蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

映画

喧騒と静寂、新しい時代と去りゆく者たち:映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』

Once upon a time in the west――むかしむかし、西部で。 『ウエスタン』という邦題で親しまれてきたセルジオ・レオーネの一大叙事詩であります。そして今現在、そのオリジナル版が日本初公開で劇場にかかっているのです。一応、2時間45分版のそのオリジナル…

笑い者が世界を笑うまで:映画『JOKER』

とりあえず、迷っていたら観に行ってほしい。こんなにも笑い声が悲しい映画はそうない。 どこまでも孤独な人間が、ささやかだか自己を規定していたものを少しづつ削られてゆくさまは、別にこの映画に限ったことではなく、“いまここ”にある現実でもある。どこ…

君と僕であなたと私の物語:映画『HELLO WORLD』

『HELLO WORLD』観てきましたよ。イーガンでディックでマトリックスな青春ラブストーリーと言えばいいのか。結果としてはなかなか面白かったです。 とはいえ、やはりイーガンというか、この手の量子力学ガジェットSFは頭がこんがらがる。時間とか空間とか、…

ヘンはヘンだが楽しい:映画『サイン』

『ジョーカー』の予習というかなんというか、ホアキン・フェニックスの映画を観とくか、みたいな感じになり、いまさらというチョイスですが未見だったこれを観てみました。自分にとってホアキン・フェニックスは、『グラディエーター』のシスコン皇帝なんで…

好きなヒーロー映画

ヒーロー映画。ここでは邦画以外のアメリカンコミックを中心としたヒーロー映画、いわゆるスーパーヒーロー物、そのなかで自分が好きな映画を挙げてみたい。 まあ、実のところここ最近はマーベルを中心としたスーパーヒーロー映画ってやつには食傷気味という…

さだめられた結末を見つめる:『さよならの朝に約束の花をかざろう』

ちょっと前に見た映画の話。というか、だいぶ前の話になるが、一昨年はクリスマスに『ゴケミドロ』観たので、今回は『サイレントヒル』を観ようと思ってたんですよ。しかし、家人が劇場で観てすごく良かったからこれを観ろ、泣ける、みたいな感じで勧めてき…

影絵の悪魔:映画『狩人の夜』

人を裁くな。あなたがたも裁かれぬように。 マタイ伝 七章 1955年、イギリスの俳優チャールズ・ロートンが一度だけメガホンを取ったという作品。当時はさして評価されなかったらしいのですが、少なからずの後続の映画人たちに影響を与え、また支持されて、少…

ミステリ映画の快作:映画『ロスト・ボディ』

ロスト・ボディ [DVD] 出版社/メーカー: 松竹 発売日: 2015/10/07 メディア: DVD この商品を含むブログを見る 『インビジブル・ゲスト』というスペインのオリオウ・パウロ監督の傑作ミステリがあるのですが、その製作スタッフたちによる前作がこの『ロスト・…

IMAXで観てきた。

観てきた。ブレランを。『ブレードランナー ファイナルカット』を。 いまさらといえば今さらだ。しかし2019年11月のロサンゼルスは、相も変わらず「未来」の先端で、果たしてフィクションはこれに変わる新しい「未来」のパラダイムシフトを起こせるのか、い…

自ら踏み越えようとする人間の深淵:『ザ・バニシング―消失―』

ザ・バニシング-消失- [Blu-ray] 発売日: 2020/08/05 メディア: Blu-ray 1988年に公開された本作は、その評価とは裏腹に長らく日本で劇場公開されないまま、キューブリックが震撼したという言葉とともに、ちょっとした伝説の映画として、映画ファンの間で語…

少女の運命を世界が引き受けること:映画『天気の子』

観てきましたよ、新海誠の最新作を。とりあえず感想に入る前に、私個人の新海誠作品との距離感というか、遍歴みたいなものを書いておきましょうか。(あ、先に言っておきますが、あらすじはめんどいんで省略しますね) 新海誠の名前を知ったのは一応、その最…

ボンクラ・マッドマックス 映画『ターボキッド』

ターボキッド [Blu-ray] 出版社/メーカー: キングレコード 発売日: 2018/07/04 メディア: Blu-ray この商品を含むブログを見る この映画、チャリンコマッドマックスとか言われてたりしますけど、それなんか違うというか。確かに世界観はポストアポカリプスで…

だだっ広い孤独:映画『荒野にて』

確かにわれわれ人間は弱く、病気にもかかり、醜く、堪え性のない生き物だ。だが、本当にそれだけの存在であるとしたら、われわれは何千年も前にこの地上から消えていただろう。 ――ジョン・スタインベック 孤独の風景。そのイメージはどんなものだろうか。部…

炎とその一瞬の静けさ:映画『プロメア』

CGアニメの一つの到達点といっていいのかもしれない。素晴らしいアクションが、アニメーションの“動き”の快楽が横溢している映画であり、早くも今年ナンバーワンのアクションアニメ映画が出てきちゃったかもしれない……というと気が早すぎるかもしれませんが…

ヒーローなんかじゃない:映画『タクシー運転手』

ヒーローでも何でもない男がいる。彼は貧しいタクシー運転手で、家賃を滞納しつつ娘と一緒に暮らしている。その日を生きるために働いている、ごく普通の男だ。初めはただ、支払いのいい外国人を乗せる仕事を耳にし、それをかすめ取って一儲けしようとしただ…

映画という鉤爪:映画『マッドボンバー』

マッドボンバー [Blu-ray] 出版社/メーカー: キングレコード 発売日: 2018/05/09 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (1件) を見る 決してものすごく細部まで作りこまれた作品ではないのだけど、強烈で忘れがたいものとなる、そんな映画がある。この作…

のっぺりとした絶望の世界で:映画『太陽を盗んだ男』

DVD観て、そういえば昔、こんなの書いてたなというのを思い出したので。 『太陽を盗んだ男』――。長らくカルト的な扱いを受け、映画好きたちがひそかに、しかし脈々と語り継いできた伝説の映画は、やがて多くの支持を得てオールタイムベストなどの常連となる…

それは、過去の希望の姿:映画『イカリエ₋XB1』

イカリエ、なんだか不思議な語感。聞きなれないこの言葉は、旧チェコスロヴァキアの映画のものだ。 1963年。鉄のカーテンの向こう側で、『2001年宇宙の旅』(68年)に先駆ける形で生まれたSF映画。そしておそらくキューブリックのそれに何らかの影響を与えた…

本当のプロパガンダは「怖く」ない:映画『NO』

NO (ノー) [DVD] 出版社/メーカー: オデッサ・エンタテインメント 発売日: 2015/04/02 メディア: DVD この商品を含むブログ (6件) を見る プロパガンダ。その言葉で何が思い浮かぶだろうか。いかめしい指導者の肖像画やポスターが学校を始めとする公共施…

暗くてしんどいよ:映画『湿地』

“社会派ミステリ”ってやつの褒め方って、結構聞いてるとイラっとしません? 私はめちゃくちゃイラっとします。これぞ読み応えのある小説とか、重厚とかやたら言ってきて、だからなんだよ、みたいな。重々しければ小説としての価値が保証されるのでしょうかね…

幻想は地べたを這いずり始まりを目指す 映画『ガルム・ウォーズ』

久しぶりに観たんで。あ、一応ネタバレで語るので注意です。 『ガルム戦記』――プロジェクト『G.R.M』。押井ファン、特に長年のファンには思い入れがあるタイトルだろう。そのパイロットフィルムを見て、日本がハリウッドを凌駕するSF超大作を世界に問う「幻…

生真面目でヘンな映画:映画『ヴィジット』

なんていうか、映画秘宝界隈でのシャマランへのアツい掌返し、というそーとー胡散臭い光景をしばしば目にする今日この頃。というわけでそういえばそんな監督いたな、という気分で久しぶりに手に取ったのです、M・ナイト・シャマラン監督作品というやつを。ま…

その瞬間、あなたはそこにいる:映画『ファースト・マン』

『ボヘミアンラプソディー』の感想を書いたときに、体験する装置としての映画がこれから増えていくだろうということを書いたが、この映画もまた、観る者にその過去の瞬間を体験させる映画である。「ボヘミアン」以上に徹底した体験追及型で、物語性や人物か…

恐怖のチキン:映画『キラー・スナイパー』

Killer Joe メディア: DVD この商品を含むブログを見る というわけで、またもやフリードキン映画である。2011年公開の最新作で、ヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞にノミネートされたりした、久々に脚光があたったフリードキン映画である。内容は……いつもの…

帰ってこれなくなった男:映画『ハンテッド』

ハンテッド [DVD] 出版社/メーカー: 日本ヘラルド映画(PCH) 発売日: 2005/07/06 メディア: DVD クリック: 22回 この商品を含むブログ (15件) を見る 恐怖の報酬に感動したということもあり、今回もフリードキンの映画である。この映画は観てなかったので、ち…

生きながら死んでいる男たちの:ウィリアム・フリードキン『恐怖の報酬:オリジナル完全版』

映画ファンの中では伝説ともいえるウィリアム・フリードキンによる『恐怖の報酬』。そのオリジナル完全版を観てきました。ネタバレ前提的に語るので、まあそのつもりでお願いしますです。 『恐怖の報酬』――もともとは1953年製作のアンリ⁼ジョルジュ・クルー…

「体験」を再現する装置としての映画 『ボヘミアン・ラプソディ』

というわけで、新年初の映画はこれでした。おまけに恐らく人生初のIMAXで観た。ぶっちゃけ、同行者との時間の都合でIMAX字幕しかなく、えー、高い、みたいな感じで劇場に乗り込んでいったのですが、いや、観てよかったです。というか、これはIMAXで観るべき…

映画『遊星よりの物体X』感想

『遊星よりの物体X』、である。カーペンターの『遊星からの物体X』ではなく。 今となってはカーペンターのリメイク元として有名という感じの51年作品、そして製作(演出の大部分も担当したとされる)はあのハワード・ホークス。 ていうか、ハワード・ホーク…

狂ったケモノが見通す視線 映画『狂った野獣』

町山智博氏と春日太一氏が語る東映時代のエピソードの中で、渡瀬恒彦最強伝説という話があり、、その伝説の一つとして挙げられて、ずっと観たかった映画。ようやく、見つけてきて鑑賞しました。いやー、なかなかすごかったです。 渡瀬恒彦っていうと、私は十…

ゾンビ映画? いやミステリ映画だ! 映画『カメラを止めるな!』

まあ時間もたったし、ある程度ネタバレでいきますね。 ようやくあの話題の映画『カメラを止めるな』が我が地元で(地方の悲しみ)も公開され、行ってきましたよ。確かにこれはなるべくネタバレ回避で観に行った方がいいかもしれない。ただ、実のところこの映…