蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

素晴らしい実写化:映画『夏、19歳の肖像』

夏、19歳の肖像 [DVD]

 島田荘司の映像化は、本邦でも近年になって多数作られているのだが、台湾で制作されたこの『夏、19歳の肖像』がたぶん一番いい出来だろう。原作を基本としながら、現代の話としてスマートフォンを有効活用し、サスペンス性やミステリ性を底上げして、原作の映画化というだけでなく、一つの映画作品としても非常に質の高いものになっている。島田ファンだけでなくとも一個の面白いミステリ映画になっていると思う。おススメである。

 主人公と彼がのぞく家に住むヒロインはもちろん原作準拠だが、その周りの人物などは新たにオリジナルな人物配置を行っているが、本筋としてはかなり忠実だ。そして、一九八五年の原作を二〇一八年に持ってくることで当然導入されるスマートフォン。これが原作のサスペンス性を壊さずに、むしろより謎や緊張感を増幅させていてその組み込み方が巧い。

 そして、原作の青春の過ぎ去ってゆく寂しさを描きつつも、後年の島田荘司テイストーーネジ式的なその先の希望のようなものを感じさせる終りになっていて、そこもまた個人的にはよかった。

 ただ、動機の部分はストレートに金銭的な後ろ盾のみになっていて、「家」や「土地」なるものの執着という部分はばっさりと切られていた。その辺は分かりづらい日本的な部分だったのだろうか?