蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

スプリガン劇場版(1998)

あらすじというやつ

 かつて人知を超えた科学を持つ何者かが残した遺跡群。それらを悪しきものから守れというメッセージを真摯に受止めた人々により、民間組アーカムが結成された。そしてアーカムが擁する特殊エージェント――彼らは遺跡を守る妖精にちなみ「スプリガン」と呼ばれた。

 高校生でありながら、そのスプリガンの一人として活動する御神苗優は、ある日学校で彼を呼び出したクラスメイトが人間爆弾として目の前で爆死するのに巻き込まれる。死の直前、クラスメイトの体には御神苗を挑発するように「ノアがお前の墓場だ」と書かれていた。

 アララト山で発見された「ノアの方舟」。それを狙うペンタゴンの機械化小隊。それに対抗すべく御神苗はアララトへと向かい、彼らから遺跡を守るための戦いに身を投じる。方舟はいったい何のために作られたのか? 戦いの中でその力がついに発動するとき、人類はまたたく間に存亡の危機に立たされる……。

感想

 スタジオ4℃による大友克洋ブランドアニメ(監修や方舟のデザインを手掛けている)のひとつで漫画『スプリガン』のノア編を中心にした劇場アニメ化。「戦って、死ね!」というなんかすごいキャッチコピーがついてる(1997年の某映画と某映画を意識しているのかしらん)。もう四半世紀前のアニメになるが、とにかく動くというか、動画の気持ちよさはすごい。アニメーションとしては今Netflixやっている最新版と遜色ないレベル。まさに劇場アニメのオーパーツ……と言っては大げさかもだが、しかし、そういいたくなるほどのクオリティのアニメーションが目白押し。

 てか、ほとんどがアクションシーンで構成されていて、最低限のお話の上にどんどこアクションを詰めに詰める。「アクションというのはアクションに至るまでのシチュエーションが生み出すサスペンスを丁寧に拾ってこそ盛り上がるのであり、アクションだけでは運動にすぎません。ご飯無しでカレールーだけ食うようなものです」とは伊藤計劃の弁だが、まあ確かにそれはそうなんだけど、カレールーだけ食うのもたまには悪くない。てか、すげーアクションを展開するアニメーションをただただ見るというのも、それだけで楽しいときもある。展開上全く必要ないイスタンブールでの超絶ハリウッドアクションなんかまさにそれで、正直、映画に全く寄与しないこの場面のアクションが、実は一番すごい部分だったりする。

 まあ、正直YouTubeとかに転がっているアクション切り出した部分を見てしまえば、この映画をほぼ観たようなところがあるのは否定しない。あんまりにもベタベタな「AKIRA」っぷりも含め、「映画として」の魅力や高揚感は乏しいかもしれない。しかし、そのアクションそのものには確かに高揚感がある。

 とはいえこの映画、やっぱりというか当時はそんなにヒットしなかったそうな。まあ、ざっと見た限り、「原作ファン」とかいうあんま信用できない人種たちからは不興を買い、その他の大友ファンあたりからは、話がよく分からんみたいな感じだったっぽい。

 自分は一応、原作漫画読んではいたけど、ある程度まとめるための細かい変更とか、キャラクターにつながりを持たせた程度で怒ってたらきりないし、どうでもよかった。ジャン・ジャックモンドのライカンスロープ化も別になくても雪上車のスーパーアクション拝めたからええやん、みたいな。あと、この映画そんなに分かりにくいか? 話自体は超古代の遺跡を巡る攻防ということだけ頭に入れておけばいいし、『AKIRA』のほうがよっぽど初見じゃわかんないでしょ。

 自分としてはNetflix版のほうが短い時間で上手く纏めてるし、原作要素を丁寧に拾ってはいるけど、この映画に宿るアニメーターたちのとにかくハリウッドの実写映画にも負けないアクションを見せてやる、みたいなそんな気迫がビリビリ来るアクションの高揚感はこの映画に分がある。方舟の崩壊シーンはNetflix版が好きだけど。

 あと、今どき「神に代わって愚かな人類をさばいてやる」という人類抹殺願望の悪役なんて、というのは当時も言われてたっぽいけど、いいじゃないですか、人類抹殺。もともと中二な要素満載なんだから。人類くたばれ! とか思ったことあるでしょ。俺は今でも思ってる。

 まあ、いずれにせよ、やはり超古代遺跡ってイイもんですね。失われた文明、そこに眠る人知を超えた科学の力。『ナウシカ』とか『ラピュタ』とか、ピカピカのスタイリッシュな科学の先端というより、時を経た感が染みついた“遺跡”なディテール。あれがいいんですよね。そして安易に宇宙人というよりも、私たち人類とはまた別に存在していた先住の民、みたいな存在。今はあまり見られなくなったそれこそ遺跡のようなジャンルというか。

 それはともかく、最後にこの映画に対して、かなり不満な点が一つあって、それは音声の音響がひどいということ。話には聞いてたのでイヤホンつけて観てたんですが、それでもキャラクターの声が妙に遠くに聞こえたり、声を張り上げてるところでもなんか小さかったりとボロボロ。てか、劇場公開時にもさんざん言われてたのにソフト化される際に改善とかしないのかよ。