蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

ボンクラ・マッドマックス 映画『ターボキッド』

 

ターボキッド [Blu-ray]

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 この映画、チャリンコマッドマックスとか言われてたりしますけど、それなんか違うというか。確かに世界観はポストアポカリプスで、あっちは車やバイクでこっちはチャリというのはそうなんですけど、チャリで激走するヒャッハー! なやつらがぶつかり合ったり宙を舞ったり、首から落っこちてヤバイ感じでぐんにゃり、みたいなのを思い浮かべちゃうと、マッドマックスちゃうやんけ、となっちゃうかもしれません。

 なんというか、荒廃した世界観やマスク被ったキャラとか水を独占する凶悪な集団とか、ガジェット的には取り揃えてるわけなんですけど、どっちかというとそういうマッドマックス風味な世界観で語られる、いわゆるオタクちっくなボーイミーツガールのお話です。

 とはいえこの映画、ゴア描写がヤバイ。とにかく手がちぎれるのは序の口で、顔が輪切りになったり、体が分解されたりと血しぶきマシマシな描写が満載。よって、そういうのがだめな人はあまりお勧めできない内容だと思います。

 個人的にはどっちかというとタイトルに書いた通り、ボンクラ・マッドマックス、という映画だったように思いますです、ハイ。

 

あらすじ

 1997年、世界は崩壊していた。戦争が核の冬を呼び込み、寒冷化した地上は水も食料も乏しく、ひたすら暴力によって荒廃している。そんな無法地帯でゴミ漁りをしながら少年キッドは独り生きていた。漁った廃品は街のクズ屋に渡し、わずかながらの水を得る。その水はこの地の領主であるゼウスが取り仕切っていて、その水によってゼウスは人々を支配しているのだ。

 そんな荒廃しきった世界を鼠のようにして生き延びているキッド。彼は幼いころから、漫画のヒーローにあこがれている。住処の地下シェルターでターボライダー主題歌を聞きながら、ヒーローに思いをはせる孤独な少年。

 ある日、クズ屋のおまけにもらったターボライダーの漫画を公園跡地で読んでいた彼に、急に近づいてきた少女がいた。不思議な雰囲気を振りまき、彼に友達になってほしいと迫る彼女はアップルと名乗る。これまで旅してきた友達が死んじゃったの、と彼女が指さす先にはミイラ化した死体。あまりのことに逃げ出すキッドだが、彼の腕につけた腕時計型発信機でアップルは彼の住処に上がり込む。そしてニコニコしながら言うのだ「友達になって」と。

 半ば気味悪がりながらも、物おじすることなく距離を詰めてくるアップルに、キッドは渋々ながらも友達ごっこに付き合う。次第になんとなくアップルに気を許すようになるキッド。ある日、廃品漁りに出る二人だったが、その途中彼女はゼウスの配下たちに連れ去られてしまう。逃げるキッドは、自転車が突っこんだ先で謎のシェルターを発見し、そこでターボライダーそっくりのスーツとレーザー武器であるグローブを手に入れる。力を手に入れたキッドはアップルを救出にゼウスの工場へと赴く。

 一方、街では人がたびたび消えていた。アームレスリングのチャンプ、フレデリックは消えた弟がゼウスの下にいるらしいことを突き止め、ゼウスの工場へと乗り込んでゆく。捕らえられたフレデリックはそこでゼウスが牛耳る「水」の正体を知る。そこにはアップルの姿もあり、彼女を救出に来たキッドが乱入。彼らは共闘してゼウスと闘うことになるのだった。

 

感想  ※この先はネタバレ込みで語るので、そのつもりでお願いします。

 

 荒廃したマッドマックスな世界。しかしそこには車やバイクの姿はなく、移動手段は何故だかみんなチャリ!(説明はねえ‼) マッドマックス張りの激しいチャリンコアクションを期待してたところはスカされた形でしたが、荒廃した世界で強面の男たちが総じてチャリに乗っている絵面は面白いです。北斗の拳のモヒカンたちがみんなチャリに乗っている光景は、どんなシリアスなシーンもカッコいい&厳つい男もオタク少年と同様のダサさの中に収まって笑わずにはいられません。案外、このチャリンコ効果というものは、この主人公であるオタク少年がマッドマックス的な世界でも埋没しないための重要な要素なのかもしれません。

 悪のアジトたる工場入口に横付けされた無数のチャリは、なんだかゲーセン前の光景みたいで著しく緊張感を欠き、主人公たちが逃げるのも、なんか不良から泡喰って逃げる可笑しみが漂います。だからこそ、オタク的なボンクラ要素が馴染んでいるのかな、という気もしますね。

 とはいえ、ゴア描写はほんと容赦ないです。首や胴体真っ二つで血が噴水みたいにピューピュー飛び散りますし、それはもう基本で、ミキサーで目ん玉あたりの顔をひき潰されたり、ばらばらにした手足を機械に放り込んで水を作るためにひき潰すは、最低なのが、キッドの知り合いのクズ屋拷問シーン。腸を自転車の車輪につなげて漕いだら腸が飛び出して車輪に巻き付きチューブになるとか悪趣味ここに極まれり。主人公が手に入れるレーザーグローブもエグくて、当たった人間が水風船みたいに血液散り飛ばして爆散します。

 そんな強烈な血みどろの中で何が語られるのかというと、オタクなボーイミーツガール。ヒロインのアップルは初っ端からヤバ目な不思議ちゃんぶりが強烈で、女の子をろくに知らない少年にぐいぐい来ます。ふと現れた美少女にぐいぐい来られて戸惑いながらも仲良くなり、そして、やがて明らかになるのは、アップル、彼女は家庭用のロボットだったーーって、なんかアニメみたいだな。というか、日本の特撮やアニメよりな気がするんですよねなんだか。タイトルロゴの出るシーンの光の使い方なんかもろ80年代から90年代の特撮(仮面ライダーBlackとかメタルヒーローあたり)っぽいですし、劇画的なアメコミ読んでるのにキッドが描くアップルの似顔絵はなぜか日本の漫画チックなタッチだし。なんというか監督のその辺の趣味も感じましたね。

 そういえば、水がないなら、人間がいるじゃん! ということで人間絞って水を作るっていうネタはなかなか個人的には見たことなかったので、ちょっと新鮮な感じがしましたね。食い物にするというのは結構あるんですけど、わざわざ水。マトリックスの電気くらいメンドクサそうですが、サトウキビ絞るような感じでぶつ切りにした人体を放り込んでメキメキ機械が巻き込んでいってました。

 ロボットヒロインの再起動だったり、ゼウスの赤い機械の目はターミネーターだろうし、ハンマーでヌンチャクや機械の隻腕とかヒューマンガスちっくなマスクマンだとか、映画オタクのあれやこれやが詰め込まれて、ほんとボンクラ・マッドマックスという感じでした。

 でも意外と終りはしっとりというか、死んだら星になるという主人公が母の思い出を語るシーンが上手く効いていて、おバカで残虐なだけじゃない、儚い恋物語として芯が通っていたかな、という感じでしたね。なかなかいいB級映画だったかなと。まあ、残虐シーンはひたすらひどいですが。