蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

 『魔眼の匣』、『Medium 霊媒探偵城塚翡翠』、『紅蓮館の殺人』について、プロット上の共通点をネタバレしつつ触れるので、読んでない人は注意。というか見るな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……といっても三作読めば分かることで、大したことじゃないのですが。

 この三作、どれも女性探偵が親しい少女の死に傷つく要素があるのです。そしていずれも自分がたずさわる殺人事件で失うことになる。今年出た若手の(相沢沙呼は10年キャリアがありますが)注目話題作に立て続けに現れたこの要素のシンクロニシティはなんとなく面白いというか、あと城平京の某作の水脈みたいなものも感じられて、本格の繋がりめいたものもまた興味深い。もしかすると女性探偵を据えると出てきやすい要素なのかもしれない(まあこれは一考の余地アリですが)。

 そして三作がそれぞれ、特殊設定、それを装っている、特殊設定なし、と別れているのも何だかおもしろいです。そして共通しているのが異様なロジカルさ。なんだかんだ言って、『月光ゲーム』というか、学生アリスシリーズが本質的な意味で本格シーンに影響を与えているんだな、という感じがします。折れた時計の針、スカーフ、そして絵と作品を象徴する印象的な手掛かりがそれぞれあり、どれも素晴らしいロジックを見せてくれます。

 個人的には犯人特定ロジックはMediumのスカーフが好きですが、鮮やかに犯人を絞る紅蓮館の「絵」のインパクトが大きいかな。これもまた、『月光ゲーム』のロジックが息づいていて、やっぱり有栖川有栖の影響力の強さをうかがわせますね。あと、紅蓮館はそのロジックが有効になるための状況の絞り込みが巧いですね。犯人特定のボストンバッグを握りしめて煤が片方の手につかないロジックは、絞り込み含めて好きなんだけど、物詰めまくったボストンバッグをずっと一方で担ぐのはつらいと思うんですよね。多分持ち替えたと言われたらそれまでのような気がする(探偵役が同行していたからずっと見ていた、というフォローでつぶせるとは思うけど、それをやらなかったのはあからさまになりすぎるからか)。とはいえ、そのロジックと組み立てはすごく好きです。

 魔眼は予言というファクターからこれでもかとアイディアを引き出してきての怒涛の解決篇。予言を積極的に行うことで予言を回避しようとする犯人という発想がやられましたし、予言によって村人たちが積極的にクローズドサークルに加担するという設定もうまい。Mediumは整然と並べたカードが最後に指を鳴らしてすべてをひっくり返すような構成の鮮やかさが光ります。紅蓮館は怒涛の物量戦で押しまくるという感じ。そういえば、Mediumと紅蓮館は連続殺人鬼の事件が本筋に収束する構成が同じで、それをそれぞれどう使ったのかも見どころ。さらに、探偵対探偵という趣向も共通してますね。

 そして、どれもが名探偵とは? という名探偵論が紅蓮館を筆頭に濃淡はありますが意識的に組み込まれている点も共通しています。

 いやーしかし、共通したファクターを所々内包しつつも、それぞれ違った作品で面白かったです。レベルが高い作品がランキングに合わせて怒涛のように出てきて、鮎川哲也賞メフィスト賞のやつも面白そうでお金が……。