蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

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 この動画、いま結構出回ってて、中身の議論は発信者がSF寄りの人なのか、SFの問題として論じつつ、SFを創作する際の注意として「Experience is Sexy」と結論付けるわけなんだけど、どうもこの中身についてもうちょい精査するというか、SFやアニメを乱暴に総括ぎみの論調に対してあまり議論が上がらなく、すでにある自分の結論を強化する、もしくは肯定してSFは、男性は、オタク(そもそも「オタク」は男性を指すだけの言葉ではないと思うのだが……)はという風に、共感の集団内で吐き捨てて憂さを晴らす、まあそういう、いつもといえばいつもの光景が繰り広げられていて、なんだかなあ、という感じでしょうか。

 一口にSFやアニメって言ったってそもそも凄く裾野が広いし、個々に挙げられている数点の実例は良くないテンプレの一つとして議論されているはずなのだが、それがSFやアニメの特徴みたいにされるのはなんだか納得がいかない。SFはSFでも私の読んだ数少ないSF小説のなかでここで挙げられているようなBorn sexy yesterday的な作品は目にしたことはあまりないし、クラークやベイリー、ディック、ディプトリー、コーニイ、冲方丁長谷敏司などなど……にあっただろうか、そういう要素。ヤング……は少しそういう要素があったかなあ。『BEATLSS』はそういう嗜好をAIが利用するという要素があるが……。あと今はもう残っていない量産パルプ小説には沢山あったのかもしれない。でももうそれは主流でも何でもない。

 確かに表現としてあるのだけど、それでSFやアニメをひとくくりにしてだからSFは嫌いだとか、所詮は男性の願望充足などとものすごく大きなくくりで吐き捨てるのはあまりにも短絡だし、ただ単に嫌なものがあるからみんなそうだ、といういささか幼稚な振る舞いに見える。

 私はこの動画の本質ってSFのテンプレートがうんたらではなくて、過去からあらゆる創作ジャンルに忍び込んできた人物間の関係の不均衡で、それは動画内でずばり“永遠の教師と生徒の関係”という言葉で指摘されている。

 ――なのだが、過去の様々なSF外の映画から抽出してきたこの本質を、SFのジャンル内で論じるために、この本質をSFの想像力がよりテンプレートとして可能にする、という論立てになってて、結果的にSFだけがやり玉に挙げられているような結論になっちゃってしまい、結局、一部でだからSFは、男は、みたいな単純な流れにワッと吹き上がってしまっている。

 私としてはこの動画についてはせっかく本質にたどり着いていたのに、結論も含めてなんだかなあ、という感じです。関係性の不均衡が、宇宙人とかアンドロイドとかSFのガジェットと結びついてよりスムーズに実現しやすい要素があるというものであって、その“永遠の教師と生徒”という関係性は、他のジャンルの映画で挙げられているようにどんな創作物にも入りこむだろうし、これは男女間の不均衡にとどまらない。これから色んな関係性がより創作の中で描かれていく中で、男性同士、女性同士にも生じるし、そこに性的搾取な不均衡もまた生じるはずだと思うのだが。これからの作品創作のうえで注意しなければならないのは、色んな関係性においての不均衡、その一方的な支配だと思うのです。

 もちろんこの動画で挙げられた作品にある無知で無垢なキャラクターを性的に消費するのは褒められたことではないし、第一あまり面白くない。『猿の惑星』の喋れないブロンド美人なんてほとんど覚えてないよ。ジーラ博士の方がキスシーン含めてキャラクターとして印象に残ってるし。こういったキャラクターは幅がないのでそもそも面白くない、印象に残らないという視点も、創作する際には必要かもしれません。

 まあでもなんていうか、正直、全体的にはざっくりしすぎてて、これで我が意を得たりっていうのは、結局はざっくりした理解をしてるつもりの人なのではないか、という疑問もあったりしますね……やはり元動画そのものに色々議論と検証が必要かなあと思いますが。