蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

消えないニオイ:映画『パラサイト 半地下の家族』

『パラサイト 半地下の家族』を観てきたので、とりあえずその感想を。ちょっと内容に触れたりするので、観てない人は観てから読んでください。あらすじは略。

 

 

 

 

 

 

 

 なんていうか、キツイ映画だった。別に面白くないというわけではない。映画としてはとても面白い。しかし、キツイのだ。それは、破綻することが分かっている、今にも崩れそうな建物が崩れるのを今か今かとじりじり見つめ続ける感覚に近い。絶対にこの生活は長く続かない。それがあらかじめわかっていながら、ある程度成功しちゃって「半地下の生活」から束の間の光を見ているような彼らを見るのがツライ。別に彼らはいい人間というわけではない。といって邪悪な人間というわけではなく、生きるためにそれ相応の狡賢さ備えた貧しさの中であえいでいる人間たちだ。そして、彼らに寄生される側の金持ちもまた、悪い人間ではないが、特別好感を抱く人間でもない。特に、何もできない“奥様”は外見の美しさ以外たまたまそこに居るような人間で、ソン・ガン・ホら“半地下”の家族との違いとはいったい何なのかと思わなくもない。

 家庭教師のバイトのピンチヒッターを友人から得た長男を決起に次々と金持ちの家の中に入り込んでいく半地下の家族たち。ヒュー・ウォルポールの「銀の仮面」のように金持ちの家に上がり込んだ人間たちが次第に家を乗っ取るのかという事前の予想とは裏腹に、彼らはあくまで寄生するのみだ。そして、だからこそ悲劇は起こる。どんなに近づいたとしても絶対に越えられないし成り代われないのだ。厳然とした溝がある。それこそ、ソン・ガン・ホ演じる父ギデクに染み付いた臭いのように。

 そしてそれが、まばゆい光の中の地獄にギデクを突き落とすことになる。どうあっても踏み越えることができない予感が、最後の息子の妄想と父への言葉に嫌という程重ねられていて、またそこが気分を暗くさせるのだ。格差、というものが実感を伴って流れ込んでくる時代。その“貧困の臭い”の恐怖が私にもよく分かる。