蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

シンデレラグレイの感想その1、みたいな。

 久しぶりにヤンジャンを買った(というか、漫画雑誌を買うのはウン十年ぶり)。何のためにって、『ウマ娘 シンデレラグレイ』のためにである。

 ウマ娘はまあ、今のところサイゲームスの開発中であるアプリのメディアミックスとして出たP.A.WORKSによるアニメ『ウマ娘 プリティーダービー』が、大きな中心になっている、といっていいだろう。アニメが『ウマ娘』というコンテンツの形をくっきりさせたといっても過言ではない。

 そして、アニメが、他のメディアミックスとして出ていたサイコミの漫画と一線を画していたのは、『がんばれハルウララ』や『うまよん』『Starting Gate』といった漫画がキャラクター方面に重心をかけていたのに対し、キャラクターをたくさん出してはいたが、物語は主人公のスペシャルウィークサイレンススズカの物語一本に絞り、実際のレース展開に沿ったレース中心の物語の中でIFを描く、というコンセプトを示したことだ。そして、そのためにウマ娘という存在が、現実の競走馬の異世界転生した姿という設定を打ち出した(ゲーム公式サイトのイントロダクションにはそのような説明はない)。

 開発中のゲームについてみる限り、ゲームは実際の競走馬を美少女にし、そこにサイゲームスお得意のアイドル要素を組み込んだもののようだ。育成&シミュレーションでキャラクターに親しみつつ、ゲームとしてはレースを行い、勝利したら彼女たちのライブを見る、という他のアイドル・ソーシャルゲーム音ゲー要素が育成&レースに変わったようなもので、メインはその他のアイドルものと変わらないように思われる。どっちかというと、ダービースタリオン的なものを組み込んだ、ちょっと毛色の変わったアイドルゲームというのを目指していたのかもしれない。

 一方でアニメは、前述したようにそこに実際の競走馬の事実に基づいたレース展開を中心にして、そこに“もしも”を描くことという新たなコンセプトを持ち込んだ。アニメの開巻出てくる奇妙な壁画にかぶさる言葉は、このコンセプトを端的に表している。

彼女たちは時に数奇で時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。――この世界に生きるウマ娘の未来のレース結果は、まだ誰にも分からない――。

  この壁画とウマ娘の存在を説明する言葉は「シンデレラグレイ」の開巻にも言葉を変えつつ受け継がれている。そういう意味で、『Starting Gate』などの漫画はアプリのコンセプトに沿ったコミック化であって、この「シンデレラグレイ」はアニメのコンセプトの漫画化であると言えるだろう。また、この漫画はアニメの脚本、シリーズ構成を務めた杉浦理史、アニメウマ娘の実際の競走馬方面を一手に引き受け、プロデューサーを務めた伊藤準之助がストーリーを担当している。それも鑑みると、やはり『ウマ娘 シンデレラグレイ』は「アニメ・『ウマ娘 プリティーダービー』のコミカライズ」というふうに言える。

 なんだかめちゃくちゃ前置きが長くなってしまったが、アニメとの関連性は重要というか、作っている人間が同じなので、構成がアニメの第一話と少し似ている。そこをちょこちょこ比較しつつ、第一話「ここにいる」の感想を書いていこうと思う。

 

 ウマ娘の壁画の次は、府中の東京レース場が描かれる。ゴールドシチーの勝負服が変わっているので、この漫画はアニメとは別の世界なのかもしれないし、青年誌的な変更かもしれない(どっちかというと公式の衣装の方が好みだが)。まあそれはともかく、盛況なレース場と日本ダービーという競争ウマ娘の中心が描かれる。それをスマホで観て熱くなるトレーナー北原穣。

 一転して彼のいるカサマツレース場がうつる。さびれた地方のレース場。人はいないし、解説者もウマ娘もやる気がなく、ゆるい空気が流れている。

 アニメのウマ娘たちはキャラクターがほとんど有名馬の一流どころで、勝利に貪欲であったことを考えると、はなからやる気のないウマ娘たちはなかなか新鮮。

 設備も人員もウマ娘も中央とレベルが違う。そういう諦めの中で、北原トレーナーはスターがいないと嘆く。

自分と重ね合わせて心の底から応援したくなるような……そんなウマ娘……

  おそらく、これが今作のテーマというか、主人公のウマ娘が背負うものなのだろう。そんなトレーナーの横を風のようにして突っ切る主人公ウマ娘

 そしてカサマツトレセン学園。スペシャルウィークが登校した中央のトレセン学園と違っていかにもな地方の高校っぽい校舎。そして、語り手っぽいベルノライトの登場とその他のキャラクター紹介。ガラッとアニメのスペシャルウィークみたく入ってくる主人公。そしてアニメ同様、レースについての世界観説明。アニメではデビュー戦、未勝利戦から始まってG3・G2を勝ち上がってG1での勝利を目指す、みたいな話だったが、ここでは地方のローカルシリーズの説明。開催地は全国に十五箇所らしい(ここテストに出ますよ――アニメと同じセリフ出てきた)。この辺は現代の規模に準じているよう。帯広が出てきたので、一部ではばんえいウマ娘の存在で盛り上がる人々が。ちなみに、アニメの教師はきれいな女性だったが、この漫画ではロン毛のじいさんである。

 中央は? と質問するベルノライトに君たちは気にしなくていいです、と告げる教師。あそこはレベルが違う――。

 そして食堂シーンへ。主人公が教室に現れてから授業→食堂という流れはアニメと同様だが、アニメを観ているとこのカサマツ学園の地方感とアニメのトレセン学園の華やかさの対比が際立つ。アニメは田舎出身のスペシャルウィーク含めて教室のウマ娘たちはお嬢様に見えるし、食堂はオシャレなカフェテリアで、メニューも豪華だ。一方のカサマツは制服着崩していたり、だらしない座り方してたりと、多くは普通の女子高生風だし、食堂は泣きたくなるくらい地方の大学食堂丸出しだ。そこでアニメのスペシャルウィーク同様――いやそれ以上の山盛りご飯を食らう主人公。元馬の健啖ぶりはアニメに出てきた時と同様かそれ以上か。

 入学そうそう遅刻したり、食堂で悪目立ちしたせいか、ちょっとガラのよくなさそうな三人組のウマ娘に目をつけられた主人公。三人組の一人と同室だったため、体よく物置に追いやられてしまうが、本人はあまり気にせず三人組も毒気を抜かれたようになってしまう。この物置で寝るシーンで母親との回想シーンが入る。アニメのスペシャルウィーク同様、母親との約束というのも一つのテーマになるのかもしれない。

 そしてゲートを体験する模擬レースへ。いきなり出遅れてしまう所もアニメのスペシャルウィークと同じ。そして、ベルノライト、君は立ち止まってていいのか……アニメのトレーナーに叱られそう。出遅れたものの、驚異的な追い上げを見せつけゴール。その姿に、北原トレーナーは自分と重ね合わせて応援できるようなウマ娘の存在を確信する。ここにそのスターがいる!

 北原は彼女に名前を尋ね、そして彼女は答える――オグリキャップ、と。

 

 

 という感じの一話で、まとまりの良いアニメ第一話って感じでしたね。アニメとは対照的に、まずは地方のウマ娘のレースに焦点が当たると思うので、アニメ観てるとそのギャップをより味わえる。そういう意味でも、まずはアニメを観ることをおススメしたい。いや、まあ、見なくてもいいとは思うけど、より楽しめるということで。

 アニメのスペシャルウィークの物語は舞台も華やかで、夢に向けて一直線という感じでしたが、アニメのOVA版である「BNWの誓い」におけるナリタタイシンの物語で、夢とその期待に応えられない恐怖が描かれました。そして、今回の「シンデレラグレイ」、その巻頭に添えられた言葉は「時を超え、夢と業を背負う少女たち……」ということで、アニメではあまり描かれなかった夢の影の部分みたいなのが色濃く出てきそうな気はしますね。

 アニメのスペシャルウィークと違って、オグリはあまり感情を表に出さないので、ツッコミ役兼語り手としてベルノライト(詳しい人々によるとツインビーという競走馬が元ネタらしい)というキャラクター配しているのだけれど、出会いという意味では、北原トレーナー、そして今後出てくるであろう最大のライバルが大きな役割を背負っていそう。とはいえ、ベルノライトがどんな役割を果たすのかも気になる所です。

 アニメ・ウマ娘の系譜として、レース展開や実際の競走馬に基づくエピソードがちりばめられたり再現されていくのでしょうが、個人的にはそこまで競馬を知らないということもあって、「忠実な再現」というか、どこまで史実に基づいてるかみたいなのを計測することには正直興味はなくて、それはどうせ調べたり、そうしなくても競馬ファンいちいち指摘してくると思うので、ウマ娘のIFがどう描かれるのかが興味あります(オグリ時代の地方競馬場の数が、現在のものになってる云々とかのツッコミとか心底どうでもいい)。

 アニメはスペシャルウィークサイレンススズカが出会う、というIFが物語を形作っていましたが、今回はどんなIFが物語を形作るのか、そういう興味で見ている感じです。

 あんまりこういうと競馬ファンからは怒られそうですが、私はオグリキャップの物語というよりは、ウマ娘オグリキャップの物語を楽しみたいという所があるのです。それがわざわざ擬人化して物語る意味というか、伝記とかじゃなくて一個の創作物として作る意味というか、アニメ『ウマ娘  プリティーダービー』がウマ娘スペシャルウィークサイレンススズカの物語だったように、そこから実際の競走馬への物語に導いていけるような物語でいいのではないか、そう思っているのですが。

 そういうわけで、競馬ファンからはあまり評判がよろしくないライブもぜひ描いて欲しいなー、というふうにも思っているわけです。別にメインで描く必要はないし、アニメでも額縁みたいな役割でしたが、中央との華やかさのギャップが描ける要素にもなるでしょうし、またウマ娘異世界ぶりがはっきりわかるという意味でも見てみたい、ライブ。

 あと、気になった点として、カサマツトレセン学園入学時のオグリは、公式イラストでつけている勝負服柄のカチューシャをしていないので、そのカチューシャについてのエピソードが盛り込まれるっぽい感じでしょうか。そのあたりも注目して見ていこうかなと。それから、舞台の笠松がカサマツになっているのは、フィクションなのでということなのでしょうが、佐賀競馬場もサガってカタカナだったのはなんでなんだろう……同じサイゲームスコンテンツで、佐賀を舞台にしたゾンビランド・サガに対する目くばせなのか、もしくは舞台として登場するのか。

 なんにせよ、作画担当の久住太陽によるレース描写の迫力やコマ割りのテンポも良くて、漫画としても期待できるものになっていると思いました。第二話も期待です。