蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ライミ印の笑えるホラー:映画『スペル』

 サム・ライミ作品。『死霊のはらわた』を観れば分かるが、彼のホラーはきちんとしたホラー演出で驚きつつも観てるうちになんだかドツキ漫才というか、スプラスティックコメディめいた展開になっていき、ついには恐怖よりも笑いが先に来るようになるのだ。

 この映画もまた、そういうライミ印のホラーコメディとなっている。怖いの苦手という人も結構楽しめると思うので、迷っていたらぜひ。あ、でも視覚的にキタナイ描写は結構あるよ。

 

あらすじ

 クリスティン・ブラウンは銀行で融資を担当している。彼女の目下気がかりなことは、いまだ空席になっている次長の椅子。支店長はクリスティンの可能性が高いと言ってはいるが、アジア系男性の同僚スチュにも目をかけているようだ。クリスティンは積極的にアピールする。彼女には大学教授の交際相手がいて、結婚を前提に考えている。しかし、彼の母親はもっとふさわしいキャリアを持った女性を望んでいる。ここはどうしても確かなポストが欲しい。しかし、支店長はすかし、曰く決断力のある者が望ましいというのみだ。日々、焦りを募らせるクリスティン。そんな彼女の前にローン返済の期限を延ばしてほしいという老婆が現れる。ハンカチに痰を吐いたり入れ歯を取り外したりでなんだか、あまりいい感じのしない老婆。クリスティンは支店長に相談するが、支店長は彼女の判断に任せるという。決断力……次長の椅子……クリスティンは意を決し、支払期限の延長を拒否する。家を奪われることに老婆は絶望し、クリスティンに嘆願する「どうか、どうか家を奪わないでちょうだい、あたしゃ行くとこがないんだよ!」ついには頭を下げる老婆。異様ともいえる狂態にクリスティンは警備員を呼び、老婆を連れ出してもらう。「こんなに頼んでいるのに! あたしに恥をかかせたね!」絶叫する老婆。

 その場は事なきを得たかに見えた。しかし、仕事が終わり、地下駐車場に出てきたクリスティンは異様な空気を感じる。いぶかりながらも車に乗り込んだ彼女の後ろに異様な影が映る。あの老婆が潜んでいたのだ。取っ組み合いになる二人。ついに老婆はクリスティンのコートの裾のボタンをちぎり、呪いの呪文を唱える。三日後にお前は地獄に行く、そう言い残して老婆は姿を消した。

 その後、恋人に連れられ帰宅する途中、クリスティンは導かれるように、霊能者の看板を目にし、ドアをくぐる。心理学教授の恋人ははなから疑いを隠さないが、クリスティンを視たその霊能者ラム・ジャスは態度を一変させ、お代は結構と彼らを追い出した。不安を募らせるクリスティン。そしてそれはやってくる。彼女に憑いたモノ――ヤギの角を持った悪霊――ラミアは部屋にいた彼女を襲い、壁にたたきつけて風のように去っていった。それからなおも彼女に襲い来る悪魔の影そして悪夢。クリスティンは許しを請うため老婆の家に急ぐが彼女はすでに死んでいた。

 最後の手段として霊能者ラムのつてをたどり、かつてラミアと対峙した霊能者サン・ディナにすがるクリスティン。サン・ディナによる除霊は果たしてクリスティンを救えるのか。悪魔を迎え撃つ、その夜が訪れようとしていた……。

 

感想

 ようやく観たのですが実にサム・ライミらしいホラーでした。私は『死霊のはらわたⅢ』こと『キャプテン・スーパーマーケット』が大好きなのですが、あれほどハチャメチャではないにせよ、思わず笑ってしまうシーンが目白押し。もちろん、ホラーという軸はしっかりとあるので、そういう恐怖演出はしっかりとあります。

 サム・ライミのホラーというのは、一風変わった感じというか、ガチで怖がらせるというよりは、幽霊とか悪魔とかが積極的にぶん殴りに来て(そう、呪いがどーとかよりもライミの霊はドツキに来るのだ)、そうやってぶん殴られているうちに、どこか思わず笑ってしまうようなドタバタ感が浮き上がってくるのがミソ。「死霊のはらわた」シリーズだと、アッシュが死霊に吹っ飛ばされてどっかにぶつかると頭に何か落ちてくるとか、右手に悪霊が取り付いて、自分の右手にどつかれて格闘し出したりと、サイレントちっくなドタバタがいつしか恐怖を塗り替えてゆくのです。

 この映画もそんなライミの味が詰まったホラーとなっています。この映画の呪いの主体であるのはラミアという悪霊なのですが、それを食うほどのインパクトを持つのがやはり冒頭の薄気味悪い婆さん――ガーナッシュ夫人。死んでからもクリスティンの悪夢の中に登場してはキタナイものをクリスティンにぶっかけます。しかし、ほんとクリスティン役のアリソン・ローマンが体を張ってるというかなんというか(大体CGだとは思うけど)……鼻や口に蠅が入るは、チェンソーマンの主人公張りにゲロやそれに類するものを口に注がれるは、あげく老婆のフィスト(拳)が口に……。もうめちゃくちゃですので、そこを眉をしかめるかゲラゲラ笑えるかが、この映画を楽しめるどうかというところ。

 流血シーンは一応ありますけど、ヒロインの漫画みたいな鼻血ぶーから、ゲロみたいに血を吐くシーンですので(しかも人にぶっかける)ちょい引くかもしれませんが、結構笑えるシーンとしての流血デス。

 主人公のクリスティンは、ちょっと理不尽な感じで呪われて、なんだかんだでひどい目に合うヒロインというふうに一見見えたりして、最後の最後はちょっとヤな感じになる人もいるかもしれませんが、全体はあくまで彼女の主観でしかなく(特に老婆は悪い人ではないのだ。彼女から見たらなにか汚らしい感じに見えているだけで)、引いてよく観るとこのクリスティンもなんか自己中なヤな奴なのでは? という感じに見えてきて、果たしてただただかわいそうな子ヤギなのかどうなのか。ホントの姿はどんなものか――そこも注目して観るといいかもしれません。なかなか怖くて笑えて、味のある映画だと思います。

 サム・ライミはやっぱこういう感じが好きだな。