蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

アニメ『押絵ト旅スル男』

 ここ連日めちゃくちゃ暑いですね。アツいアついあつい……白くとんだ視界、ゆらゆら揺れるは蜃気楼……というわけで「押絵と旅する男」について、ではなくアニメ作品の『押絵ト旅スル男』についてです。(なんかえらい無理矢理な導入ですが、日常的なフリから入るやつやってみたい気分だったんです……)

 『押絵ト旅スル男』は、江戸川乱歩の短編「押絵と旅する男」を原作とした短編アニメーションです。監督を務めた塚本重義氏はフリーのアニメーション監督として、自主製作の短編アニメを多数手がけています。氏の作風は公式ページである『弥栄堂』

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 こちらを見てもらえば分かると思うのですが、徹底したレトロ趣味で貫かれ、好きな人にはこのページを見るだけでもたまらないものがあると思います。制作された作品がYouTubeニコニコ動画などにも多数公開されていますが、とりあえずは10分ほどの短編作品、『端ノ向フ』を見てもらうのがいいでしょう。

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  このどこか暗がりを帯びたレトロな世界観。それが、乱歩の世界とあわないはずがありません。氏の作風が気に入れば、彼が描く「押絵と旅する男」も気に入ると思います。※文学作品を原作としたものにはこの作品の他、太宰治の「女生徒」もあります。

 この『押絵ト旅スル男』は9分ほどですがかなり巧くアニメーションになっています。謎の語り手の老人、浅草十二階、八百屋お七の覗きからくり、そして妖艶な押絵の少女――。それらの主要な要素を一つの見世物小屋の中に配置するようにして、観る者をその迷宮の中に彷徨わせます。一方で原作と決定的な違いがあって、それは原作の冒頭にある、主人公が老人と出会う動機となる蜃気楼という存在、そして出会う場所である汽車。一番大きいのは蜃気楼という導入が省かれている点でしょう。

 舞台は汽車ではなく、東京を走る電車。押絵を持った老人に招かれる形でそれに乗り込む男。やがて、老人の話は兄を追いかける弟の話になってゆく。弟は十二階で兄を見つけ、兄がそこから双眼鏡で覗いていたものを知る。語り手と聞き手、兄と弟、それらがいつしか茫洋とし、溶けるようにしてこの見世物小屋のような世界を永遠に彷徨う。そんなテイストに仕上がっています。香具師の口上がいつまでも、いつまでも響いているような、そんな永遠の見世物小屋。そのからくり仕掛けの様なその世界は好きな人にはたまらないものがあると思います、予告を見て気に入ったのならぜひ。

 監督は今現在クラウドファウンディングでオリジナルアニメ『クラユカバ』を制作中。そちらも楽しみですが、ふたたび乱歩作品のアニメを手掛けてくれないかな、という希望もあったり。


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