蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

島田荘司『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴: 名探偵 御手洗潔 (新潮文庫nex)

セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴: 名探偵 御手洗潔 (新潮文庫nex)

 なんとなく再読してみようと手に取って、なんだかあっという間に読んでしまいました。御手洗シリーズといえばの強烈で奇天烈な謎、というものではありませんが、奇妙な発端から、次々と御手洗に導かれるようにして意外な出来事がテンポよく繰り出されて、その展開の仕方がすごくよくできた作品であると思いました。

 あと、クリスマスと貧しい少年少女という題材が島田荘司は好きですね。「数字錠」や『鳥居の密室』など、御手洗は基本子供にやさしい。

 ミステリの流れと少女の境遇、それがセント・ニコラス⁼サンタクロースの形で集約されて、構成的にも無駄なくすっきりした感じの秀作になっていると思います。

 ホームズ譚っぽさが色濃い感じもあって、島田荘司シャーロック・ホームズへの傾倒なんかもうかがわせますね。

 しかし、やっぱ巧いですね。迷惑な感じの訪問者のおばあさんから世間話的に語られるちょっと妙な話を発端に、あれよあれよと事態が進展していき、石岡と読者は胸まであるゴム長と釘抜をもって下水管の中にいる。それで事件解決かと思いきや、事態はまた二転三転してゆくわけで、その緩急のつけ方がすごく巧い。新たな事件をどういう形で読者の前に出し、そしてそのためには探偵にどういうふうに語らせるのか、又は語らせないのか。その情報操作の巧さというのも結構よく見える作品ではないでしょうか。

 それにしても、ある種迂遠ともいえる犯罪計画を軸に、このような名探偵の冒険物語に仕立て上げる著者の力量というか、構成力に改めて感心した次第でした。オオネタのトリックを魅せつつそれを煙幕にしてたり、そのへんも良いですね。