蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

鴨崎暖炉『密室狂乱時代 絶海の孤島と七つのトリック』

密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (宝島社文庫)

 

感想

 不在証明ならぬ不解証明が司法で適用され、密室殺人が横行する世界を舞台にしたシリーズ二作目。今回もまた、密室のための舞台、人物、そして密室で構成されている。密室は前作以上の七つが矢継ぎ早に繰り出され、繰り出されるそれを次々に撃破していくことがストーリーラインになっていて、主人公たちのつながりとか、生きる目的さえも含め、作品すべてが密室に支配されている作品。今回は主人公たちが大富豪の住む孤島に召集され、そこで密室殺人ゲームが開催されるはずが、ゲームではなく本当に密室殺人がバンバン起きるという話。

 犯人が密室を作ることを目的化している作品世界なので、どんなに手間暇かかろうが密室を作る。動機だって恨みつらみやしちめんどくさい人間性ではなく、密室というシンプル極まりない思想性で今回も動いているのでいっそ清々しいほどだ。なので、嫌いな人は嫌いだとは思う。人工性というか極端に密室のためにすべてが存在するので、それを割り切れないと楽しさは半減する。

 繰り出される密室トリックのメインは豪快な力技を伴った機械系トリックだが、心理的な要素を含んだものもあったりするし、また、同一発想からの派生みたいなのはなく、どれもが独立性の高い密室になっているところはかなり驚く。その密室トリック案出への情熱と労力は素直にすごいと思った。今回は謎の演出も凝ったのが出てきて、特に十字架の部屋での監禁者の消失と死体の出現インパクトはなかなか良かった。密室トリックもメインデッシュ的なインパクト。

 とにかく、密室や密室トリックが出てくれば興奮する密室変態ならば十分楽しめるだろう。また、マンガ的なキャラクターが、捜査する倫理とは、探偵とは、というふうに昨今のお悩みテーマにはミリも関心を向けず、カードバトルするみたいに密室バトルして、お前もなかなかやるな……! という世界に清々しさを感じることができたなら、この作品の熱心な読者になっているだろう。

 

 

 

以下ちょっとネタバレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 密室トリックに都合のいいものがそろいすぎていて、絶対犯人主催者だろってところはあるものの、そこを少しひねって、別犯人による第七の密室とそれに付随した叙述トリックを盛り込んで単純に終わらせないようにしているところは苦心というかサービス心を感じた。そういえば、なんだかんだで叙述トリック埋め込んでくるあたりは北山猛邦的なものを感じさせる。

 あと、特殊金属を都合よく使いすぎな気はしたが、まあ、あらかじめそういうものがあると断っておけばオッケーといえばオッケーか。微妙は人はいそうだが。