蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

 ケムリクサの11話にびっくりしたので、思わずこんな文章を書きなぐってしまった。一応、ネタバレは極力避けてますが、未視聴なら今すぐ観てください。

 

 ケムリクサが11話でその全容が明らかになったことで、『けものフレンズ』の再来みたいになってきましたね。構成的にはあの『まどか☆マギカ』っぽいですが、あれよりもかなり静かな形で進んできました。その辺はある意味かなりミニマムな製作体制だからできたのかもしれません。なんていうか、このアニメ、ビビるくらい従来のアニメが培ってきたアニメ的なケレン味がほとんど表に出ていません。派手なショッキング描写を要所要所に挟むことはないし、分かりやすいくらいの極端なキャラ属性もない(よく観ればキャラクターはかなり立ってるのだが)。そもそも、ほとんどの場面が赤と青灰色の廃墟で画面に彩がなく、キャラクターだって一人を除いてパーソナルカラーが同一、おまけに名前まで似通っていて、大丈夫なのかそれ、という見た目なのです。作品数が飽和状態で三話どころか一話で切られかねない現代にあって、いくら『けものフレンズ』がスロースターターだったとはいえ、地味極まりなくないか、という感じなのです。(『けものフレンズ』は一話ですごい! という見方はされなかったけど、なんかヘンなアニメがあるー、くらいに目立ってはいた)だいたいあんなことあって、勝負をかけるような作品でこんなリスクだらけな選択するか? と。よっぽど面白いと信じてないとできないし、視聴者を信じてないとできないですよ。

 そして『けものフレンズ』もそうなのですが、この『ケムリクサ』もなんというか、アニメ的な動きの快楽には重きを置いてません。いわゆるすごい作画とか、動きのタイミングやそれに合わせて音楽を重ねる、気持ちのいいミュージックビデオ的なアニメの快楽とは距離を置いているように見えます。とはいえ、たつき監督のTVアニメ以前の自主製作アニメでは、パロディを含め、そういったアニメらしいアニメーションをふんだんに用いていました。自主製作版『ケムリクサ』なども、いかにもなエフェクトやガジェットをはじめ、アクションも従来のアニメの文法に従っていたはずなのに、たつき監督はTVアニメからそういうものに、背を向けているように感じます。ただ、背景はかなりいいです。『けものフレンズ』はかなり分かりやすく、キャラクターよりもリッチな背景美術が作品に大きな役割を占めていました。『ケムリクサ』も同じくらいいいのですが、暗くて気づきにくい部分があります。ただ、幻想的な光景は『けものフレンズ』以上ですので、その幻想性に注目してほしいところ。

 私は正直、TVシリーズに期待していたことの一つは、自主製作時的なアクションシーンが増量されるのかな、ということだったのですが、そう言った戦闘シーンは結局のところほとんどないというか、今のところかなり抑え気味にしかなかったわけです。そしてこのアニメのほとんどは、なんと移動と会話によって展開されてゆく。

 登場人物が限られていて、雰囲気も同じような舞台で、歩いて会話するのがメイン――そんなアニメが面白いのか? それがきちんと面白い。よく分からない世界があって、そこにいるのは出自はおろか人間かすら分からないキャラクターたち。まったくもって分からないことだらけ。それが少しづつ明らかになってゆく。ただ、それでもどこか靄がかっていたのが11話で一気に晴れる――というかそれまでとは打って変わった、情報の質と量に圧倒されているうちに、えらいことが起きてつづく、ですからね……。そして、リスクとしか思えなかった世界観やキャラクターにもみんな物語的に意味がある。

 11話でケムリクサという世界の成り立ち、その仕組み、そしてすべての始まりが明らかになる。この11話がすごいのはそれによって一気にこれまで見てきたこと、特にキャラクターの関係性がガラッと変わることです。そして世界すらも一変してしまう。これまであった違和感が演出レベルで伏線だったと気がつくカタルシスは、SFでありながらミステリのそれです。そして、悲しくも愛に満ちた輪廻の物語だったこと、求めていたものがすぐそばにあって、これまでの光景が必ずしも絶望や悲愴ではなかった、ということに気がついた瞬間、絶望が始まる。なんて物語構成を作り上げたのかとビックリしましたよ、ほんとに。そして残る最後の12話、彼らはどうなってしまうのか。まったくわかりませんが、こうやってドキドキしながら次回を待つのは久しぶりという感じなので、それだけでもなんだか楽しいですね。

 蛇足としてですが、物語の構造が美しいアニメがこんな感じでアニメのメインストリームで爆発する傾向は、最近続いてる感じなので、私はその傾向はかなりうれしいです。なんていうか、庵野・宮崎ライン的な、ディテールの積み重ねのみで引っ張る影響下から外れた、全体構造を重視するアニメが出始めてて、それがメインで評価され始めているのは、次のステージに移りつつある感じもして興味深いです。もしかしたら、ワンクールアニメの乱立が、全体構成で勝負する傾向に淘汰圧をかけたのか。それはわかりませんが、今後の流れとして構成美はより重視されていくのかもしれません。