君が 地球だと認めたのは
どこの皇子でもなく
何の天才でもない
ひとりの子供 <メフィラス>より
2021年に新型コロナで逝去した詩人による、初代ウルトラマンの怪獣・宇宙人に焦点を当てたユニークな詩集。
戦後まもなく生み出され、高度成長期とともにその存在を確立した怪獣というものはなんだったのか。次々と生み出され、そして葬られていったそれへの鎮魂歌。
怪獣というと、幾度かのブームを経て特撮愛好家とともに育ち、すっかりそのお友達と化した感があるが、著者はあくまで手の届かないものとしての視線を彼らに向け続ける。私たちの前に最初期に現れたそれらを見上げるようにして彼女が詠む詩は、どこか宙に星座を描くようにして、読む者の前に現れる。
彼らに呼び掛けるようにして、あるいは手を伸ばすようにして、私たちが失ってしまったものを問うような詩。
その詩が呼び覚ます失ってしまったという感覚――怪獣へのある種の哀惜や、怪獣を通して何かを手放してしまったというような感覚を、たぶん私たちは失ってしまったのではないか。
私たちによって呼び込まれ、生み出されながらも、葬られていく何か。時代とともに失われていったようなその感覚を、詠み手はなんとか描き、留めようとする。それはもう、誰も気にしないものなのかもしれない。
なにを失ってしまったかも忘れててゆくスピードが加速していく中で、それでも、そんなものの象徴のような怪獣たちをもう一度見上げて欲しい。そんな祈りのような詩が、言葉が、読むものに降り注ぐだろうことを、読み終えた私もなんだか、祈るような気持になってしまった。
これから読むあなたにも、それが届きますように。