蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ウマ娘 プリティーダービー Season2 第二話『譲れないから!』感想

 なんてことだ……。どこか不穏な影がちらつく第一話で、緊張して臨んではいた。しかし、ここまでのものがはやくも二話で展開されるとは。第一期も確かに、「泣ける」シーンや展開はあったけど、実際に泣いてしまったのは今回が初めてですね。というか、まったくの不意打ちだったし、そのための構成が素晴らしかった。

 では、あらすじ含めた感想を。モデル馬の事実も含めネタバレ前提で行うのでそのつもりで。

 

 第一話のラストからの続き、トレーナーはテイオーを医者に見せに行きますが、テイオーはそれほど気にしていない様子。しかし、トレーナーやシンボリルドルフの予感通り骨折していることが判明します。

 モデル馬の事実にある通りの骨折ですが、ここの骨折が判明するシーンが、かなりギャグっぽいテイストというか、えー! というテイオーの変顔で流されてしまうので、第一話でハラハラしていた緊張をはぐらかされてしまいます。が、これがある意味罠。深刻にならない形で、菊花賞をあきらめないテイオーとそのサポートを決心するトレーナーの姿が、もしかして大丈夫なのか……? というほのかな希望を視聴者に与えてきます。一期のスズカのIFもよぎり、彼らの前向きな姿に思わず感情移入してしまう。そして、スピカメンバーのサポートなども話の明るさに拍車をかけます。ただ、最初にテイオーが菊花賞を目指すといった時の全員の表情が、それがかなり厳しいものだというのを示している。その辺も巧いんですよね。

 そして、前向きなリハビリテーションから、次第に焦りを隠せなくなっていくテイオーの表情。基本だけどカレンダーとそれを見つめる表情だけの描写がとても効果的にキマッています。そして、そこで暗くなりきらずにメンバーたちのテイオーのためのドリンクづくりで笑わせ、その瞬間を狙いすましたかのように医者からストップを受けるシーンを入れる。その緩急がかなり巧い。

 そしてトレーナーのもとに向かうテイオーは、そこで自分のために必死に手立てを尽くそうとする姿も見て、菊花賞を断念することを決意します。ここで、骨折当初と変わって、最後まで何とか粘ろうとするのがトレーナーに逆転しているところがまた巧い構成というか、足の様子を心配する→何とかしたい、という視聴者の感情の導線を視聴者視点に立てるトレーナーによって巧みに整理させていて、やはりこの作品はトレーナーの使い方が巧い。

 そして、レース場にやってきて、ファンファーレを鳴り響き、各ウマ娘たちがゲートに入っていくところから、いよいよテイオーの夢が終わっていく。つまり、レースの始まりが彼女の夢の終わりであることを決定的な瞬間として描く。その音が遠ざかっていく音響の使い方もとても効果的です。遠ざかっていく夢を見ながら、テイオーは自分だったらどうするのか、というイメージをレースに重ねていきます。序盤にトレーナーから、復帰のためのイメージ作りという伏線がここに生きてくるのもすごい。そして、そのイメージが、つまりはテイオーが菊花賞に出ていたら、というIFであり、その重なる映像が自分がトップに立つ瞬間を見ることで、今までどんなにつらくても涙を見せなかったテイオーがついに涙を流すという、本当に組み立てが見事なんですね。ここでもう結構涙腺がやばいんですが、ここで終わらない。

 湧き上がる歓声で、顔を上げるテイオー。そこには誰も追いつけないはずの自分のイメージよりもずっと近くに詰め寄るライバルたちの姿が割り込んでくる。その場の現実の光景がイメージを突き破るようにしてテイオーに迫る。同時にナイスネイチャの「テイオーがいたらなんて絶対に言わせない」という叫び、ライバルたちの「自分たちのほうがが上だ」という叫びが、今までシンボリルドルフだけの背中を見ていたテイオーに、同世代のライバルたちの姿をくっきりと浮かび上がらせる。そして、テイオーは彼女たちに声援を送る「いけ、……走れ!」と。ネイチャのセリフやその他のウマ娘、とくに最後のシュガーブレイド(モデル馬はシャコーグレイド)のテイオーに負けるか、という叫びだけでもすごいのに、それを見て、いけ、と自然とこぼすテイオーの表情がとどめで、そこはもうほんとに自然と涙がこぼれてきます。もうボロボロです。何度見てもここは泣いてしまうし、ここまで泣くようなことって、自分でもかなり稀ですね。

 そういえば、第一話の感想で、ウマ娘のことはオールタイムベストに入るわけじゃないけど好きという感じだと言っていましたが、これはもしかしたら、自分のなかのベスト級になる可能性が出てきました。もしそうじゃなかったとしても、この1話と2話は自分の中で、素晴らしいものとして残り続けると思います。本当に良いものをみせてくれました。

 しかし、テイオーが希望として見出すものが無敗のウマ娘とは……本当に意地が悪いというか、そういう意味でも、一話冒頭のルドルフとマルゼンスキーは彼女にとって大きな象徴なんだと思いましたね。

まあ、だいたいの感想はそんなところで。ここからはもう少し細かい感想を。

 

  • キャラクターについて

 まずはトレーナー。やはりこのアニメはトレーナーの使い方が巧いですね。というか、モブを含めていろんな年代の人や性別の人を入れることで、美少女一色のキャラクターで塗りつぶされるのを緩和していますし、視聴者目線に立てるトレーナーの存在は本当に大きいと思います。

 そして、なんといってもこの話の陰の主役ともいえるのがナイスネイチャでしょう。一期だとスズカの知り合いみたいなポジションでしたが、二期はテイオーに対抗意識を燃やす形でフォーカスが当てられ、挑戦者のポジションとして一気に第二話では裏主人公みたいになりました。この話で彼女のファンになった人も多いのではないでしょうか。今後もテイオーとともに走るレースが楽しみなキャラクターになっていたと思います。一期に続いて、なんかこう、主人公たちを側で見ているキャラっぽいですよね。

  • レースについて

 今回は主人公が出てないにもかかわらず、一期を含めて屈指の名場面なレースになったと思いますね。実のところ、レース自体の動きについては、1話や3話のほうが作画的な力は強いのですが、とにかく演出で殴ってくる。その破壊力は抜群ですし、もう一つは顔のアップの力もあるような気がしましたね。みんなの必死な表情と声の演技がレース自体の迫力を底上げしていたように思います。ネイチャはもちろんですが、最後のシュガーブレイドの声優さんの演技もすごくいい(誰なんだろう)。このシュガーブレイド、モデル馬はミスターシービー産駒のシャコーグレイドのようなのですが、ルドルフとミスターシービーという親の因縁も含め、テイオーの引退式に勝利を添えるという事実を踏まえるとまたこのシーンがなかなか趣深くなりますね。

  • IFについて

 ウマ娘のIFについて。まあ、トウカイテイオーの物語は、そもそもIFを組み入れる必要があるのか、というくらいその挫折も含めて物語になっている。スズカの復帰や、BNW(ビワハヤヒデナリタタイシンウイニングチケット)が再び共に走るといった、モデル馬たちが果たせなかったものへの救済がウマ娘にはあるのですが、この二話を見てしまうと、テイオーにとってのIFというのは、再びこの菊花賞のメンバーで走ることなのかもしれないな、とも思いました。まあ、なんというか、自分としては、そうあってほしいという思いが今のところ一番大きい「もし」になるくらい、この二話のテイオーとテイオーが出れなかったレースを走る彼女たちが印象深くなったんですね。

 三冠を取るとか、無敗とか、マックイーンと再戦して勝つことよりもその「もしも」を望んでしまう。まあ、そもそもモデル馬のテイオーの物語って三冠取れなくても、無敗になれなくても、マックイーンに負けてもそれ込みで最後の最後に復活するというまあ、復活の物語なので、そこには「もし」を入れてこない気がするんですよね。ウマ娘の“願い”というのは、最終的にモデル馬たちが走り続ける夢、終わってしまったその先、みたいなところがあるのでワンチャンであるのかもなあ、と思っていたりします。まあ、マックイーンとの再戦みたいなのほうが可能性は高いとは思いますが。

 

 というわけで、第二話の感想はここまで。