蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

 自分が尊敬していた人が死ぬよりも先に遠くに行ってしまうことがある。私はそれを島田荘司という人によって味わうことになるとは夢にも思わなかった。彼が6日のトランプ支持者が連邦議会を襲うという、民主主義そのものへの挑戦を、自由への狼煙であると言わんばかりの文書は、あまりにも私の見ている現実と乖離したものにしか思えなかった。

 彼がトランプを対中国において英雄視していることは、以前Facebookに投稿していたゴジラキングオブモンスターズ評の中で、キングギドラを中国、ゴジラをトランプに例えるという眩暈がするような比喩でにじみ出ているが、笠井潔tweetを見る限り、つまりは中国への脅威が沖縄の反基地運動への反発にもつながっているということも分かる。

 島田荘司は国をはじめとして大きな存在に押しつぶされる人々に関心を寄せ、その人たちの悲しみを描いてきたはずだった。この国に存在する弱者の声を、悲鳴を、どんな本格ミステリ作家より耳を傾けてきたはずじゃなかったのか。中国が脅威だから、アメリカの基地が必要で、そのために沖縄の人たちが彼らの海が埋め立てられるのを黙ってみていろというのなら、それはあまりにも国の視点に立った見方で、そこに住む人々を国という高みから見下ろすやり方じゃないか。それは、御手洗潔が一番嫌った持てるもの、強き者たちの視点じゃなかったのか。今の御手洗は、島田荘司は、東京タワーの上から、孤独な魂を、ただただ見下ろしてるだけの存在と化してしまった。

 私は彼が陰謀論にハマったり、トランプを生きがいい革命者みたいに持ち上げることよりも何よりも、それが悲しい。