、怪人対名探偵みたいな探偵小説を書いてみたかった。そこで、殺人予告状を毎回出しては警備中のターゲットを殺してていく殺人道化師の話を構想していた。まあ、要するに『魔術師』や『地獄の道化師』の真似っこである。それで、原稿用紙とかにだらだら書いてたのだが、事件のシーンとか書いてるだけで、特に物語になるわけでもなく、けっきょく飽きて放り出して終わった。

 で、まあ、一応、改めて書くにあたり、広域な舞台で乱歩的な怪人が跳梁するというコンセプトは継続し、高校生三人が主人公&犯人の設定とプロローグ部分の「原稿」は拾って書き始めた。

 事件の核は、ロジック主体でそれに合わせて別に考えていたトリックをくっつける形をとった。トリックはあまりにもしょぼすぎるので、トリックでの謎を押し出すというよりは、状況の不可解さで押していこうという感じだったが、なかなかうまくいかなかった気がする。

 肝心のロジックだが、これもやはりかなり難しく、泥縄式にならざるを得なかった。なんとかクイーン流の物証からたどるものを、と頑張ったが難しい。目標としては、何とか印象に残るような物証を目指した。せめてそれっぽさを感じられたならうれしいとしか言いようがない。事件の真相自体も妙に観念的なものによって回りくどいものとなり、初めてやるにしては荷が重すぎるというか、影響された作品とは違った独自性を出せたかとなると心もとない。

 書き終えるのに要したのは一年ほど。まあ、実質は半年くらいだろうか。書くこと自体もそれなりに大変だったが、やはり難しいのは「物語」になかなかならないということだった。事件をつなげていけばそれっぽい流れはできるが、それでは物語のうねりはできない。それを作り出すのはやはりキャラクターの関係性だろう。

 そういう意味で、物語が流れ始めたのは、御堂司というキャラクターを導入してからだった。これはまあ、『ハーモニー』とかの影響丸受けなキャラなのだが、この最後に導入したキャラクターによってなんとか物語らしいものへの体裁をとることができたと思う。まあ、キャラクターの描き方はまだまだ課題が残とるころで、とてもじゃないが上手くいったとは言えない。

 とりあえず上手くいった点と言えば、広いフィールド――町を高校生たちが駆け回るというのは、それなりに上手くいったのではないかと思う。

 まあ、ともかく、書き終えることができた。誰でも一作は小説は書ける、という実践以上のものがあるかどうか怪しいところだが、とりあえずは最初のステップは踏めたことは喜ぶべきか。

 今回はプロットも書かずに書き進めたが、次書くとしたらやはりプロットはそこそこ組み立ててから臨んだほうがいいような気はした。登場人物表も雑な感じだったので、キャラクターを確立するためにもある程度詳細な人物設定表は用意したほうがいいだろう。

 なんかネガティブ気味だが、バラバラ死体とか挑戦状とか暗号とかそれっぽいものは出てくるので、「ミステリ」はそれなりに感じられる作品にはなっているんじゃなかろうか。正直、「面白い」は保証できないので、めちゃくちゃ暇だとか素人が書く小説ってどんな感じになってしまうのかとか、そういう感じで触れるのがいいとは思う。

 万が一読んでしまったのなら、感想・評価をお願いしたい。……いや、まあ、ちょっと怖いけど。

 小説を書いて、それを公開するってやはり怖いことだ。それは心底実感した。

 

書いてみて 

 実際書いてみて感じたことは、書き終わることも大変だが、それ以上に見直して、修正することのほうがはるかにだるいということだ。伊坂幸太郎だったか忘れたが、新人賞への投稿作について、七回直せというプロ作家の言葉を実行したみたいな言葉があるが、かなり修正する羽目になる。この作品は、公募に出してみた作品なのだが、それもまた、再度修正するにあたり結構な心理的障壁となった。

 出してみた公募についてだが、もちろん結果は振るわなかった。あらすじで面白そうと読んだが、冗長で微妙という評を三行ほど(もないが)書かれて終わった。これ書くのにかなり時間がかかったのだが、落とされるのはあっさりである。もちろんそういうものだが、これを何回かわからんくらい繰り返して、公募を突破するのか……というその困難さが改めて重く実感された。

 それはともかく、落とされたことへの恨みをエネルギーにネットの投稿サイトに投げることにしてみたものの、落とされて「ふざけんな」と粋がってみたところで、一回プロにつまんな、という烙印を押されたものははたして面白いのか? という疑問が絶えず忍び寄ってくる。その状況の下での修正は予想以上にメンドクサイことになった。これが結構なモチベーションを持続する上での障壁となってくるので、公募の落選作をネットに修正して上げるのもなかなかきついような気がした。

 最初のほうはできるだけ文字数を減らす以外そこまでなかった修正だったが、やはり後半部になるに従い、読み返すことの辛さも蓄積され編集画面を開くことが億劫になってくる。そして、解決部分を直視するのがまたつらい。ガタガタなのが明らかに目に付くし、ロジックなどの根幹部分は変わっていないものの解決編はほとんど書き直すことになった。最終部の問題はなんというか、誰がどう推理していくのかという構成が主になった。

 最後の推理部分は、美術館のテラスということになっていて、主人公の一人の女の子が犯人指摘まで推理し、そこからもう一人の男の子が全部見通していて真の意図を明かす、みたいな構成だったのだが、それだと女の子ひとりが道化役みたいになってしまい、なんか違うような気がして、推理は男の子主人公が全部行い、それを含めた真相解明パートは三段階構成みたいな感じにして、最後に犯人が推理しえない部分をカウンター的に打ち返す、という今回の形に改めた。解決編の舞台が美術館というのも男の子主人公が発端となった事件の場所に回帰するという趣向で入れていたが、「犯人当て」ならこっちのほうがいいような気がしていつもの喫茶店へと変更した。ドアという要素で隔絶や内外(うちそと)的なモチーフで締められそうな気もしたからだが、あまりうまくいっていないような。まあ、美術館のテラスよりはましかも程度だ。

 最後のモノローグ部分は、公募のものは普通に主人公の男の子がぶらぶら夜になる前の町を歩きながらなんかエモっぽいこと言う、みたいな感じだったのを現行の部分に改めた。改めたやつは公募投稿時に実はそういうことだったという「設定」として存在していて、書くのはめんどいから書かなかったやつだったのだが(あと時間がなかった)、もともとの部分が主人公で締めるために無理やり書いてあったこともあり、だらだらエモっぽいことをオナニー的にやるよりはましだろうということで改変した。

 全体的な問題として、キャラクターが上手く使えていない問題があり、とくに旧文芸倶楽部のメンバーが微妙で、そのためにまるまる一話で追加したが、まあ……。

 見直し、修正していく作業は、それをするたびに自信が削られていくいっぽうで、なかなかにきつい。そしてやはり、怖い。小説を書くことは自分はこれだけですというのを赤裸々に公開することでもあり、それがめちゃくちゃ怖いのだ。まあ、それでも良くも悪くも自分はテキトーさというものが勝っているのか、だらだらしつつとりあえず「完成」というところまでできたのはまあ、悪くないのかもしれない。というか、それくらいしか喜べるものがない。あと、書いてみて思ったのだが、達成感とか充実感とか感じることはあるにはある。しかし、問題なのはそれが他人が読んで面白い、には直結しないということ。「面白い」ってなに? という疑問には自分がそうだと信じるしかいというのは、それはそうだとしても、やはり心細い。しかし、まあ、いかにしてその思い込みを持続させるか、というのがひとまず続けるにあたっては必要なのだろうと思った。

 モチベーションもまたなかなかの課題だ。自分は最後らへんはもう、自分の面白く感じなかった商業作とかを意識しながら、あれよりも俺のほうが面白い、という負のモチベーションを動員することになり、あんまりそれはよろしくないような気はする。いかにポジティブなモチベを持つのかも一つの課題だろう。

 まあしかし、やはり小説を書き続けるのはかなり難しい気はする。次を書きたいというのはないわけではないが、どれもなかなか形になりそうもない。定型的なものをということで、青春ミステリと言えばやはり学園祭系のミステリをと、たいていの舞台は学校一つだったが、安直に二倍にして学校二つで展開するのをぼんやり考えていたが、めんどくさいだけだった。おまけに殺人事件は学園祭というお祭り要素に水を差し、せっかくの舞台の特徴を生かしづらい。やはり日常の謎か……その辺は『クドリャフカの順番』はさすがの日常の謎系学園祭ミステリの決定版的な貫録を持っている。だからこそ、学園祭で殺人事件が起こる決定版的なやつを狙いたい……のだが考えるほど、かなり難しいことがわかるだけでなかなかうまくいきそうにない。

 いったんミステリから離れて、ライトノベル的なこれまた典型的な吸血鬼もの――吸血鬼少女の使い魔になった少年が主人の棺桶を振り回してゾンビをぶん殴っていくやつを構想しているので、そっちで物語やキャラクターの書き方に重点を置いた挑戦をするべきな気もする。今回、キャラクターをどう魅力的に描き、物語そのものを魅力的に描くか、ということにもかなりの課題が残ったので、そこを意識した修練を積んでいきたいと考えている。しかし、それ以前にふたたびまともな分量の小説を書けるかだが。まあ、やらない理由なんていくらでもつけるので、とりあえずはなんかやっていこうの精神でだらだら時間をかけつつでもやっていこうかな、みたいな。でも、スピード感も大事らしいし、ほんと色々とめんどくさいよ、小説を書くって。他人のを読むほうがだんぜん楽。

 そういえばこういうのも一応、買ってる。まあ、ちょっと見て課題を実践してないのだが……

 

 あと、最後の最後に。自分の好きな画家に小山田二郎という作家がいて、彼は自分の作品について“排泄物”という風に表現していた。これは、作品を作る過程で様々なものを取り込むことこそが「作品を作る」ということであり、作品はただただ作家が取り込んだ残りかすとしての結果に過ぎないという風に自分は解釈しているのだが、その解釈でいえば、今回やってみた作品というのは吐瀉物みたいなもんで、処理しきれずにぶちまけたみたいなかっこうである。下世話な表現で申し訳ないが、なんというか体感的にはそんな感じだった。