蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ウマ娘 プリティーダービー Season 2 第一話「トウカイテイオー」感想

 ついに始まりましたね。何が? ウマ娘プリティーダービーに決まってるだろーが! 1月4日に始まった第一話、私は第一話再生マシーンと化し、Twitterで感想をあさり続けることで一日をつぶしました。正直、自分でもなんでそこまでやってしまうのかよくわかりません。2018に放送された第一期でハマったわけですが、別に競馬に詳しいわけでもないですし、いくらハマったとはいえその年のベストアニメは「よりもい」こと『宇宙よりも遠い場所』であることは客観的にも自分的にも疑いはないんですが、でもなんか好きなんですよ。「好き」というなら「よりもい」よりも好きなのです。客観的にはオールタイムベストというほどではないかもしれない、でもすごく好きだという、そういうものってあるでしょう。自分にとってのアニメ・ウマ娘というのはまさにそんな作品なのでした。

 まあ、とにかく一話の感想ですが、第一話からフルスロットルで、日常にギャグにレースにライブとウマ娘の魅力がこれでもかと詰め込まれた一話となっていました。ほのぼのとしたギャグで終わった一期の第一話とは対照的に、ものすごいきらびやかなテンションの中に不穏な空気が漂う緊張感のある第一話となっていて、その緊張感も含めてとても満足な一話となっていましたね。

 

  アニメ・『ウマ娘 プリティーダービー Season2』は主人公を前作のスペシャルウィークからトウカイテイオーにバトンタッチし、彼女の幼き日の憧れ、シンボリルドルフ以来の「無敗の三冠ウマ娘」を目指す、というのが大まかなストーリー。
ウマ娘の魅力と言ったら、多彩なキャラクターによる日常とそこに埋め込まれた競馬のネタ、そしてなにより実際の展開に基づいたレース、最後にライブ、ということになるでしょうか。それらを一話に詰めに詰めた、かなり気合の入った一話でした。控えめに言って最高の引き。

 

 では、まずはその概要を。基本的にはネタバレを前提に行うのでそのつもりで。

 

 開幕はアニメ一期や漫画シンデレラグレイでもおなじみのウマ娘の歴史を示す絵とらレーションが語られます。第一期ではやたら凝ったジブリ風な壁画、シンデレラグレイはエジプト風の壁画ときて、今回は地上絵。ナスカではなく、ミステリーサークルっぽい田んぼアートみたいなやつ。コンテンツが増えるにつれて伝統になりそうな予感です。そして「この作品は実際の競走馬の物語をモチーフとし、事実に基づいた表現を心がけたフィクションです」というテロップは、シンデレラグレイからですね。これもまた、今後コンテンツが増えるごとにつけられるものというか、ウマ娘というコンテンツのテーゼとして掲げられるのでしょう。それにかぶさるナレーションは、ウマ娘という存在が「別世界」の名を冠する転生者(?)であるとして、ある意味異世界転生みたいなものであることを示しています。これはアニメから明確になったと思うのですが、そのおかげで、画面の向こう側が、例の疫病のない世界になっていて、ウマ娘の運命だけでないIFになってしまっているのは何とも言えない感じです。

 ともあれ、まずは初っ端のレースシーンからすごいです。“皇帝″シンボリルドルフが直線で突っ込んでくるところの、その流れるような動きを回り込んでとらえるカメラ。レースシーンは第二期とは違った試みが多数なされているようで、新鮮です。そして、その姿にあこがれを抱くテイオーとルドルフの邂逅を経てテイオーの目標が語られる導入から、トレセン学園生となった現在へと移り、物語はスタートします。

 登校シーンからキャラクターがたくさんです。まず一期でテイオーが所属していたチームスピカの面々が登場。お嬢様なメジロマックイーン、人参くわえて登校してくる一期の正統派(?)主人公だったスペシャルウィークに、喧嘩友達なウオッカダイワスカーレットが競り合いながら校門を駆け抜け、セグウェイで登校してくるゴールドシップことゴルシの奔放さで、一期の地続き感と相変わらずな彼女らにうれしくなります

 そして、勢ぞろいしたスピカメンバーの後ろではイナリワンオグリキャップタマモクロススーパークリークの姿が。一応、ウマ娘ソーシャルゲームがおおもとの企画としてあるので、そこで実装予定のキャラクターには名前のテロップが付きます。特にセリフもなくモブ然として通過しているキャラクターも超有名な競走馬だったりします。

 みんなが教室に行かないことを訝しむテイオーに、今日はオープンキャンパスでその案内係になっていたことを説明しているうちに、キングヘイローセイウンスカイグラスワンダーエルコンドルパサーといった、前期でスペシャルウィークのライバルたちだったウマ娘たちも通過していきます。一期で登場したキャラクターたちを探すのも面白いですね。

 オープンキャンパスでは、キタサンブラックサトノダイヤモンドが幼年者として登場し、彼女たちを案内する中で、新キャラや一期の登場キャラクターたちを見せていきます。競馬の小ネタをちりばめながらも、シンボリルドルフを憧れたトウカイテイオーが、今幼い者たちに憧れられる存在になっていることを描く構成的なところがぬかりない。

 そして、学園パートではナイスネイチャツインターボ、そして新たなチーム・カノープスが登場。新たなライバルチーム(?)になりそう。ナイスネイチャの怪我がクローズアップされ、さりげない暗示となってるところもうまいですね。ネイチャさんは一期以上に出番や役割が増えそうでうれしい。

 そしていよいよダービー。知っている人なら、いきなりここからか、という思いが強いでしょうね。ある意味テイオーのキャリアの頂点が第一話ですからね。パドックでのテイオーステップ(ウォーク)のモデル馬再現など、いちいち細かい。第一期は初めてのレースまででしたが、がっつりレースが入ってきて、その見せ方も一期と違った形もあって楽しい。疾走感というか、大勢が走っている迫力が増したように思います。レースに危なげなく勝ち、無冠の二敗。夢に近づくテイオー。

 そしてライブ。ウマ娘といえばの奇妙なこの設定。まあ、元ゲームの企画自体は流行りのアイドルを競馬にぶち込んじゃえ、くらいのノリだったのかもしれませんが、しかしこの異様に気合の入ったライブは、今回とてもいい効果を上げています。トウカイテイオーの“夢”、その頂点を視覚的にも演出する、このライブという要素は、ウマ娘の勝利というのを視覚的に印象付けるためにも、なんだかんだで大事な設定なんじゃないかなと思いますね。

 

 概要と印象はこのくらいで、以下は、各要素についてもう少し詳しい感想を。

  • Season2について

ウマ娘 プリティーダービー Season2』は前作『ウマ娘 プリティーダービー』の第二作目に当たります。いわゆるパート2というやつなのですが、同一主人公で続けるタイプではなく、主役は前作のスペシャルウィークから、トウカイテイオーに代わっています。とはいえ、スペシャルウィークもチームスピカの一員として、そのまま登場します。前作の同一チームでサブだったキャラクターをメインに持ってくる形。全部を一新するわけでもなく、前作主人公が出ると言っても、Ζみたいな感じじゃなくて、同じホワイトベースメンバーでカイ・シデンを主人公にする感じ(?)でしょうか。こういうタイプの続編は割と珍しいかもしれません。

 まあ、アニメ・ウマ娘の場合、そのモデルとなった競走馬の事実をなぞっていくため、そのレース人生を描き切ってしまうと先を描きづらくなるという特性もあって、そうなるのはある意味当然と言えば当然でしょう。
ウマ娘は、基本、アイドルや魔法少女といったキャラクターが多数いるアニメにあるような、主人公以外の特定キャラ回はほぼありません。今のアニメは基本ワン・クールが主流なので、たくさんのキャラクターでメインを持ち回りにすることは難しいですし、前作は主人公スペシャルウィークと、その憧れの存在であるサイレンススズカの物語として描かれ、またそれを描き切ることに専念することで、きちんとした一本の作品にまとめていました。Season2もまた、トウカイテイオーとその“ライバル″であるメジロマックイーンを主軸にして描いていくようであり、この二人の関係性がどうなっていくのかを注目して見ていきたいところです。

  •  キャラクターについて

今回は第一話の時点でかなりのキャラが投入されました。第一期からOVAの『BNWの誓い』に登場したウマ娘たちの他に、Season2の準レギュラーになりそうな新キャラがたくさん登場。スピカ、リギルに続く新しいチーム、カノープス所属のツインターボ、テイオーとマックイーンにあこがれるキタサンブラックサトノダイヤモンド。さらにはダイタクヘリオスやちらりとメジロパーマーの姿も。ツインターボキタサンブラックサトノダイヤモンドダイタクヘリオスメジロパーマーは完全に新規のキャラクターですが、以前から公式キャラクター欄に載りつつも依然未登場だったスイープトウショウゼンノロブロイが登場。四コマ漫画「うまよん」登場回を意識したようなチョイスで知ってる人ならニヤリです。また、公式サイトのキャラクター欄にはいないながら、第一期で三冠ウマ娘の一人としてビジュアルが登場したミスターシービーもキャラクター横に名前が表示されたので、もしかしたら近々正式にキャラクター欄に登場するのかもしれません。

 キャラクターについては、公式が名前の許可を得たキャラクターとして、キタサンブラックサトノダイヤモンドが幼い姿で(おそらく小学生くらい)登場してきたことにちょっと驚きました。名前の許可を取るのはレースに出る前提で、全員が学園生という姿で出てくるものだと思っていたので。学園生と統一することで、先輩後輩はあるにせよ年齢をぼかしていた中で、はっきりとした幼年の姿で実際の名前のあるキャラクターが出てくるのは、結構思い切った選択のような気もしました。いまだ、アプリの公式サイトには追加されていないのですが、最後辺りに成長した姿になって追加されるのかもしれません。しかし、その場合、キャラクター間の年の差がくっきりした形で出てきそうですが。(マルゼンスキーやルドルフあたりが「学生」では収まり切れなくなりそうです……)

 第一期ではスペシャルウィークサイレンススズカに憧れを抱きつつ、最後に彼女がその姿を見る幼いウマ娘たちの憧れになるような予感が描かれていました。それを引き継ぐようにしてはっきりとした形で幼年キャラを出すことで、テイオーがルドルフに憧れたようにまた彼女もあこがれることと、その憧れを背負うことについての物語が展開されそうであり、またこの子たちも結構重要なキャラクターになりそうです。

 

  • レースについて

 レースは今回も迫力のある作画がさく裂していて、やはり、走ってるだけで面白いのがウマ娘ですね。ふつうはありえないような色とりどりの勝負服を着て人間を超えるスピードで疾走する絵はアニメの愉悦に満ちています。前作通りにするだけではなくて、いろいろためしてみようとする感じもあって、これからも楽しみです。特に、ダービーのレースでは、CGを使うことでたくさんの勝負服キャラクターがコーナーを回って直線に入る迫力のあるアングルを選べていました。CGの使用は一期はあくまで遠景とか上空から映す形にとどめ、レース表現はメインのキャラの踏み込みのアップやコーナー、直線での疾走感が中心だった気がするので、二期は表現の幅が広がった感じで今後よりバ群の近くに寄ったアングルによる迫力ある映像が見られそうで期待。練習シーンのCGはちょっと固いと言えば固いのですが、まあ、メインのレース以外の練習シーンだし、あれぐらいちょうどいい気はしますね。全部全力なんて無茶ですし。

 

  • ライブについて

 さて、ウマ娘の最大の特徴といえば、ライブです。いらない? いや、いる、というその特異さが、このアニメならではの楽しみの一つ。あえて思い切って言えば、いらないというやつは何もわかってません。メインである必要は全くないけど、独特の世界観と勝利後の余韻を作ってくれる存在として欠かせない、それがウイニングライブというやつなのです。今回は一期以上で、なんというか今時珍しい作画中心のライブをしかもかなりのクオリティで描き、主人公の華やかさ、夢に上りつめる寸前の絶頂――その演出面として最高な形で生かしています。そこにインサートされるルドルフとトレーナーの表情が亀裂となり、さらにテイオーの足と最後の表情、暗転して映し出されるサブタイトルが影を鋭く投げかけます。最高にかっこよくてアガるのに、忍び込む不安。事実を知っている人ならばよりキリキリするような引きを作っていて、第一話の引きとしては申し分ないでしょう。

 第一期と比べると、奥行きを使った動きや振付がふんだんで、そのクオリティアップが今後も続くのかも要注目ですね。レース表現同様、こちらも楽しみです。

 

  • 一期との比較

 第一期と主役を変えてきた第二期について、そのキャラクターや第一話の物語構成について少し。第一期はスペシャルウィークを主人公に、夢を持って田舎から上京してきた元気いっぱいな女の子が、少し年上のお姉さんに憧れながら、同世代のライバルたちと競い、日本一を目指してひた走る、という王道ストーリーでした。スペシャルウィークのストーリーは、勝ったり負けたりをしつつもその夢のゴールに向かう。いい意味で彼女は一貫したキャラクターであり、表の主人公にふさわしい変化を被らないキャラクターでした。そして、その表の主人公スペシャルウィークの裏――挫折を被る役割を持っていたのが、もう一人の主人公であるサイレンススズカ。彼女はスペシャルウィークとは対照的に変化するキャラクターでした。最初は他を寄せ付けない物静かな主人公の憧れとして現れた彼女は、足の骨折という決定的な挫折を経ての復活、そしてスペシャルウィークの憧れからライバルへと変化していきます。キャラクターもどこか人を寄せつけない孤高な雰囲気から、スペシャルウィークやトレーナーをはじめとしたチームスピカの面々とのふれあいで、多彩な表情を見せるようになります。

 また、サイレンススズカはアニメ・ウマ娘がテーマとする夢――その一つとして、モデルとなった競走馬のあったかもしれない、あってほしかった未来――そんなもしもの夢を体現する存在でした。そして、人に夢を与えたいとする彼女が夢をかなえたスペシャルウィークを見ながら、今度は私が夢をかなえる番と決めるところで、物語は閉じられました。

 第二期は、サイレンススズカの故障という転換点を物語の半ばに持ってきた一期に対し、トウカイテイオーの運命の日本ダービーを第一話に持ってくる思い切った構成がなされています。モデルとなった競走馬の事実に従うのなら、ここからは苦難が始まる。第一期は主人公がストレートに上り詰める形で(サイレンススズカの挫折もストーリーの半ば)したので、第一期に比べると挫折から始まる再生のストーリーという感じでしょう。ちょっと意外でしたが、順風満帆な滑り出しで無敗の連勝から皐月賞まで描いて真ん中に日本ダービーだと、構成がスズカと被ってしまう部分もあるので、ある意味必然的ともいえるのかもしれません。そして、だからこそもう一人の主人公であるメジロマックイーンの役割が気になります。テイオーが前作のスペシャルウィークサイレンススズカの役割を兼任している部分がある中、テイオーの“ライバル”として位置づけられた彼女は物語をテイオーとともにどんな風に動かしていくのか。第一話ではライバルという役割をちらつかせる以外は、ほかのスピカメンバーよりもちょっと出番が多いくらいだった彼女が、テイオーの挫折の中で自身のレースをどう戦い、ライバルとして鼓舞するのか。中盤はいろいろとマックイーンが支える構成になるのかなという気がしますが、どうなるのかとても楽しみです。