蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

物語が悲しみで結晶するとき:ジェローム・ルブリ『魔王の島』

魔王の島 (文春文庫)

 

あらすじ

 地方で新聞記者をしているサンドリーヌは、これまで一度も会ったことがない祖母の死の報を受け、同時に弁護士から祖母の住んでいた島に来てほしいと頼まれる。気が進まないサンドリーヌだが、上司に無理やり一週間の休暇を与えられ、その島に赴くことになる。島にはかつてナチスが建てたトーチカや兵士たちの住居があったが、終戦後、子供たちのキャンプ施設へと再利用され、サンドリーヌの祖母はそこで子供たちの面倒を見る仕事をしていたという。しかし、そのキャンプの中で異変が起き、キャンプは閉鎖され、祖母をはじめとした関係者たちが細々と住む島へと変じたという。

 祖母はかつてそこで何を見たのか。島に着いてからのサンドリーヌにも何か得体のしれない影のようなものがつきまとう。当時のキャンプ中の子供たちが次々と見た「魔王」とは何なのか。真実に迫ろうとするサンドリーヌだが、その「真実」はサンドリーヌを、そしてなにより読者を、思わぬ「物語」の場所へと連れていく……。

 

感想

 最後の展開でちょっと評価分かれるかも、みたいな評が結構あって、実際ケチョンケチョンな評もちらほらな本作。個人的には全然アリな展開というか、最後の展開も含めて映画化されたら楽しそうな作品だと思いました。ていうか、似たような映画はそれこそたくさんあったりするのだが。ただ、この作品は、ある種の悲しみに彩られている……というか、悲しみの結晶みたいな物語なのだ。ある人物の悲しみの果てに生み出された物語。それは、某監督の某作品※ネタバレ*1みたいな痛ましさもありつつ、それに加えてどこかグロテスクな部分もある。救済のための「物語」がどこか寒々しい牢獄と化しているラストはなかなか印象的だったと思う。そういえば、日本のある変格作品※ネタバレ*2にも近い作品だったりする。

 なんていうか、それ自体を嫌うというか程度の低いものだと評価する人が一定数出てくるギミックがあるので、まあ確かに人を選ぶとは思う。とはいえ、死んだ祖母が住んでいたいわくアリないかにも怪しい島に主人公がついてから、そこで働いていた祖母の当時の状況をカットバックで展開させつつ、「あのとき何があったのか?」という興味を思わせぶりな「魔王」の棒人形という落書きで彩りつつ引っ張り、そして急展開からの急展開のドライブ感というか、どこに連れていかれるか分からない感じのストーリー展開が楽しかった。まあ、途中で、こういう感じなのかというのは分かるのだけど、だからこそ、最後のあれが予想出来て、ここで終わっててほしい……という思い虚しく最悪へ進む展開とか、すごくよかった。

 確かに本格ミステリ的な読み方をすると伏線もそんなないし、ルール無視のやりたい放題じゃん、みたいな感じはするかもしれないが、個人的にはそのやりたい放題感が楽しかった。まあ、読み終えたらやっぱ本格ミステリ読みたいな~みたいな欲求は湧いたけど。まあ、とにかく、自分的には読んで悪いということは全然なくて、楽しいミステリ(後味はあんまよくないが)だったのは確かでした。

 そういえば、タイトルの「魔王」も作品の核とたびたび出てくる詩とリンクしていて、その辺もなかなか良かったように思います。

*1:ギレルモデルトロ/『パンズラビリンス』

*2:倉野 憲比古/『スノウブラインド』