蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

炎とその一瞬の静けさ:映画『プロメア』

 CGアニメの一つの到達点といっていいのかもしれない。素晴らしいアクションが、アニメーションの“動き”の快楽が横溢している映画であり、早くも今年ナンバーワンのアクションアニメ映画が出てきちゃったかもしれない……というと気が早すぎるかもしれませんが、しかしこの映画のアクションは一見の価値があります。DVDで観るのはもったいないというか、大画面でぜひ、とお勧めしたいですね。

 あらすじ

 製薬会社の高層ビルが爆炎を上げて燃え上がる。

 その要救護者多数の現場に向かう巨大なレスキューモービル。それはこの都市、プロメポリスが擁する高機動救急消防隊、バーニングレスキューのものだ。

 炎上するビルの炎は、普通の炎とは違う。それは生きもののようにうねり、バーニッシュと呼ばれる三十年前に突如現れたミュータントたちが発する特殊な炎。

「オレの火消し魂に火がつくぜ」バーニングレスキューの新人、ガロ・ティモスは燃え上る炎を見上げて見えを切る。屋上にいる要救護者救出のため、レスキューギアとともに直上射出。そして、救護者救出後、炎の中にガロは異形のものたちを見る。

 マッドバーニッシュ。炎を操るミュータントであるバーニッシュの中でも、炎上テロリストとされる者たち。その多くが逮捕されたが、そのリーダーと二人の幹部は逃走中だった。その彼らがガロの目の前にいる。

「燃やさなければ、生きていけない」「燃えていいのは魂だけだ」

 それが、マッドバーニッシュリーダー、リオ・フォーティとガロとの邂逅だった。

 

感想 ※かなり軽くですが、内容にふれているため、そのつもりで。

 あっちーな、オイ! みたいな感想が口々に聞かれ、みんなが期待する、いよ、トリガー屋! な要素が凝縮された二時間(正確には111分)。まあ、まずそう言って間違いないでしょう。私は正直ガイナックスの流れをくむTRIGGERというスタジオのアニメは、そこまでハマったためしはないのですが(リトルウィッチアカデミア以外は、グレンラガンキルラキルもそこまで……という人間です)そういう、いきなりの水を差すようなことを言っちゃいつつも、しかし、そんな私ですらもそのノリと勢いの熱い奔流に飲み込まれました。二時間程度というのもよかったのかもしれません。

 とにかく主にビルやメカ、炎や氷といった3Dとキャラクターの2Dという作画の融合具合が独特の世界観を作り出していて、まずその世界観が気持ちいいい。一見マインクラフトみたいなピクセルのカタマリって感じなんですが、そのあえて目指したローポリ風の3DCGに、中間色を避けたビビッドな色が乗り、とても気持ちのいい空間が出来上がっていて、そこを縦横無尽に飛び回るキャラクターたちが見事に融合しています。線を抑え気味にして、ベタ塗とグラデーションで統一感を出したという画面は、その融合具合がとても爽快で、そこへ炎と氷がぶちまけられて、そのクラッシュ感というか、そのピクセル的な3Dの破片が飛び散る感じがまた一層爽快感のある画面を作っています。炎の表現は凝っていて、特に赤を使わずピンクや緑の蛍光色を使った色の表現はとてもいい。

 それからこの作品、3Dな画面を表現としてもうまく使っていて、四角や三角といったもので構成されたものをそれぞれプロメポリスという体制側、そしてバーニッシュ側というふうに使い分けています。そして、それらの融和としての円の意匠。その辺はレンズフレアがはっきりと表現していて、そういうレンズフレアの使い方は新鮮でした。なんというか、四角いレンズフレアがプロメポリスを照らすところでおっ、という感じで、なんかすごく新鮮に思えたんですね。あと、それを考えると、四角い入れ物に入れられて、三角に切り取られる円、というピザは、プロメアを象徴する食べ物と言えるでしょう。

 作品全体ではアクションに次ぐアクションで後半なんか怒涛の展開続きなんですが、それゆえにメンバーがピザを食べてるシーンだったり、ガロとアイナが氷結湖でスケートしたりという穏やかなシーンが意外と印象的に残ったりします。洞窟の中のシーンだったりエリスとアイナの場面もですね。アクションだらけの本編だからこそ、静かな場面が一層印象に残る感じです。

 プロメアというものがもたらしたものと人間の意志というテーマは深掘りやろうと思えばできそうなところもあると思いましたが、そこはあまり突っこまずに地球を燃やし尽くす、という解決で突っ走り、やり切ったその爽快感が冷めぬまま、ガロとリオの拳と拳、突き合わされるそれを丸いレンズフレアが照らして幕、という潔い終わり方はとても良かったと思います。ストーリー展開はベタで後半のSF設定をベラベラしゃべるところはグダグダなところはありますが、そのアクションはとても清清しく、そのセリフよりも様々なキャラクターの感情を語っていたと思います。

 あとなんというか、見えを切る、というのはアニメにとってやっぱ大事なことなのかもしれない。スパイダーバースもすごかったんだけど、超絶アクションの積み重ねが、なんかずっと動いてた、で終わってしまったのは、多分人間は結局、静止画の印象的なポーズの方が記憶に残るからなんじゃかかろうか。優れたアクションを包む印象的なパッケージとしての見栄は、意外と大事なのかもしれない、そう思ったりしたのでした(あのシーンって、思いだしやすくて記憶が強化される、というのがあるのかもしれない)。あと音楽ですね。澤野弘之による鳴ってほしい時に鳴るその素晴らしい音楽が、より一層アニメーションの快楽を高めていることは間違いない。

 まあとにかく、そのポップで色鮮やかな世界と、ところどころに挟まる静謐な空気。その炎の中の静かな一瞬もアクション以上に要注目な映画だったと思いますね。