蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

テレビドラマ『名探偵モンク』シーズン1

名探偵モンク シーズン1 バリューパック [DVD]

 コロンボと並ぶミステリドラマの金字塔『名探偵モンク』のDVDボックスを購入したので視聴していこうという計画。全7シーズン+FINAL SEASONの123話(!)もある。今までこんな長期シリーズのドラマを完走した経験がないので途中でやめる可能性もあるかもだが、まあ、とりあえずやってみようかと。

 

 そんなわけでSeason1の第一話『狙われた市長候補』

 このドラマの魅力は何といってもトニー・シャブル演じるモンクのキャラクターだろう。妻を爆弾事件で失ってから、生来の強迫観念がより加速し、刑事を休職中の犯罪コンサルタント。38もの恐怖症を持ち、それと格闘しながらその強迫症ゆえの鋭敏さで名探偵として事件を次々に解決していく。そして、そんなモンクの助手というか、介護人的なビュティ・シュラム演じるシャローナ・フレミングとの掛け合いがこのシリーズのもう一つの軸であり、内向的なモンクと開放的で常に新しい恋を探しているシャローナのコンビは、日本でいういわゆるオタクとギャルの組み合わせな趣がある。

 本作は番組のパイロット版にあたり、79分と作品時間は長めになっている。モンクの強迫神経症というキャラクターのインパクトがいかんなく発揮され、強迫観念に振り回されつつ、時にはそれに助けられ、何とかそれを克服しようとするモンクの姿がコメディやシリアスを交えて過不足なく描かれている。ミステリとしても市長候補の演説中に起きた狙撃事件を中心に、思わぬ事件のつながりやミステリらしいひっくり返しなどがきちっとキマッている。

第二話『第一発見者は超能力者』

 パイロット版を経ての実質第一話的な位置づけの本作は、大先輩の『刑事コロンボ』にならうかのような倒叙ミステリ――なのだが、犯人との探り合いを含めた対決という倒叙ミステリの基本的展開ではなく、犯人はいかにしてインチキ霊媒師を第一発見者に仕立てたか? という謎にスライドする捻った構成が面白い。まあ、真相自体は大したものではないし、犯人との対決も芝居を打って自白させるというミステリ的には洗練されていない解決だが、モンクのキャラクターと助手のシャローナとのやり取りが楽しい。特にマーケットでの証拠品をめぐるドタバタなどはゲラゲラ笑えるシーンだ。

第三話『復讐殺人はベッドルームで』

 判事がバットで撲殺される事件が発生。しかし緊急通報時に犯人の名前を告げていて、事件はすぐ解決するかと思われた。ところがその犯人は体重400キロを超え、ベットから一歩も動けない男だったのだ――という、魅力的な謎が提示される本格ミステリ的な一作。捜査していくと事件直後に目撃された異様に太った男の影がその不可能性をさらに強調したりと、不可能犯罪らしい展開が楽しい。真相はちょっと無理目でバカっぽい感じではあるが、ちゃんと伏線らしきシャローナと犯人のやり取りがあるし、椅子の手がかりも悪くない。モンクさんのいつものやつも、事件現場を片付け始めたり、捜査のために頑張って少女たちが売る不衛生なレモネードを飲んだり(ここはとても頑張っていて笑える)と快調な感じ。

第四話『陰謀の観覧車』

 情報屋に呼び出された警部補が一緒に観覧車に乗ることになるが、乗車中に情報屋は突然暴れだし、殺されると絶叫。緊急停車した観覧車から慌てて警部補は出てくるが、隣にいた情報屋は胸を刺されて死んでいた。警部補は関与を否定するが……。

 観覧車の中で殺人が起こり、その隣にいた人物しか犯行の機会がないという、ストレートな不可能犯罪がメイン。トリックはすごく単純だけど、解明時の手掛かりや犯人まで一直線につながるスマートさがなかなかいい。

第五話『重要参考人サンタクロース』

 ついにモンクが病院へ。

 帰宅したつもりが同じ間取りの他所の家に間違って入ってしまうという、激ヤバな勘違いにより警察を呼ばれ、48時間の監査入院扱いを受けるモンク。そこで同室になった患者から、過去この病院で起きた患者による医師殺しの話を聞く。そして、その夜、サンタを待ち続けている患者がサンタを見たと奇妙な主張する。しかし、その写真を撮ったカメラは消え、過去の事件に疑問を抱いたモンクの周辺にも不可解な出来事が起き、モンクはそれについての言動から立場を危うくしていく。

 被害者が持つ鍵の手がかりから過去の事件の犯人に検討をつけるものの、犯人によってどんどん追い詰められていくサスペンスが、精神病棟という舞台とモンクのキャラクターによってうまく回っている。そして病院の煙突に現れるサンタクロースという奇妙な謎が、ある道具と証拠品に結びつく解決も悪くない。

第六話『億万長者の殺し方』

 コンピューターで財を成した資産50億ドルの男が辻強盗を働き、被害者に撃ち殺された。金に不自由していない男による強盗という不可解な状況の他に、現場から逃げた警官という存在が加わった事件にモンクが挑む。

 金持ちの男による強盗という不可解な謎が提示されつつも、世間は逃げた警官のほうに強い興味が流れるという全体構成がなかなか面白い。謎解き自体は単純だが、その警官の存在をうまく組み込んでいて、さらに警官本人の出現が上手く演出されている。

 また、お金持ちの事件の中で、以前の依頼人から相談料を踏み倒され、モンクから給料をもらえない金欠のシャローナの懊悩や、モンクのカウンセリング料が未払いだと明らかになるエピソードなど、モンクの金銭に対する無頓着さから発生する脇の話も面白い。

第七話『殺人現場で生まれる恋』

 弁護士とその秘書の殺害から始まり、犯行時に燃やされていたファイルから、その裁判の依頼人に容疑がかかるのだが、やがて彼も殺されてしまう。次なる容疑者として、彼ともめていた隣人のモニカに疑いがかかるのだが、モンクはモニカに亡き妻トゥルーディーの面影を見てしまい……。

 妻の面影を持ち、自分の特性を理解してくれるモニカに惹かれるモンクだが、食事に招かれた際に彼女を犯人と勘違いし、殺されると思い込んだモンクとモニカのやり取りは、かなり可笑しい。ここはなかなか楽しいシーンだ。ミステリ的には、犯人の取り出し方になかなか意外性があり、推理も悪くない。そしてなんといってもラストのモニカとの別れのシーンが、モンクの潔癖症を上手く使った切ない演出になっていて印象深い。

第八話『完全アリバイを崩せ』

 女性が自殺した事件を実は殺人だと見抜くモンク。そして、その女性の不倫相手が容疑者として浮上するものの、彼はマラソン大会に出場していた。モンクはその鉄壁のアリバイを崩せるか。

 殺人時に容疑者がマラソンをしていた、という不可能興味なシチュエーションがまず面白い。犯人がやたらと忙しい解決はやや力技な感じはするけど、被害者を自殺ではないと見抜く手がかりなどを含め、謎解き自体は結構楽しい。割と好きなエピソードではある。

 ミステリ的には関係ないけど、モンクの潔癖症がそうなってしまうかもな、とおぼろげながら思っていたヤバめな誤解(人種差別主義者だと思われる)に実際に陥るシーンは、あんまり救いもなくて、コメディ調のこれまでとは違い、何とも言えないシーンである。

第九話『消えた証拠死体』

 モンクはシャローナとその息子ベンジーらとともに休暇を取ってビーチリゾートへ。そこにあった望遠鏡をのぞいたベンジーは、自分たちの泊まるホテルの一室で今まさに人が刺されている場面を目撃してしまう。すぐにホテルへ訴えるモンク一行だが、部屋を確認しても死体はおろか、血痕や乱れた後もなかったという。子供の勘違いだとする大人たちの中で、モンクはベンジーの言葉を信じ、調査を始める。

 ホテルの一室――その窓越しに殺人シーンを見たはずなのに、死体とその痕跡がきれいさっぱり消えてしまっている謎と、それが解決にダイレクトに結びついているスマートさが素晴らしい一編。殺人を目撃したが、なかなか信じてもらえない少年に寄り添うモンクなど、ドラマ的な見どころもある。事件そのものが手掛かりになっているという手掛かりが見事で、手掛かりとしてはこれまでで一番好きかも。解決のタイムアップ寸前で、ホテルに来た初日のまだ笑顔なモンク一行の写真から、死体の場所を発見するシーンもまたイイ演出になっている。また、妙に刑事映画なノリでモンクの相棒のようになるホテルの女性警備員が良いゲストキャラとなっていて、そのあたりも見どころ。

第十話『大地震のち殺人』

 慈善家で金持ちの老人の財産を狙う妻とその愛人による倒叙もの。地震の時に倒れた棚の下敷きになったと見せかけて殺人を行ったのだが、その際、決定的な手がかりを夫が遺したことに気がついた二人。あせりつつも、その手掛かりを何とか手に入れようとする彼ら。それはシャローナが被害者から受けた留守番電話そのものであり、それによってシャローナは犯人たちに狙われてしまうことに。

 この話自体は、あんまりミステリしてはいないのだが、地震の後遺症でモンクが誰も聞き取れない奇妙な「モンク語」しか話せなくなるという展開が面白い。それ自体はそこまでミステリ的な貢献はしていないものの、モンクの意志が伝えられないことによるサスペンスや、まともな言葉が喋れないがゆえに映像だけで謎解きを見せるという推理シーンはなかなか新鮮味があり悪くない。

第十一話『盲目の証言者』

 カントリーソング歌手ウィリー・ネルソンのマネージャーが路地裏で撃ち殺される事件が発生。マネージャーは金の使い込みがウィリーにばれ、それを何とかごまかそうとしていた。さらに現場にいた盲目の女性が犯人の声を聴いていて、それはウィリーの声だったという。現場近くの監視カメラにもその三人しか路地に入った人間は映っていなかった。

 不可能犯罪的な事件ではあるが、トリックそのものというよりは、ちりばめられた伏線がピタピタはまっていく推理の妙が素晴らしい。おまけに事件とは直接関係ないストリーキングのお前かよ、というどうでもいい伏線でも笑わせてくれる。また、犯人のある秘密を見抜く手がかりも上手く演出されていて、なかなか印象的な手がかりになっている。ラストのトゥルーディーへの追悼シーンも良い感じで、全国ネットではウィリーとの演奏に失敗してしまったモンクだが、そのひっそりとした最高のステージはとても粋な場面に仕上がっている。

『完全犯罪へのカウントダウン』

 第1シーズンの掉尾を飾る事件は、モンクが飛行機に乗るというもの。もうそれだけで、思った通りの大変なことが続発する。というか、神経質な特性を持つモンクも大変だが、その相手をしなければならない周囲の人間も大変というか、見てると割かしシンドイ感じはするので、シャローナの堂に入ったモンクのあしらいぶりに大いに助けられているというのを実感する。

 ミステリ的には倒叙的で、犯人たちの細かい矛盾から疑いを抱くモンクと犯人たちの攻防戦みたいな構成。少しづつ真相に迫りながら、犯人のパリへの逃亡を防げるか、というタイムリミットサスペンスも盛り込まれた一品に仕上がっている。

 

一応、第一シリーズでのベスト3を挙げておく。

とりあえずミステリ者なので、ミステリを主軸にした評価で。

1.『消えた証拠死体』

2.『盲目の証言者』

3.『陰謀の観覧車』