蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

生真面目でヘンな映画:映画『ヴィジット』

 なんていうか、映画秘宝界隈でのシャマランへのアツい掌返し、というそーとー胡散臭い光景をしばしば目にする今日この頃。というわけでそういえばそんな監督いたな、という気分で久しぶりに手に取ったのです、M・ナイト・シャマラン監督作品というやつを。まあ、ついでに言うと何ですが、映画秘宝の周辺って、ボンクラ装ったガキ大将って感じなんで、私はあんまり馴染めない所があるんですよ、町山さんの評論とかは親しんでたりするんですけどね(昔のファビュラス時代はあんま好きくないけどね)。

 とはいえ、そのくせミーハー気味に影響されちゃう私もどーなんだって話ですが、まあいいや、とりあえずあの監督がいま何撮ってんのかという興味もありました。んで、チョイスしたのがコレです。私自身のシャマラン体験は『シックス・センス』『アンブレイカブル』『ヴィレッジ』の三作しかありません。最初の『シックス・センス』は世間的にも大いに話題になりましたし、新人監督であるシャマランを当時ハリウッド一の最注目監督に押し上げたと同時に、呪縛になったともいえる作品。私もその伏線が最後答え合わせするみたいにパチパチはまってゆく感覚は、ミステリ者として大いに楽しみました。で、『アンブレイカブル』で戸惑い、『サイン』はスルーして『ヴィレッジ』でもういっかなーという感じになって今に至っています。まあ、その間に色々、『レディ・イン・ザ・ウォーター』とか『ハプニング』『エアベンダー』『アフターアース』といった作品群の散々な悪評聞かされて、なんでこんなに悪評ふんぷんたるなかで映画作り続けられてるんだろう、という疑問とともにさらに恐れをなし、自分の中では興味ない監督という箱にそっとしまわれていたのでした。

 そんな長い前置きをつらつら書き連ねましたが、最近は立ち直ってきたらしい(?)ので近作である『ヴィジット』に挑戦した次第なのです。これ、シャマランがファウンドフッテージものっぽい手持ちカメラホラーに挑戦した作品って感じなんでしょうかね。全編、疎遠になっていた祖父母のもとを初めて訪れた姉弟が、母親のための映画作りにカメラを回しているという設定で進んでいきます。そのうち、祖父母の奇妙な行動が眼についてきて……というのが、まあ大雑把なあらすじです。

 全体的な感想を言うと、なにこれヘン!? という映画。やっぱシャマランじゃねーか、みたいな気分になりましたです、ハイ。この監督の特質として、ギャグすれすれの出来事を大真面目に撮る、みたいな所があると思うんですが、この映画もホントそんな感じで、登場人物がどこまで正気なのか以上に監督がどこまで正気なのかそっちの方が気になってしょうがないですよ。

 まあでも、今回は結構成功している方だと思います。手持ちカメラで自撮りしてると、その撮ってる人間は自分の後ろは分からないけど、その映像を見ている私たちには背後が見える。よって、撮ってる人間が気がつかない何かが映るんじゃないかという緊張感を持ち続けることになる。この画面の特色をうまく使ってて、いつなんかヘンなものが映りこむんじゃないかと気が気じゃないです。雪の森とか、夜の月とか、神秘と怪奇のすれすれみたいな情景の撮りかたとかもなかなか良くて、あんま映んないんですけど、そういう家の外の描写はすごくいい。

 徐々に変な出来事にやばさが積み重なり、しかし恐怖が慣れたころに投入される事実で盛り上がるサスペンス性、とかもきちっとしたタイミングで構成されていて、なかなかいいんですが、いかんせん結末がわやな感じがして、なんだかヘンなもの見たなあ、みたいな感覚の方が強く残っちゃいましたね。親子の感情まわりもなんかうまくいってない感じがしました。

 全体的にはやはり、シャマラン的なヘンな生真面目で覆われていて、まあ、そこを楽しめればいいのかなって感じでした。ぶっちゃけいい映画だとは思えませんでしたが。ヘンな映画が観たいなら、観てみるといいかもしれません。

※こっからはネタバレでちょい語ってゆくので、そのつもりでお願いしますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OK?

 

 なんていうかまず、いいのかこれ、と少し心配になりましたね。オチというか、オチなんかなくてヤバい奇行祖父母はやっぱりヤバかった、という話なんですが、精神病患者をこんな風にネタにして怒られないんだろうか……そっちの方が怖いよシャマラン。あと、やたらとヘンゼルとグレーテルみたいなオーブンネタを推すのは何なんだよ、意味わかんないよ……。この姉弟は両親が別れて、父親と離れ離れになったということが、トラウマになっていて、姉は鏡を見ることができず、弟は極度の潔癖症(というか、あんましそんな描写ないけどね。潔癖症のくせに床下潜るし)という問題をそれぞれ抱えてるわけですけど、それを克服して、このヤバイ連中を退治する、みたいなところがイマイチなんですよ。それで結末がわやになって、なんかヘンな映画観ちゃったなー、みたいな気分で終わってしまったように思います。

 あと、全体的にアラはたくさんあって、まずついたその日にスカイプで祖父母の姿を母親に見せるだろうし、その瞬間入れ替わってることに気がつくだろ、という身もふたもないものをはじめ、相変わらずのネタのためにすべてが動いてる感じなんですけど、そこはまあ、そういう作風だし、突っこんでもしょうがないかな……ということで。

 うーん、しかし、この次の『スプリット』観るべきなのかなあ……やはりみんな意地が悪い面白がり方をしてるだけなんじゃないのか?