蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

映画『遊星よりの物体X』感想

 『遊星よりの物体X』、である。カーペンターの『遊星からの物体X』ではなく。

 今となってはカーペンターのリメイク元として有名という感じの51年作品、そして製作(演出の大部分も担当したとされる)はあのハワード・ホークス

 ていうか、ハワード・ホークスかよ。あの西部劇の巨匠がこんな怪奇SF映画製作してたなんてなんか意外な気分。カーペンター好きと言いながらその辺はあまり知らないのだった。

 この作品、雰囲気としては、UFOや植物性生物といったSF的意匠をまとってはいるが、本質的にはフランケンシュタイン的な怪奇映画の色が濃い。舞台が北極だし、物体Xの造形や動きはもろにその怪物(正確には小説ではなく、みんながイメージするビジュアルの)だ。

 カーペンターのリメイク作は少人数の閉鎖空間内での疑心暗鬼を軸にしたサスペンスとロブ・ボッティン渾身のクリーチャーが強烈な恐怖感を醸し出していましたが、この「遊星より」はUFOから掘り出した「物体」をめぐって科学者と軍人の対立を軸に、緩急を使い分けた恐怖演出が光る作品となっています。まず、物体Xが姿を現すまでが巧い。氷漬けでなんだかよく分からないものとして姿を見せず、氷が溶け、それが基地の外に逃げた時も、吹雪く中、犬たちと戦う姿を望遠で見せ、何か異様なものがうごめいている感じを出しています。ここのところの、吹雪で霞む中、犬を思いっきりつかんで地面にたたきつける描写はなかなか怪物的で、またそれが持つ純粋な暴力性が現れて印象的なシーンです。

 その後、基地内の温室に異変が発生し、そこへ向かう主人公たち。冗談交じりのどこか緊張感を欠いた牧歌的な会話が、鑑賞者を油断させます。そして、温室の扉を開けたところで、満を持して物体Xが登場。この辺の、恐怖の対象は最初は姿を見せない、というのは、後の恐怖映画、パニック映画でも使われる基礎中の基礎的演出で、今見てもなかなかびっくりします。この映画、温室のごみ箱から出てくる犬の死体とか、ちぎれた怪物の手首とか、ギョッとするものをギョッとするタイミングで画面に出してきて、そのあたりは、古い映画ですが、きちっとしていて、そこが今見ても恐怖映画として観れるところだと思います。

 それにしても、基地内に侵入した物体Xを植物性だからと室内でガソリンまいて焼却しようとするシーンは、かなり危険な撮影だったのでは。毛布でガードしてるとはいえ、怪物に襲われそうになる女優にガソリンぶっかけるシーンは違う意味でぎょっとしたり(もちろん実際はスタントだとは思うのですが)。ここの場面はカーペンターの映画の室内火炎放射器のシーンを彷彿とさせます。カーペンターの映画はなかなかこの映画をきちっと骨格として取り込んでいて、ああ、やっぱりカーペンター、この映画好きなんだな、というのが伺えます。そういう意味でも、カーペンターの方が好きで、こちらがまだなら、観てみることをおススメしますね。ほんとに、いい映画はあまり時代とか関係ないなあ、と。そういう感慨にふける映画でした。

 

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