蒼ざめた犬

齧ったフィクション(物語)の記録。……恐らくは。

だだっ広い孤独:映画『荒野にて』

確かにわれわれ人間は弱く、病気にもかかり、醜く、堪え性のない生き物だ。だが、本当にそれだけの存在であるとしたら、われわれは何千年も前にこの地上から消えていただろう。 ――ジョン・スタインベック 孤独の風景。そのイメージはどんなものだろうか。部…

炎とその一瞬の静けさ:映画『プロメア』

CGアニメの一つの到達点といっていいのかもしれない。素晴らしいアクションが、アニメーションの“動き”の快楽が横溢している映画であり、早くも今年ナンバーワンのアクションアニメ映画が出てきちゃったかもしれない……というと気が早すぎるかもしれませんが…

ヒーローなんかじゃない:映画『タクシー運転手』

ヒーローでも何でもない男がいる。彼は貧しいタクシー運転手で、家賃を滞納しつつ娘と一緒に暮らしている。その日を生きるために働いている、ごく普通の男だ。初めはただ、支払いのいい外国人を乗せる仕事を耳にし、それをかすめ取って一儲けしようとしただ…

なんだか結局、全然上手く書けないじゃん、という思いがうつうつと重たくのしかかり、文章指南書に手を出すことにした。というわけで、鶴見俊輔の『文章心得帖』を読んでいるわけだ。いつまで続くか分からないにせよ、こんなふうに外に向けて公表する以上、…

映画という鉤爪:映画『マッドボンバー』

マッドボンバー [Blu-ray] 出版社/メーカー: キングレコード 発売日: 2018/05/09 メディア: Blu-ray この商品を含むブログ (1件) を見る 決してものすごく細部まで作りこまれた作品ではないのだけど、強烈で忘れがたいものとなる、そんな映画がある。この作…

「論理」の吊り橋が架からぬ場所へ:T・Sストリブリング『カリブ諸島の手がかり』

われわれが理性と称しているものは、ふつう思われているように絶対確かできっかりとした働き方をするもんじゃないんです。理性が働くところを調べてみたら、それが実にあいまいで、いくつかの仮説のなかからあてずっぽうに解答に飛びつくようなものだとわか…

のっぺりとした絶望の世界で:映画『太陽を盗んだ男』

DVD観て、そういえば昔、こんなの書いてたなというのを思い出したので。 『太陽を盗んだ男』――。長らくカルト的な扱いを受け、映画好きたちがひそかに、しかし脈々と語り継いできた伝説の映画は、やがて多くの支持を得てオールタイムベストなどの常連となる…

闇を払うは滅びの剣:麻生俊平『ザンヤルマの剣士』

今回は私の好きなライトノベルを紹介しようかな、と。まあ、ぶっちゃけ本読めないし、それっぽい感想というか、妄想もまとまらないので……。後々それぞれの巻ずつの解説というか感想を書いていきたい思ってはいますが、まずはざっくりした印象解説をとりあえ…

真っ白な牢獄:倉野憲比古『スノウブラインド』

ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授。その邸宅は蝙蝠館と呼ばれ、軽井沢近郊の狗神窪と呼ばれる小さな窪地に佇んでいた。そこはかつて住人が野獣と化したという奇妙な伝説が残る土地。12月、そこへ毎年の恒例として招待される教授のゼミ生たち。携帯の…

映画とか本とか創作物について何かにつけて分かんないからダメとかいう感覚、本当によく分から無いんですよね。みんな頭いいのかな。他人の考えた妄想ってそう簡単にわかるもんなのか、という感じになってきて、最近は分からなくても別にいいというか。その…

五月一日、ファーストデーだからということで、映画三本見てきた。セコイので安い日まで待っていたのだ。 とりあえず一発目は『シェザム!』だったわけだが、なんかあんまりノれなかった。というか、なんかもう、個人的にスーパーヒーロー物に食傷気味なのか…

それは、過去の希望の姿:映画『イカリエ₋XB1』

イカリエ、なんだか不思議な語感。聞きなれないこの言葉は、旧チェコスロヴァキアの映画のものだ。 1963年。鉄のカーテンの向こう側で、『2001年宇宙の旅』(68年)に先駆ける形で生まれたSF映画。そしておそらくキューブリックのそれに何らかの影響を与えた…

ここは、はるか遠くの国ではない:アンドレ・ジッド『ソヴィエト旅行記』

新たに作り直されたこの社会階級の上から下まで例外なく、最も評価されるのは、最も卑屈な者たち、最も卑怯な者たち、最も迎合的なものたち、そして最も下劣な者たちである。 ソヴィエト旅行記 (光文社古典新訳文庫) 作者: アンドレジッド,Andr´e Gide,國分…

うつし世VS夜の夢:江戸川乱歩『大暗室』

大暗室 作者: 江戸川乱歩 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2012/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 『大暗室』。乱歩の通俗長編の中ではタイトルからして比較的地味な印象で、特に語られることのない作品のように思える。筋立てもい…

ここ最近、なぜか平沢進の「パレード」を頻繁に聞くのだが、これを聴いていると江戸川乱歩を強く意識する。 江戸川乱歩といえば、隠れ蓑願望とか変身願望、「現世は夢、夜の夢こそまこと」みたいな言葉に代表されるように、ここではないどこかを求めるイメー…

そういえば、前回、じゃなくて前々回の記事で100投稿ということでした。まあ、こんな感じの雑文なんかも割かしあるので、厳密には違うかもしれませんが、なんだかんだで切りのいいとこまで続けられたということで。 それにしても、何というか一向に楽になら…

本当のプロパガンダは「怖く」ない:映画『NO』

NO (ノー) [DVD] 出版社/メーカー: オデッサ・エンタテインメント 発売日: 2015/04/02 メディア: DVD この商品を含むブログ (6件) を見る プロパガンダ。その言葉で何が思い浮かぶだろうか。いかめしい指導者の肖像画やポスターが学校を始めとする公共施…

世界はゆるく繋がっている:道満晴明『メランコリア』上・下

メランコリア 上 (ヤングジャンプコミックス) 作者: 道満晴明 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2018/03/19 メディア: コミック この商品を含むブログ (3件) を見る メランコリア 下 (ヤングジャンプコミックス) 作者: 道満晴明 出版社/メーカー: 集英社 発…

食べる孤独な姿にほっとする:施川ユウキ『鬱ごはん 3』

鬱ごはん(3) (ヤングチャンピオン烈コミックス) 作者: 施川ユウキ 出版社/メーカー: 秋田書店 発売日: 2019/03/19 メディア: コミック この商品を含むブログを見る この世には食べ物についての漫画があふれている。おいしいものを食べることの喜び、それを多…

ケムリクサの11話にびっくりしたので、思わずこんな文章を書きなぐってしまった。一応、ネタバレは極力避けてますが、未視聴なら今すぐ観てください。 ケムリクサが11話でその全容が明らかになったことで、『けものフレンズ』の再来みたいになってきましたね…

暗くてしんどいよ:映画『湿地』

“社会派ミステリ”ってやつの褒め方って、結構聞いてるとイラっとしません? 私はめちゃくちゃイラっとします。これぞ読み応えのある小説とか、重厚とかやたら言ってきて、だからなんだよ、みたいな。重々しければ小説としての価値が保証されるのでしょうかね…

詩野うら『有害無罪玩具』

有害無罪玩具 (ビームコミックス) 作者: 詩野うら 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2019/02/12 メディア: コミック この商品を含むブログを見る これは、著者が2016年からWebに公開していた長編漫画のうち、表題作を含めた三本と最後の書下ろしである『盆…

透明感のある幻想:オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』

不思議屋/ダイヤモンドのレンズ (光文社古典新訳文庫) 作者: オブライエン 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2014/11/21 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る フィッツ・ジェイムズ・オブライエン。彼はなかなか破天荒な一生を送った作家で、ア…

好きだからこそ闘う:山口つばさ『ブルーピリオド』

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス) 作者: 山口つばさ 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/12/22 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 今かなり来てる漫画というか、いいよと言われることが多くなってきたので読んだらヤバかった…

幻想は地べたを這いずり始まりを目指す 映画『ガルム・ウォーズ』

久しぶりに観たんで。あ、一応ネタバレで語るので注意です。 『ガルム戦記』――プロジェクト『G.R.M』。押井ファン、特に長年のファンには思い入れがあるタイトルだろう。そのパイロットフィルムを見て、日本がハリウッドを凌駕するSF超大作を世界に問う「幻…

私に衝撃を与えたミステリ10選

ツイッターでみんなやってたので、現時点の整理として自分自身の10作と、それについてそれぞれなんで衝撃だったのかを書いていこうかな、と。衝撃といっても、個人的な感覚とか結構あると思うし、どの部分が衝撃的だったのか説明した方が、その衝撃性が浮き…

生真面目でヘンな映画:映画『ヴィジット』

なんていうか、映画秘宝界隈でのシャマランへのアツい掌返し、というそーとー胡散臭い光景をしばしば目にする今日この頃。というわけでそういえばそんな監督いたな、という気分で久しぶりに手に取ったのです、M・ナイト・シャマラン監督作品というやつを。ま…

その瞬間、あなたはそこにいる:映画『ファースト・マン』

『ボヘミアンラプソディー』の感想を書いたときに、体験する装置としての映画がこれから増えていくだろうということを書いたが、この映画もまた、観る者にその過去の瞬間を体験させる映画である。「ボヘミアン」以上に徹底した体験追及型で、物語性や人物か…

アニメ・ウマ娘における“ライブ”の役割

BNWの誓いの記事に、ウマ娘のライブについて、視聴者は特にそれを期待していないと書いたが、アニメ・ウマ娘においてライブという要素は、本編の大筋とは別の形で重要な役割があると私は思っていて、今回はそのことについて書こうかと。 アニメ・ウマ娘には…

恐怖のチキン:映画『キラー・スナイパー』

Killer Joe メディア: DVD この商品を含むブログを見る というわけで、またもやフリードキン映画である。2011年公開の最新作で、ヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞にノミネートされたりした、久々に脚光があたったフリードキン映画である。内容は……いつもの…