蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

 なんか久々に映画館に行ってきて『来る』を観てきた。原作は読んでいない。

 感想としては、後半からの奇妙な展開というか、そのどこかコミック的ともいえるテイストが評価の分かれ目かもしれない、という感じ。

 前半はかなりソリッドなホラーだ。巻き込まれ主人公視点で妻夫木聡演じる田原秀樹とその家族に迫る何か。秀樹の意味深な過去。そして同時にかなり軽薄な空気を纏う彼の他者に視点が変わった時のおぞましさ。そのまま行けば、かなり硬派でスタイリッシュな恐怖映画になっていたかもしれない。しかし、後半、この映画はかなり妙なテイストへと舵を切る。普通の一般市民的な人物視点で語られていた話が、キャラの濃い人物たちによる、除霊バトルのような様相を呈してゆく。国中の霊媒師を集めて、国家権力まで動員した壮大な除霊儀式はなんだかコミック的で、前半部との落差に戸惑う。

 話もまた、前半部分で組み立てていた諸々が放棄され、怪奇現象に対する理由や因果、原因といった「何故」はほとんど明らかにされない。

 でも、だから怖いのかもしれない。わけの分からないものにほとんど理不尽に襲われる恐怖。迫りくる「何か」も怖いが、それに取りつかれてしまう人間達もそもそもどこか変だ。ていうか、全編がどこか変で歪んでいて、何かが襲ってこなくても気味が悪い。私は、冒頭の親戚が集まるシーンや結婚式、新居に友人たちが集まるシーンなどが気味が悪くてしょうがなかった。ラストの子供の夢も失笑物の映像なのに、今思い返すと気味が悪い。

 黒沢清の何気ない日常描写のゾクゾク感とも違う、ゆがみや気味の悪さがある日常風景が、個人的には一番怖かったかもしれない。

 それにしても、ネットで感想見ると柴田理恵がカッコいいという声が大きいのね。確かに存在感はあったし、イメージからのギャップも印象深い。とはいえ、個人的には松たか子が一番カッコよかったんですよ。あとラーメンすするシーンが何故か印象に残る。