蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

世界はゆるく繋がっている:道満晴明『メランコリア』上・下

 

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス)

 
メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス)

メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス)

 

  道満晴明。ショート・ショート漫画の達人。というか、淡白なエロ(という割には下世話さが強かったりするが)と涙のカルト作家? まあ、とにかく、一部に熱烈なファンがいる短編漫画作家の最右翼と言えるかもしれない。

 無機質というか、どこか可愛さの中に狂った線が潜む著者の漫画は、映画をはじめとした膨大なパロディや笑うに笑えない題材(ていうか、それはやめろ、という真顔になるのもある)、どうとらえていいのか分からないオチ、そして時として2ページ足らずでジワっとした感動の物語を紡いだりと、闇鍋のような作品が詰まっている。必ずしも全部がおススメではないが、独特の感覚の物語を味わえることは確かだ。『性本能と水爆戦』や『性本能と水爆戦 征服』が著者の毒を含めて十二分に本質を味わえる作品群だが、初めての人は『ニッケルオデオン(青・赤・緑』やこの『メランコリア』からの方が入りやすいと思う。特にこの『メランコリア』は収められている作品と上下巻の全体的な構成が巧くハマっていて、すごくいいのだ。

 作品はAからZまで、アルファベットから始まる題名がつけられていて、全部で26作。それぞれが一話完結のショート・ショートとしてあるが、その全体の大枠として、メランコリアという彗星が地球に向かってきているという状況が全編を貫いている。

 そして、その破滅へ向かう大きな状況下で、様々な物語のフラグメンツが時には隣合い、またある時には思いがけない交差を見せ、しかし何の関係もない時もあり、というふうにAからZに至る物語は、やがてどことなくゆるいつながりを見せ始め、円環を描き出す(実際に全体の大きなキーであるウロボロスが出てくる話もある)。その円環具合が絶妙で、下巻まで読んでまた上巻を読み、その相はみ合うような物語の輪郭が、ぐるぐると読者の中で回り出すだろう。

 変に深刻にもならず、しかし軽すぎもせず、奇妙でへんてこで、しかしどこか愛すべき狂った物語たち。それらが絶妙に一つの世界を形作っている、そんな奇跡みたいなおはなし。