蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

悪魔というか、鋏が怖え:映画『エクソシスト3』

エクソシスト3(字幕版)

 

 毎年クリスマスにホラー映画観てるのだが、なんかだるいな~と、気がついたら寝てて、あっさり25日過ぎちゃったのだ。まあいいや。

 そんな感じで、そういえばこれ観てなかったな、と次の日に観たのが『エクソシスト3』。結構前から観たかったのだが、レンタル屋にも見当たらなくて、ネットフリックスで配信されてたのをこれ幸いと視聴。

 『エクソシスト2』は以前感想を書いたが、『エクソシスト』でホラーカッコいい! みたいに意識を変えられた自分としては、かなりアサッテの方に向って行ったトンデモ映画な印象だった。

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 これはこれで、すごい褒めてる人もいて、こんな風に書いてしまったのは心苦しいのではあるが、まあでも自分にとっては、え~!? みたいな感じだったのは確か。そして、『エクソシスト』の原作者でもあるウィリアム・ピーター・ブラッティもまた2の出来に不満を抱いたようで、自ら脚本・制作、そして監督としてメガホンを取ったのが本作となる。原作者の逆襲……なんか『シャイニング』みたいな気がするが、まあ、こっちは第一作から制作・脚本に関わっているし、その一作目の正統続編という形でこの3は原作者から送り出されてるので事情は異なるが。とはいえ、初代とも結構テイストは違う。やはりそれぞれ監督の資質が色濃く出ていて、初代のパラノイアックな焦燥感が画面を覆うような感触は退潮し、いかにも悪魔が出てくるぞ~というよりも、比較的落ち着いたミステリテイストな映画になっていて、これはこれで悪くない映画だった。

 

あらすじ

 黒人少年の惨殺死体がジョージタウンポトマック川付近で発見された。首が切り取られてキリストの像と挿げ替えられた他、左手の中指が切り取られ、右手にはふたご座のシンボルが刻まれるという凄惨な殺人を皮切りに、やがて神父の連続殺人に発展。いずれも現場は遺体をはじめ、異様な装飾が施されていた。事件の捜査にあたったキンダーマン警部は、犯人が被害者に施した中指の切断とふたご座のシンボルを刻むという行為に愕然とする。それは、十五年前に同様の殺人を繰り返し、ふたご座キラーとして世間を震撼させた犯人によるものと酷似していたからだ。しかも、中指を切り落とすという情報はマスコミには流しておらず、犯人しか知らない情報だった。しかし、そんなことはあり得ない、なぜならふたご座キラーは十五年前に逮捕され、死刑にされたのだから。

 捜査を進める警部はやがて被害者三人の共通点を突き止める。それは、同じく十五年前に起こったリーガン・マクニールへの悪魔祓い――その事件に多かれ少なかれ関係していること。そして、その中心には警部の知り合いでもあるあの、カラス神父がいる。

 そして、警部は親友である第三の被害者ダイアー神父が殺された病院の精神病棟で、自分のことをふたご座キラーだと名乗る身元不明の患者がいることを突き止める。十五年前からそこにいる男に面会した警部はわが目を疑った。

 そこにいたのは、カラス神父そっくりの男だった。

感想

 あらすじ書いてたら、あんまホラーっぽくないというか、むしろミステリみたいな感じだが、映画も割とそんな感じというか。まあ、一応、悪魔の仕業前提な雰囲気ではあるが、主人公であるキンダーマン警部はあくまで猟奇殺人事件として捜査していくので、中盤までは捜査物みたいな形で進んでいく。『エクソシスト』にあったような驚かせる怪奇演出とか露悪的な気持ち悪さみたいなのは控えめ。死体の状況は悲惨なのだが、言葉で説明されるだけで、具体的な描写はほぼないし、流血表現も最小限度にとどめている。恒例の悪魔祓いシーンは終盤にちゃんとあるわけだが、わりと超常バトル的な感じ。精神病棟の個室を舞台にした戦いはどことなくジョジョっぽい(体を乗っ取られていたカラス神父とかもそれっぽい)。あと、初代にあった、人間の体を人質に取ってる感は薄い。

 第一作目は「少女の変容」というテーマが恐怖やサスペンス、そしてドラマの大きな核となっていたわけだが、今回は不可解な殺人事件になっていて、そこに殺人犯を名乗る謎の男(悪魔)の存在とかでサスペンスを引っ張る感じだろうか。ブアマンが好き勝手やった2はもちろん、初代よりもかなり渋めな、あからさまな恐怖&超常映像は終盤以外はほぼない。それゆえに途中で登場する看護婦殺しのシーン――この映画でいちばん有名な鋏を持った尼僧のシーンが、かなりインパクトのある恐怖映像に仕上がっている。映像自体はバカでかい鋏を持った尼僧が画面外の看護婦を追いかけて猛スピードで通り過ぎるだけなのだが、これが結構、ギョッとする。死神が観る者の前を通り過ぎる、その観てはいけないものが、ふとよぎる感じは、初代にはないこの映画の監督ならではのセンスだろう。この映画といえば、と言われるだけのことはある場面。てか、これ観たいがためにこの映画を観たのだった。あと、病院で殺害されるダイアー神父の白シーツ掛けられた遺体の横に、抜かれたすべての血液を入れた容器が並んでいる場面も印象に残る。別にその血すらもほぼ見えないのに、なんか怖いという、シチュエーションで見せてくる恐怖感。ブラッディ監督は極力、死体とか血を見せないようにしながら恐怖感を演出しようとしていて、その辺は初代や2と違った見せ方をしていて新鮮。

 ラストのバトルっぽい悪魔祓いのシーンもなかなか悪くない。ただ、それを行う神父がイマイチ物語に絡んでいないのがちょっと惜しい。そして、死んだのに引っ張り出されて、また死んじゃうカラス神父可哀そう……。

 全体的に抑えた渋い作りゆえか中盤は割と退屈だったりはするのだけれど、そのぶん生真面目な映画のトーンは悪くない。まあ、なんだかんだでハチャメチャな2の方が映画的な存在感はあるような気はして、その辺、なんか難しいなあという思いもあったりするが。とはいえ、好き嫌いで言ったら3の方が好みではある。